三章『共同戦線 ASSEMBLE』
カラスが鳴く夕焼けの中、河川敷をとぼとぼ歩くとんかつと塔香。今日は他のみんなはいない。
ぬィ、とんかつが一声鳴いた。
「――ああ、あれは虐められてたんじゃないって」
大丈夫、と言う塔香を心配そうにのぞき込むとんかつ。
視線を避けるように河川敷に座る塔香。
少しずつ沈みゆく夕焼けを眺める一人と一匹。
「お母さん、再婚するって。仕事の人と」
ぽつりと一言。
「再婚すればお金もできるから都内の私立にもいけるっって言ってた…………苗字は変わっちゃうかも」
紅殻町を照らす紅い光が、向こう岸の倉庫に隠れる。
「――とんかつも、連れてかれちゃうのかな」
塔香を見つめるとんかつ。ぐゥー、と腹の虫一つ。
「あんたは変わらないねー」
少し笑顔になれた。もう帰ろうと腰を浮かせた時。
「……あ」
「みァ?」
一番星を二人で見つけた。はしゃぐとんかつ。
「……ホントに星が好きなんだね」
二人並んで暮れゆく空を見上げる。
「ねえ、とんかつ。……宇宙、行きたい?」
少し間を置いて、答え。
「…………――――あい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はあぁっ!」
後ろの席で
「そ、それをやるの!? どうやって!?」
「いや、それはまだ考え中というか……」
頭を掻く塔香。珍しく黙って話を聞いていた須田が、
「池波、今から言うモノ取って来い」
「は? なんで私が」
「いいから、はよ行け」
渋々教室を出る池波。須田の目が笑っていた。
「……あんた何考えてんの?」
廊下の真ん中で理科教師、
目の前には小さなとんかつの人形。
「……ったく、誰が」
拾い上げるとその先に、とんかつの写真。
更に拾うと、その先に、『二年二組 とんかつ』の名札。
「ねえ、ホントにこれで上手くいくの?」
困惑している塔香。廊下の端には居眠りするとんかつ。
その上にはなぜかロープが下がっている。
「大丈夫なのホントに」
ばしゃーん。次の瞬間大きな音。
「えっ?」
驚き慌てるとんかつと、網の中でもがく清浜先生。
「うわ! ホントに捕まった!」
池波と小躍りする須田。
「うわ、ホントに捕まった……」
ちょっと引いてる塔香。途端ガバッと網がまくられ。
「くォらガキどもぉお!」
キレる先生。逃げる子供たち。散らばったとんかつグッズを拾い集めながら先生お付きの真田が一言。
「やめてくれねえかなあ」
両者ともにある程度落ち着いたところで理科室に移動した。試験管や冷蔵庫が並び、少し紫煙が漂うその部屋は清浜先生率いる生物部の城塞だ。
回転椅子に足と腕を組んで座る先生。
「……で、あー。さっき言った事」
じろりと整列させた生徒たちをねめつける。須田、池波、そして最後に塔香に向く視線。
「……本気なんだな?」
「――――はい」
頷く塔香。目には決意の光。
「とんかつを、宇宙に行かせてあげたいです」
無感情にこちらを観察する先生の目に、唾を飲み込む。
「助けて、くれませんか」
「……は、ははっ」
清浜先生が笑い始めた。
「はふうふうふふふふふふわははっははは」
眉をひそめる子供たち。
「うふふふわわわはわはわはハハハハハハ――――っ!」
思いっきり身を引く一同。清浜先生は止まらない。
「苦節十年、異邦生物愛に生き全てを捧げてきた人生についにその愛を証明する時がァ――――っ!」
「先生はOKしたのか? じゃあこっち来てくれ」
理科準備室から手招きする真田。そっと移動する一同。
「活動にはこの準備室を使えよ。秘密にするんだろ?」
「あの、真田先輩……先生は?」
真田は高等部の先輩である。唯一の生物部の部員でいつも先生に振り回されているように見える。
「先生は大丈夫だよ。いつもだから」
絶妙に疲れた顔で枯れた笑みを浮かべた真田を見て子供たちはその推測が正しかったことを知った。
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