第2話 パチプロもどき
塗装工時代、先輩がパチンコ・パチスロを始め様々なギャンブルをやって、借金まみれになっているのを知っていた。自分はやる事はないだろうと思っていた。
朝早く夜遅い引っ越しのバイトで、日銭を稼ぐ毎日に疲れていたAは、ふとした事でパチンコ屋に入っていく。
何気なく店内を見回るとパステルカラーの目を引く台を見つけた。色鮮やかな7セグを配置したその台には『ファンキーセブン』と書かれていた。
その彩りに誘われるがまま、席に着き撃ち始めた。三千円程使ったところでリーチが掛かり数字が揃いけたたましく台が鳴り始める。
大当たりだ。呆然とハンドルを握りつつ、あふれ出す出玉を見つめながら、つぶやいた。
「簡単じゃね?」
結局、その日はしばらく打ち続け2万程の勝ちを得て帰路についた。
家賃がほんの2時間程度で稼げたことに、自信を得てバイト帰りにちょくちょくと、パチンコを打つようになった。
負ける事も多かったが、それ以上の勝ちを拾い様々な台を打つようになっていた。のめり込むと没頭するAには、危険な遊びだと言う事は、自分自身で理解していたが、すでに暖簾に腕押し状態だった
バイトが無い時は、朝からパチンコ屋に行く事も多くなった、流石にバイトで稼いだ金とパチンコで稼いだ金は、分けて管理していた。それが功を奏したのか、生活はそこまで苦しくなかった。
釘の読み方も独学ながら覚えた。これ一本で食べて行けるか?と問われたら
『無理』
とも分かっていた。あくまでも生活の足しにしかならないのだ。そう考えていた最中、新装開店である台が設置される。
『ブラボーセンチュリー』
と言う台だ。この台の出玉性能に、Aの考えは変わりパチンコに更にのめり込んでいく事になる。
台の説明をすると1/256の大当たり確率で一回の出玉は4000発。金額にすると1万円になる。1回交換(大当たり一回ごとに玉を流す)と言うルールもあって、非常に甘い釘構成になっていた。
千円辺り30~40回転は回るのだ。余程の事が無い限り負けは無いと踏んだAは、バイトも行かず朝からこの台を打った。
低い大当たり確率もあり(当時メインの台は1/200~1/230程度)客付きは芳しくなかった。それもあり台選びに困る事なく、Aは日当を稼ぎ出していた。
朝から閉店までパチンコを打つようになり、僅かながらも貯金も溜まりだした。
新装開店は新台が稼げる事もわかった。だけど、安定したブラボーセンチュリー以外は打つ気にはならなかった。
これといった趣味の無かったAの趣味はパチンコと呼べる程打ち込んでいた。
そんな生活も長くは続かない。ブラボーセンチュリーが撤去される日が来た。代わりに入った台は『新要件機』と呼ばれる出玉が2000発ほどに抑えられた台になった
『流石にこれは打てない』
と思い、店内を回ると新しく入れられた『マジカルベンハー』と書かれたパチスロ台があった。
良く見ると、微妙にリールがずれている事に気づいた。この店は朝からパチスロを打つ客はほとんどいない。島を見回すと他にも微妙にリールがずれた台がある。
『これってモーニングってやつかな?』
モーニングと言うのは当時あったパチスロのサービスで、あらかじめ大当たりを仕込んでおく事だ。Aはすかさず台を押さえ7を狙った。
予想は当っていた。いとも簡単に7が揃いファンファーレが流れ出す。1回の大当たりで大体5000円程の儲けになる。
少し説明をはさむと、殆どの店はこういったサービスを行う場合、正午まで交換不可(換金出来ない)ルールを設けているのだが、この店は設けていなかった。
Aは大当たり後、すぐに交換し次の台へと次々移っていく。五台ほどのモーニングを拾い、ものの1時間程でその日の日当を叩き出した。
『他の客が気付くまでは稼げる』
そう思ったAは当面の間、パチンコを控えパチスロを打つ事にした。
朝いちばんでパチスロの島に乗り込み、昼間でモーニングを漁る。今の段階ではこれが一番効率がいい。Aはこのルーチンを徹底した。
二週間程経った頃、店に変化が見られた。それまで開店30分前に行っても誰も並んでいなかったのが、この日は先客がいた。
若い大学生風の青年が、三人ほどでパチスロの話をしていた。当然の如く彼らはわき目も振らず、パチスロの島へ飛び込んでいった。
青年の一人が賢しら顔で話した。
「言った通りだろ、リールがずれている台がモーニングなんだぜ」
それを聞いた他の客も台のずれを確認して、台を押さえていく。
明日からは朝一の人が今日より増えるだろう。平打ちして勝てる程、甘くはないとAは知っていた。
「ここまでかな」
Aはコインを流し、パチンコ屋を後にした。
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