第三章『剣次と鞘香 SWORD & SCABBARD』

 彼女は好奇心旺盛であった。

『彼女』と仮に表現したが彼女自身は特に性別を意識してはいない。

 単に彼女が生産する配偶子が卵子であるだけのことである。

 とにかく、彼女は目の前で展開される状況に興味津々であった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 駅構内のトイレは黄色のテープが張り巡らされ、警察関係者が中で動き回っていた。

 中はめちゃめちゃに荒らされた跡らしく砕けたタイルが飛び散っている。

 ちなみにテープの外は野次馬たちが群がっていて、剣次たちはよく見るどころではなかった。

 必死で聞き耳をたてた結果。

「仏さんがいるそっす」

「仏さま?」

「はい。しかも白骨化してるらしいっす」

「そんなに長く隠されていたのですか? トイレの中に?」

「いや、……そこまではよく」

 ただ白骨体であることは間違いないと思われる。

 タンカの上で布に覆われて運ばれていくものが、人間にしては小さすぎる。

 遺体の次には制服警官数人がトイレから出てきた。

 全員、負傷しているようだが血が出ているのは目や鼻ばかり。

 その目は焦燥しきって濁っていた。

 よっぽど疲れたのか。

 その時、地下鉄が通過する重音が鳴り響いた。

「……ぅわああ! あああああ!」

 いきなり負傷した警官たちが寄るな来るなと暴れだし周りの警察方に押さえつけられていた。


「状況がよくわかりませんね。ちょっと聞いてきます」

 岩魚は近くにいた刑事に話しかけて、二言三言で帰ってくると

「無理でした」

 と頭を下げた。

「ダメっすねー先生は、聞き方ってもんがなってないっす。俺が手本を見せてやりますからね。これからは同じようにやるんすよ」

 岩魚を思いっきり見下し楽しんだ後、剣次も同じ刑事に挑戦する。

 もちろんつっけんどんに扱われるが気にしない。

「いやー、でもなんかミョーな状況っすよねー? 普通じゃねえっつーか、不思議怪奇っつー感じっすねー。なにがあったか教えてくださいよ。ちょっとでいいんす」

「ダメだ。捜査の性質上秘密にする必要がある」

「えー、んなこと言わないでさ。なんでこんなに人員がいるかでも」

「捜査上の秘密だ。とっとと失せろ」

 ぶー、と心の中指を刑事に突き立てて、さてどうやって聞き出そうかと考える。その時に背後からの声、

「ダメだなお前は、聞き方ってもんがなってない」

「うぇっ!」

 文字通り飛び上がって驚いた。

 脊椎にいきなり氷水を流し込まれたらこんな風になるだろう。

「なにを驚いているんだ。それより就職はしないのか」

 それなりに高い階級を示すバッジがついた制服で身を包み、氷のような目つきでこちらを向いている女性がいた。

 その女の名は真田鞘香さなださやか

 青年、真田剣次さなだけんじの姉である。

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