三章『暗黒の海 DEEP BLUE』
作業員たちが甲板で咳き込みながら転げまわっている。
見回すと、黒い霧のせいが周囲の視界はほとんど闇に包まれていた。
遅れて到着したアンゲリカや他の船員と協力して船室へ運び込んでいく。そうしていく間にも息が辛くなってくる。
突然、パン、パン。という破裂音。
さっきまで作業員たちが集めていたはずの微生物のサンプルを入れた水槽が次々とはじけて溶けだしていた。
「
どこからかアンゲリカの声が聞こえている。すでに視界は黒一色で自分の周りのわずかな範囲しか見えない。それでも音のする方に足を動かした。
べたり。
「ひっ!」
足に何か巻き付いてきた。見た目はゲジゲジのようだが、それは細かい足をびっしりはやしたウナギだった。
「いっ、うあああああああ!」
半狂乱になって蹴ること数回で海の中にぽちゃんと落ちる。
落ちたあたりの海面からブクブクと泡のはじける音がしだし、引き付けられるように海の方を向いてしまう。
羊水のようにどろりとした海水から苔色の物体がせりあがる。
心臓のように胎動するタコの頭。そこからカーテンのように垂れさがる大量の触手。白濁した曇りガラスのような目玉。
触手同士が絡み合い、腕を、胴体を、指を形成し深淵からの化け物は巨大なヒトガタとなった。
ざざん、むうううん。
ざざん、むううううん。
粘りつく粘液の海をかきわけ怪物がその腕を調査船に向かって伸ばしてくる。
船を捕まえる気か。
感情を一切感じさせない灰色の眼球に、魂を吸われたように崩れ落ちている剣次の姿が映る。目が合った。
「スクリュー動いたぞー!」
その時、船が鈍い音をたて動き出す。
危機一髪で船のエンジンがかかったらしい。
最初はゆっくりと、徐々に速度をあげて海域から離脱する。
しだいに黒い霧も晴れてきて、太陽が顔を出す。
バケモノは憎らしそうに太陽を見て海面下へと沈んでいった。
もう、調査どころではない。
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