或るおっさんの浮浪日誌

ぼよよん丸

第1話  プロローグ

『Aは校内で2番目に知能指数が高い』


 中学二年のAはうつむいたまま、教師の話に耳を傾ける。語気が強く何か良からぬ事をいう事が予測出来た。


『こいつは将来犯罪者になる奴だ‼お前ら相手にするなよ』


 その後のAの中学生活は、これで決まった。

 今のご時世だと、やれ子供の将来が、やれ人権がとのたまうだろう。

 残念ながらAはそれがまかり通ってしまう環境にあった。親がいなかったのだ。正確には”親に捨てられた”子供だった。

 養護施設の子供なんて庇ってくれる大人なんていない。教師にとって都合のいい子供だった。ちょっとしたことで体罰を与えても文句の一つも出ない。

 子供達をまとめるには体のいい生贄だった。こういう子供はいじめられっ子になりやすいが、Aをいじめる生徒などいない。

 Aはやられたらやり返す子だった。相手にしない事が一番だとみんな理解していた。班決めの時など、Aの押し付け合いが始まる程嫌われる事になった


 Aが無口になってから一年が経ち、高校受験の季節をむかえる。Aも高校進学を希望して父親に手紙を書いた。

 数日後、怒り狂った養護施設の保母がAを殴りつけて来た。手紙の返事を自分宛にではなく、養護施設にクレームを入れてきたのだ。

 それも父親本人ではなく、その母つまり祖母からのクレームだった。Aの事を蛇蝎の如く嫌っている祖母のいい分はこうだ。


『長男は勉強などせず、おばあちゃんの為に働いて金をよこせ」


 それでもAは高校進学を希望した。中卒だと働き口が限られる事を理解していたからだ。が、すぐに無駄な抵抗だと悟る。

 父親が高校の身元引受人を拒否したのだ。

 結局、Aは地元から逃げる様に遠く離れた東京に塗装工として就職した。

 四年間勤め上げるが、父親の借金取りの電話が、朝晩関わらず寮や職場に掛かってきた。これに耐えかねた親方が苦言を呈した事に、Aは切れて殴ってしまう。

 この件でAは会社をクビになり、寮を出る事になった。幸いにも知人の伝手で、保証人無しでアパートを借りる事が出来た。

 Aは身元引受人がいない上、中卒である事で就職が難航した。結果的に引っ越しの日払いアルバイトで食つなぐことになった


 ここからAの長い浮浪が始まる。

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