第十四章『激突 APOCALYPSIS』
「な、なんてことをしてくれたんだ貴様はっ」
「それはレオをけしかけたこと? 最善策だと思うけど?」
青い顔をして噛みついてくる防衛長官に四川めぐるは涼しい顔で返した。目線はX獣と戦うネクストから少しも離さない。
「だが、怪獣を解き放つなど……」
「では長官殿、進化適応能力を失ったとはいえあのX獣の大群を殺しきる戦力が自衛隊にあると? それにレオはただの怪獣じゃない」
四川はどこか浮かれている。口調も自慢げだ。
「遺伝子学の権威、ザリーナ地帯のとある博士が『怪獣から人類を守るための怪獣』という目的で作り出したハイパークローン怪獣。何十種類もの怪獣の遺伝子を組み合わせて作り上げたX獣と発想を同じとする生物。
饒舌に謳いあげる。自分の息子のように誇らしげに、
「それに、今日は木曜日でしょう?」
四川は戦場と化した演習場からくるりと背を向け長官の顔を正面から見た。
「見れるわよ。『木曜日の皇帝』の王政が」
両者は激突し、演習場を巻き込んでの戦いが始まった。
ザ・ファーストは既にネクストの熱線攻撃に耐えられるだけの防御力を得ている。
殴られようが噛みつかれようが問題ではない。が、それはネクストとて同じこと。ザ・ファースト程度の攻撃力では致命傷を与えるには至っていない。
前回の戦いで学習したのか急所は確実に守っている上に元よりネクストは多少の傷は戦っている間に再生する。
「BBBBBBBB――――ッ!」
ザ・ファーストが開口した。口腔内が青白く発光し熱線のチャージ動作を始める。
「ガァッ!」
ネクストはその顔面に掌を叩き付け、思い切り握り潰し口を塞いだ。
――――ブボッ!
熱線が口内で暴発しブスブスと煙を吐きながらザ・ファーストはよろめく。
その瞬間、ネクストの筋肉の塊のような太い尾による一撃がザ・ファーストの側頭部に命中した。態勢が大きく崩れる。
――――――カ!
さらにむき出しにした横っ腹にネクストの結晶体からの熱線が直撃し、ザ・ファーストは吹き飛ぶ。
「GPLLLLLLLL―――――ッ!」
航空機の滑走路を削りながらザ・ファーストは地面と平行に飛ばされていくが途中で地面を蹴って熱線から逃れた。
さらにそのまま飛翔しネクストの上空を旋回する。
「BVVVVVVVLLLLLL――――ッ!」
再び熱線を放とうと口を開く。安全圏からの射撃で勝負をつけるつもりだ。
しかしザ・ファーストはまだ気がついていない。ネクストの真価はX獣と同じく技の多彩さにあるのだと。
「ガッチィッ」
ネクストの胸にあるレンズ状の水晶体から火花が散った。
散る火花は次第にその回数と間隔を加速させていき、しまいには全身、主に背びれに波及する。ネクストの肉体をスパークが覆う。
スパークはさらに激しさを増していき、ついにブオン、という剣を思い切り振るような音と共にオーロラが発生した。ネクストの周囲を魔方陣のように取り囲む。
「ぐうううろろろろろをををををおおおおおおおお――――ッ!」
電磁棘がまるで光輪を背負うかのように展開される。
思い切り身をのけぞらせ天高く咆哮。ビリビリとネクストを中心に大気に激しい波紋が広がっていく。
「KYAAAAAAA――――ッ!」
何か大技が来ると判断したか、ザ・ファーストが熱線を諦め回避行動に移る。
しかし、その大技は真上から来た。
ザ・ファーストにはそれを認識することもできなかったであろう。現れるのに空には何の前兆もなかったのだから。
その攻撃は古代においては神の怒りとされそのエネルギーを自在に操れるのは神の特権とされていた。
それは雨のように数多の――――落雷。
一瞬の閃光が先で、音はその後に来たのだがザ・ファーストは音までは認識できなかった。無数の雷撃が鎗のように全身を貫き、細胞を沸騰させていたからだ。
即死だった。
電撃への耐性は他のX獣からの情報共有によりある程度はあった。だが落雷は規模が違う。電圧は十億ボルト、瞬間的に三万度の高熱を発生させ、そのエネルギーは核爆発をも上回る。
適応進化能力を失う前ならザ・ファーストは耐えたかもしれない。が、
「…………」
開かれた口から何かが漏れた。しかしそれは呼吸などでなくただの焼け焦げた空気の放出であった。
そのままかつて悪魔とも称されたX獣・ザ・ファーストであった魂の抜けた物体は地上へ墜落し、ネクストに頭部を踏み砕かれる。
「GHAAGGGGG!」
「KYTTAOWWW!」
「MMMNNKLPOUUU!」
ソレの光景を目の当たりにしたX獣たちは激高し、ネクスト目がけて一斉に襲い掛かった。
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