怪しい海 深海怪獣『霧の魔人』登場!
一章『縮む島 DATING』
考え事をしていたような気もするが、暑さで脳がねろんねろんになり全部忘れてしまった。
「むあー」
初めての船でテンションがあがるのも最初だけ、あとは降り注ぐ紫外線にやられて疲れるだけである。そうして干された洗濯物のように手すりにぶら下がっていると疲れる要因がもう一つやってきた。
「やー、どうしたんですか剣次サン! 最初から疲れててどうするんですか剣次サン! なんとか言ってくださいよ剣次サンっ! ねえねえねえねえねえねえ!」
遊ぼうよ遊ぼうよ遊ぼうよと背中をバンバン叩いてくる首からカメラをぶら下げた金髪碧眼の少女。一見未成年に見えるがれっきとした社会人である。彼女の名はアンゲリカ・ドレクベルク。剣次の大学時代のある事件で知り合ってからの腐れ縁だ。
アンゲリカはとあるオカルト雑誌の記者をしており、その関係であちこちに取材に出かける。
剣次は同行だ。断ってもよかったのだが太平洋の小さな島だと聞いてなんとなく興味が出た。ちょっとした観光気分である。
「それにしても、よかったのか俺なんか呼んで? 俺は機械いじりもできないし、お前の手伝いも船員さんの手伝いもできないぜ」
「あー、そりゃ構いませんよ。剣次サンが無能なのは皆サン知ってますし、力仕事してもらうくらいですね」
「ふーん」
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが気にしない。
「ああ、それはそうとして私たちが停泊する島なのですが……」
アンゲリカが海図を広げる。
「島が見えたぞー」
甲板で見張り役をしていた剣次が声をあげた。
船が向かう方角に小さな島が見えてきた。灯台が一本建っているが、それを建てるのが精いっぱいという感じの小さな島だ。
周囲一キロはさすがにあるだろうが。
「島……ってイメージじゃないけど、こんなものか?」
いわゆる沖ノ鳥島と同じ、二百海里確保のためにある島らしいのでこんなものなのかもしれない。
そのみすぼらしさはあまりにも想像とかけ離れすぎていた。
「ええハイ島ですか見えましたかただいまただいま」
バタバタとアンゲリカが甲板に上がってきた。そして首をかしげる。
「んー、やっぱり小さくなってますねー」
「島が?」
「ハイ。私は去年来たことがあるんですけど、さすがにもう少し大きかったですよー。職員一同それで今、揉めてまして」
剣次が乗っている船はいわゆる調査船である。
調査は汚染物質の海への影響について。
近年発達してきた中国や東南アジアの工業地帯からの有害物質が偏西風により太平洋へ運ばれ、島々や海の生態系に様々な影響を与えているそうだ。
そして、この付近の海域は海流がきわめて閉鎖的であり、図にするとまるで檻のように渦巻いているらしい。
つまり飛んできた有害物質が出て行かず蓄積される。
アンゲリカのいう去年の調査では煤煙粒子から酸性雨まで幅広く観測されたらしい。それが今年だといったいどんなにひどいことになっているのだろうか? というのが今回の調査研究旅行の趣旨である。
それでも島が縮むのは予想外なのだろう。
操舵室の方を振り向いてアンゲリカは少し不安そうな顔をする。
「まあ、灯台守さんたちに聞けばイッパツですよね」
観測所も兼ねている灯台には機械の整備などの都合上職員が生活しているらしいのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あのー誰もいないんですけどこの島」
島に到着した途端に灯台に飛び込んでいったアンゲリカが報告した。
「やけに早かったぞ、よく探したのか?」
「探しましたよ探すにきまってんじゃないですか。一階から最上階までダッシュで行きましたとも。だいたいここ幽霊船みたいで怖いんですよー。夢に出ますよー」
半泣きのアンゲリカの言動に首をかしげながら調査団灯台ツアー一行は誰もいない灯台の探索をはじめた。
なにかの破片があちこちに散乱しており、階段は錆びついていていまにも崩れてしまいそうだ。最上部にはボロきれと割れたポリタンクが散らばっていた。機械はなんとか生き残っているものの、あちこちボロボロになっていた。人の痕跡はない。
灯台守も、人影も、死体も、なにもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます