第四章『電車が参ります PLEASE STAND BEHIND』
彼女の好奇心はとどまるところを知らなかった。
彼らがこのような事態で騒ぎ立てるときはきまってなにか行動を起こす。楽しみだ。
前に出会った人物もいた。前は話しかけても通じていないようだったが、今度はその失敗はいかすつもりだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
剣次たちはあれよあれよと鞘香の事務所に連れ込まれた。
この事務所の警官は出払っているようで鞘香と岩魚、それに剣次しかいない。
岩魚と剣次は隣り合って座り、その正面に鞘香が座る形になっている。
剣次はこの姉を見るときまって一振りの日本刀を連想する。
「野次馬に粕漬がまじっているかと思った」
鞘香が口を開く。昔からの一太刀一太刀浴びせてくるような話し方だ。
「酒臭いぞ」
剣次は姉のその態度が気に食わないので自分に対するその言葉を無視した。
剣次はむっつりとだんまりを決め込んでいるので鞘香は岩魚に話しかけることにしたらしい。
「で、そちらは岩魚さんだな。弟から話は聞いている」
「いえ、私の方こそ。貴女の話題は剣次から聞いています。今は警視庁科学捜査研究所特別顧問、でしたっけ?」
「ああ、それにしてもあの名前をよくすらすら言えるものだな」
「カッコいい肩書じゃありませんか」
「嘘でしょ先生」
剣次たまらずツッコむ。
カッコいい? あれが? めちゃくちゃ長いし読みづらいじゃないか。
「剣次が警察にくればすぐ出世させてやるんだがな……」
「行くかよ、俺はコネで入るのは嫌だって言ったろ」
「コネも実力だ」
ふてくされたようにそっぽを向いて言う。
「俺はなにより姉さんや親戚連中と並ぶのが嫌なんだよ」
剣次の一族はほとんどが警察か自衛隊に入り、そのうえで全員がそれぞれの分野で抜きんでた才能を発揮し、無双と言ってもいい活躍をしているらしい。
「俺には取り柄なんかないのは姉さんが一番知ってるだろ?」
「そうだな」
即答する鞘香。この話題は姉弟で何度も繰り返してきたのだ。
剣次をしいて褒めるなら行動力くらいだ。
「まあ話を戻しましょう。あの捜査はなんなのですか?」
岩魚が問いかける。対して鞘香あっさりと情報開示した。
「午後の七時ごろ通報があってだな。男子トイレが陥没したとのことだ」
なんでもその下に巨大な人口空洞が発見されたらしい。正しくは『廃棄された古い地下鉄』であるが。
戦前にある財閥が私的に利用しようとしたらしいもので目下探索中。なかで人骨を発見。骨は最近のモノだと解り刑事事件に発展したところで穴の中にいた警官たちが『なにか』に襲われた。
「と、まあこんなところだ」
これ以上はまだなにもわかっていないらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
事務所を出る際に鞘香に言われた。
「
とりあえず二人で地下鉄に入る。
遅いからか閑散としているホームから電車に乗り込んだ。
岩魚は居眠りをはじめて、剣次はヒマなのでスマホを取り出して適当にいじっていた。
(メールの処理でもやるか)
慣れたものでほぼ思考せずにゴミ箱に送るものと必要なモノによりわけていく。たいした時間をかけずに作業自体は終わってしまい目標の駅までどのくらいだろうと乗り降り口の上の路線図を見るために顔を上に上げた時。
窓に何か見えた。
四角い連なった明かり、向かい側で電車が走っているのだろうか。
ながめていると人影が見えた。
窓をたたいている。
何人も。
――――助けを求めている?
夜の終電車。
(……でた!)
頭の中でニューロンがどぱどぱ電流を垂れ流し、思考が加速する。
しかし脳が結論を出すまえに光の列はわきに逸れて見えなくなった。
駅到着のアナウンスが同時に響き、岩魚を叩き起こす。
「……え、電車? 出たんですか?」
とりあえず電車を降りた。
岩魚に説明してから提示されていた路線図を確認する。
ここに到着する直前、列車はわき道にそれるようにしていなくなった。さっきの車両は下り。
ということは自分が降りた線路の登り方面に道があるはず。
だがこの駅周辺で分岐する路線はないらしい。
ということは未使用の地下鉄か。
夕方聞いた戦前の地下鉄の話を思い出しながらトンネルをのぞいた。
暗くて良く見えない中で寒々しく灯りが揺れているだけでなにもわからなかった。
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