第十三章『からっぽの星 FEAR PAIN』
「……何だ、今の」
あの奇声の影響だろうか。吐き気がしてきた。思わず口を抑える剣次。
「姫百合さん。そっちどうなってる?」
返答がない。
「姫百合さん?」
『……食われた』
「は?」
『私にもわからないです。あの黒いのがデカくなった瞬間に、全部ブラックアウトして――――』
眉をしかめて自分のスマホを見る。ネットに繋ごうとするとやけに接続が重い。ワンセグに切り替えてテレビを見ようと思っても変調をきたしているようで砂嵐ばかり。
不意に全て元に戻った。
否、元の状態ではない。画面はどこかの夜景を映し出している。
その夜景の灯りも不調らしく不自然に瞬いていた。
「ここ、さっきの秋葉原か?」
そのビル街から浮かび上がるように、何か巨大な影が浮き上がってくる。
「まさか」
客席からスタジアムの外を眺める。
天に星。星の海。
地に影。闇の獣。
「あれが、ナイトメア…………?」
どこからか、ひああああああああああああああああああという不快な奇声が響く。
はるか彼方の地平線まで続く夜景の上で巨大な黒い狼が身を起こし始めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『天もなく。地もなく』
獣の口から漏れる言葉。それは耳からでなく人々の頭に直接響く。
『死ねや死ねや、人類は歩き回る陽炎に過ぎない』
『文明、文化、すべてくだらない』
『死んでしまえばいい。滅びてしまえばよい』
『全ての者が仇人で、我は世界が用意した絶対応報であるのだ』
高層ビルほどの大きさの足が振り下ろされる。
人々は逃げ惑い突っ走り、獣は吠えたてる。
死んでいく。
滅びていく。
まるで彼らの宇宙が一切合切咆哮をあげているような混乱と混沌がそこにあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『何が起きたんすかっ!』
「遠すぎてよく見えない」
『だったら近づかんかい!』
「わーったよ」
国立競技場を出た剣次はすぐに駐車場に停めてあるセダンに乗り込んだ。
「借りたもんだからあんま傷つけたくないんだけどなあ。まあやっぱ怪獣に突っ込むことになるよな」
アクセルを踏み込む。目指すは秋葉原。先行したアッシュを追いかけるのもそうだが、狼のような怪獣のことも気になる。
それに『教授』だ。警官たちの混乱に乗じてマイを連れて逃げられたら全てが水の泡だ。
「姫百合さん。ネット配信とかテレビ映像は?」
『何とか繋がります。速度最悪だけど』
「『教授』なんか言ってるか?」
『いや、だんまりです。たぶんもうアクセスしてないんじゃないですか』
「そうか。じゃあ姫百合さんは中継映像見ててくれ。マイが移動したり怪獣が暴れてたらすぐ報告で」
夜道を走らせながら巨狼の姿を遠目に確認する。これまで見てきたバトルビーストと比べても格段に大きい。体高が東京タワーとたいして変わらない。
あまりのサイズに夜空の星が全てかき消されそうだ。
「これもバトルビースト……ってことは物理的な影響はなくてホログラムみたいなもの……でいいんだよな……」
自分を安心させるために呟く。
これから突撃する身としてはできるだけ不安は取り除きたい。
しかし、
『いやあれ普通にビル踏み潰してます。あのバトルビースト、本物です』
うそだろ。
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