第十二章『二体の巨人 Project N』

 最初は四十二年前に始まった。

 次元を割って現れた黒い巨人。その圧倒的なパワーと進化能力で文明を壊滅寸前まで追い詰めた。

 その時、別の次元からもう一体、銀の巨人が現れて黒い巨人と戦い始めた。

 結果、銀の巨人が勝利し『彼』はどこかへ去って行った。

 黒い巨人は銀の巨人の光線により爆散し、残ったのは巨人の胸についていた紅い水晶体の破片。

 初期の胚にも似たソレを人類は記念品として保管した。それも半年ほどで飽きられ博物館の倉庫に仕舞い込まれた。

 だが人類は疑い調査するべきだったのだ。なぜ黒い巨人は爆散しそんなものを残したのか。

 ――――黒い巨人は生きていたのだ。

 何年か経って、また黒い巨人と同様の進化能力を持った怪獣が出現した。大苦戦の末に退治。

 また現れた。再び退治。しかしまた出現、退治。

 疲弊した人類はようやく疑い出した。

 なぜこんなに似た怪獣が出現するのか? しかもサイクルが短くなっている。

 しかし誰にも分らないでいるままに、一度に複数出現するようになった。

 悪戯に数を減らしていく人類。

 そしてある者が、あの最初の巨人が残した石に気が付いた。

 それが――――平行宇宙の四川めぐる。

「四川は大学にいる私に分析を依頼してきました。調べてみれば驚きました。石と思ったものは生きていて、しかも活発に活動していたのですから」

 エネルギー源はあの細胞小器官『X小体』。ある種の縮退炉のような使い方をしていたらしい。

 更に巨人の石はしょっちゅう姿を消した。

 ある時、その石の研究の手伝いをしていた助手が石に刺激を与えようとして消えた。

 二日ほどで帰って来たが、助手自身は全く見知らぬ風景の世界にいたという。

 ――――助手は、別の平行宇宙へ飛ばされていたのだ。

 本来X獣には平行宇宙を移動する能力はない。

 あるのは遺伝子情報交換の力のみだ。

 そのはずが、この石は平行宇宙から自在に物質を移動させていた。

 他の平行宇宙から、他のX獣さえも。

 その辺りの時期、世界の科学者たちは二つの事象を報告した。

 一つは木星付近に出現した巨大な天体。生物に見える。

 人々はその天体の観測結果に絶望した。

 間違いなくそれは無数のX獣の死骸からできていた。

 しかも質量が増加し続けている。

 さらに他の似たような天体の報告もあった。

 質量はより高密度に、さらに重く。

 無数のX獣たちによりブラックホールが形成され始めていた。

 気づいた時にはもう遅い。何とかして黒い巨人の石を制御しようとした。

 だが状況は悪化、更に大量のX獣が召喚されたのだ。

 その時、その世界の地球は消滅した。

 

 半分に千切れた髪の彼女と共に、別の平行宇宙へと飛んだ巨人の石を除いて。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 愛おし気に、自らが背負っていたリュックを撫でる平行アンゲリカ。

「――――そう。この中身は……」

 リュックのあちこちの紐をほどき、ファスナーを開ける。

 中に手を入れ、ずるりと大量のコードに繋がれた物体を取り出した。

「コレが、紅い石。黒の巨人が残したもの」

 怪しく血のように赤黒く脈動する物体。宝石のような結晶体。

「平行世界を貫通して経験値を共有する怪物、X獣……」

「そして彼らを操り、自らは平行宇宙を漂流する黒の巨人」

「数限りない平行宇宙を渡り歩く中で、こいつを制御する術を身につけました」

「そして――――」

 ぎゅっ、と恋人の形見が如く石を抱きしめる平行アンゲリカ。

「この世界、114514界で、コイツを殺します。この世界と他のX獣と、……私も共に」

 微笑を浮かべる。が、それは今にも消えてしまいそうに儚く。寂しい。

「私には帰る世界などないのですから」

「この世界で暮らす気はないのですかっ? 誰も文句は……」

「前にいた世界でそんな気になりました。でも……」

 そこは、自分の世界ではない。

 自分の知る何もかもが存在しなかったり、違ったりする。

 何より、その世界の自分がいる。

 何事もなく。明るく。自由で奔放に生きている。

「嫉妬、ですか? 私が? 私に?」

「そうです。自分に対する嫉妬。情けないです。でも一度思ったらもう止められませんでした」

 ごめんなさい。だから一緒に死んでください。

 そう平行アンゲリカは頭を下げた。

 アンゲリカは困ったように苦笑いして、耳の裏を掻いた。

「いや、でも私この世界けっこう好きですしっ? 心中する気はないですよっ」

 髪の短いアンゲリカが眉をひそめた。

「……何かあるので? この状況を打開する策が」

 髪の長いアンゲリカがニヤリと笑った。


「X小体が何に由来するのかっ? わかりますかアナザー私」

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