七章『新手 NEW FACE』
地上班、第三分隊。
「なんだ……今の攻撃は……」
「わからん、しかし……『イーロアス』がそれにビルも……跡形もなく蒸発しただと……」
「つまりあの怪獣、電波や音波に留まらず光波までも自在に操ると」
「化け物め」
彼らが呆然と言い合っていた時、いつの間にか一人の男が立っていた。
「……ん? うおっ、誰だお前は!」
隊員たちが驚き銃を向ける。その男はなんの感情も見せずにただ立っていた。
そもそも男なのだろうか。
その男の顔は、鉄仮面に覆われていて見えない。
さらに言うならば全身が鋼に覆われていた。
男が纏うのは無骨な甲冑。
闇から浮き上がるような白銀色の鎧。全身を隙間なく覆い隠す構造的には西洋甲冑に近いが、どこかこの星のものではない異様な気配。
「……………俺は『
そう名乗り、二メートルを超える巨躯を静かに沈め突進の姿勢を取る。
かちゃり――と、金属音。
その数十秒後には地上班、第三分隊は反応を消失していた。
《名前》
《人物》一族内では
《装備》超振動鎧『タテ』その原理は(中略)とある甲冑星人の技術の流用。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
怪獣の放った光は、四川のいるビルの一室からでも見えた。
その直後、町で巨大で赤みがかったキノコ雲が巻き上がり、大地が赤く染まる。
四川の周りで技術スタッフたちが動揺して右往左往する。
「クソっ」
見苦しい醜態に舌打ち一つ。
手元にずらりと並んだ通信機を手に取り、次々と連絡を取る。
「地上第三班、応答しなさい」
「戦闘指揮所、今どうなってる」
「応答しなさい! 金城!」
「白倉! 小林!」
「おい!」
「なぜ誰も……反応しないのよ!」
第四班が突然消えたのは先ほど確認している。対応を後回しにしてしまったのは自分だ。それは認めよう。
しかし、怪獣の攻撃の直後、大部分の人員と連絡が取れないのはどういうことだ。
「誰か応答しなさいっ!」
『―――よう、お嬢さん。こちら『
返事があった。ただしイヤホンや受信機にではない。
このフロアの窓から音が聞こえてくる。
窓自身が声帯のように振動してしわがれた老人の声を創りだしているのだ。
この不気味な現象に誰もが言葉を無くす中、四川めぐるは窓に返事をした。
「地上班の隊員はどうした?」
『さあな』
「アンタ……いや複数人いるわね。アンタら何が目当てでここに?」
『もちろん金さ』
「やっぱり怪獣サイトね。あれ私も問題にしてんのよ。なにせ怪獣との戦闘区域にふらふら入り込む民間人が増えて増えて。アンタもその口?」
『戦闘だぁ? 災害派遣だろお上の犬』
「ああ失敬、法律上『災害派遣』ね。ともかく危険度の高い被災地からは一般の方は避難をお願いしたい」
『それは命令かい? お嬢さん』
「それでは命令で、クソジジイ」
『ま、ライバルは蹴落とすつもりだったが、おまいさん既にドジったな』
「…………」
『失態だな。隠そうにも衛星からの動画でダダ漏れだ。来年の予算委員会で下衆な野党が手ぐすね引いて待ってるぞ』
「その失態にしても、私に対する実力行使の対価は払ってもらうわよ」
『対価? 対価だと? お前がなにか請求できる身分か?』
「なんなのよ?」
『そうか、知らんか。よし、ラジオ聞かせてやる』
ラジオの音が流れ出す。
『――日未明、総理官邸にお………献金問題、及び健康上の理由で…………――――――防衛大臣は辞意の意向を示し……』
レイラニの妨害によるものかよく聞き取れない。
だが、ここまででわかってしまった。
『官邸は貴様を切ったぞ』
言われなくともわかる。
『既に幕僚三名が辞任、さらに今朝付けで陸自の上層部は根切り人事を開始する。カカカカカカカカ、ネットやマスコミの小物は始末済みだろうな』
ぎりぃ、と噛みあわせた奥歯が軋みを上げる。
『手の長さ比べは測り間違えば死に至る。そういうこった』
四川は舌打ちをして床にどかりとあぐらをかいた。
気品も何もあったモノではない。
『ああ、ところで話は変わるんだが……』
「まだなんか用なのジジイ」
不貞腐れたのかぞんざいに応える。
『お嬢さん。真田剣次って名前に聞き覚えはないか?』
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