五章『痕の祀り AFTER TOMORROW』

 真っ白い病院の廊下を歩く。

 窓を見ると、広がるのは太平洋。

 ぼうっと眺めていると魂まで抜かれそうな気分になる。

「なーにカッコつけてんですか剣次けんじサン! 別にカッコよくともなんともありませんよ!」

 魂まで抜かれることはなかった。

 廊下の壁でアンゲリカが待っていて、剣次を見つけると大騒ぎを始めたからだ。

「病院で騒ぐなアンゲリカ・ドレクベルク」

「エ~。せっかく待ってた相手が来てはしゃがない人なんかいませんよー」

 今日は簡単な検診である。

 あの島のことだ。

 実はあっさりと終結したのだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『みなさ――ん! 大丈夫ですか――!』

 拡声器で増幅された声が上空から聞こえてきた。

 救難信号をひろった救助隊の大型ヘリがホバリングしていたのだ。

『自衛隊の攻撃が始まりまーすー! 衝撃に備えてくださーいー!』

 続いて閃光と爆音。

 黒い霧を切り裂き飛来したミサイルは正確に魔人に直撃した。

 魔人の胴体が吹き飛びバランスが崩れる。

『をおおをををっ……おおおう……』

 怪物たちの黒いカーペットに倒れこんでいく。

 続けて怪物で構成された波にもミサイルが撃ち込まれると、灯台にあと少しで触れそうだった津波は爆炎と共にあっさりと瓦解した。

 そして流れるように救助隊の職員が降りてきては剣次たちを引き上げ用タンカに括り付け引き上げていく。

 そのまま余計な事をするわけでもなく島から離脱したのである。

 最後に見たものは、

 黒焦げの体を爪先から怪物に食い尽くされる魔人の姿だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それにしても大丈夫かアンゲリカ。声が少し枯れてるぞ」

「吸っちゃったスモッグのせいですよ。すぐに元通りです。心配しなくても大丈夫ですよー」

 からからと笑う。元気だ。

 あんなことがあったのに。

 ふと海原を見て病室で考えていたことを思い出した。

「なあ、アンゲリカ。少し考えたんだ。あの海のこと」

 少し、深呼吸して話だす。

「あの海域は……」

「待ってくださいよ剣次サン」

「なんだよ?」

「解説を始めるときは『さて』で始めなければなりません」

「……まあ、いいけど」

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