第4話 チャンス

 ♪キーコーカーコン

三限目開始のチャイムがなる。


「みんな、今日の授業は自習だ。各自しっかり勉強するように。」

そう言って担当の先生は教室から出て行った。


「ヒャッホーイ!自習だぜ!」


クラスの男子の何人かが叫び出す。

それにつられて数人が話し始め、やがてクラス全体がうるさくなる。


やれやれ馬鹿な奴らだ。こういう時にこそしっかりと勉強するべきなのに。

しかしこれはチャンスだ。

この騒ぎに乗じて、俺も自然な流れで水川さんと喋ることができそうだ。


『賢者よ、今、水川さんと喋ったら盛り上がる話題はなんだ?』

『答:今はありません。』


へ?どうゆうことだ?俺と水川さんには盛り上がる話題なんてないってことか?

そう思っていると


ダン!


隣から大きな音がする。

クラス中の視線が隣の席に集中する。


「皆さん静かにしてください!授業中ですよ。ルールを守ってしっかりと自習をしましょう。」

机を叩きながら水川さんが言う。


 なるほど、そういうことか。

確かに今の水川さんとは盛り上がる話題なんてなさそうだ。ルール厳守の人だからな。

流石としか言いようがない。

そう思っていると、大柄ないかつい男が立ち上がった。


「チッ、うるせーなぁ。最近お前調子乗りすぎじゃねーか?」


確かこいつは朝俺を突き飛ばした奴だ。



「うるさいのはあなた達の方です。授業中と言うことがわかっていますか?」

水川さんも一歩も引かずに言い返す。


「だからそ言う所がうるせーつってんだよ!」

男は声を荒げた。

周りの生徒がビクリと驚く。


嫌だねえこういうの。

声を荒げて相手に何も言えなくさせるんだ。

これには流石の水川さんでも言い返せなくなるんじゃないだろうか。いざとなったら助けてあげ…


「いいえ!私はうるさくなんかありません!ルールは守ってください!」

キッパリと反論する。

流石だ。心配の必要などなかったか。

と思っているといきなり大きな音が聞こえた。

どうやら男が水川さんの机を蹴飛ばしたらしい。これには流石の水川さんも一歩引いてしまった。


「おい、そろそろ黙らねぇと痛い目見るぞ。

だいたいみんなもお前の事うざいと思ってたんだよ。だよな?みんな?」

男が振り返り問いかける。

すると男子の何人かがコクリと頷いた。


「な?これでどっちが悪いか分かったろ?俺が手出さねーうちに大人しくしとくんだな。」

そう台詞を吐き捨て自分の席へ戻っていく。


水川さんを見てみると顔は赤くなり少し涙目になっているような気がした。

—しまったな。やっぱり助けてあげるべきだったか。

あとでちゃんと慰めてあげよう。

と思ったが


「いいえ、悪いのはルールを守らないあなた達の方です!授業中に騒いでいいはずがありません!」

机をバン!と叩き反論する。

まじか、水川さん。まだ続ける元気があるのか。

もしかしたら、顔が赤くなっていたのは泣きそうなのではなく、怒りの表れだったのかもしれない。


 「チッ」

男が一度目より大きな舌打ちをする。


「本当に頭のわりぃー女だな。俺痛いめみねーうちに大人しくしとけって言ったよな?」

そう言って荒々しく机の間を戻ってくる。


「おい、太郎、次郎。こいつやっちまうぞ。」

男が呼びかけると仲間がどこからか湧いてくる。

水川さんは教室の後ろで3人に囲まられる形となった。


「いい加減自分が悪いって認めたらどーだ?俺はちゃんと忠告したからな?」

男は水川さんを囲みながら高圧的に言う。


まずいな。これはそろそろ助けなくては。


『賢者よ、水川さんの俺への好感度を一番上げつつ、カッコよく助ける方法はなんだ?』

『答:30秒後に水川さんに向かって叫びながら走り出して下さい。』


どうゆう事だろうか?少し意味は分からないが、まぁ、賢者が言うんだから間違いないだろ。

俺は心の中でカウントダウンを始める。


「何を言おうと悪いのはあなた達です!私は悪くありません!」

水川さんも屈せずまた言い返す。

しかしよく見ると、今にも泣き出しそうな顔になり足も震えていた。

いくら水川さんと言っても女の子だ。男3人に囲まれたら怖い決まってる。


「チッ。まじで頭のわりー女だな。太郎。二郎。こいつ押さえてろ。」

二人の男が水川さんの左腕で右腕を押さえる。


「わ、な、なんですか!?暴力ですか!?」

声を震わせながら言う。


「あーそうだよ。せっかく忠告してやったってのによ。お前がなかなか黙らないからな。」

そう言って男は右足を一歩引き殴る体制に入る。


まずいぞ。

『賢者!まだ30秒は経たないのか?』

『答:はい。残り10秒です。』

『本当に叫びながら走りこむだけで大丈夫なんだろうな?』

『答:はい。その方法が一番好感度を上げつつカッコよく助ける事ができます。』

『分かった、信用する。残り3秒でカウントダウンを始めてくれ。』

『承知しました。』


「や、やめてください!こんなことをしたらあなた達もタダじゃすみませんよ!」

必死に抵抗しながら叫ぶ。

が、男達に止める気配はない。

おいおいやばいぞ。まじで殴られてしまう。


『3』

カウントダウンが始まった。


「よし、お前らしっかり押さえとけよ。」


『2』


「歯食いしばれ。」

男が拳を振り上げる。


『1 今です。』


「やめろぉぉぉぉぉぉぉー!」


俺は大声を出し駆けだした。

水川さんとの距離約2メートル。

男は一瞬こっちに意識を向けたがお構いなしに拳を振り下ろし始める。


水川さんとの距離約1メートル


—クソ!ダメだ間に合わない。

【賢者】の野郎ヘマしやがった!

そう思った瞬間だった。


体が宙に浮いた。

いや、前に飛んでいると言った方が正しい。


どうやら足が絡まってつまづいたらしい。

俺の体は制御を失い水川さんと男の間めがけて突っ込んでいく。


残り距離0.3メートル。

俺の体は止まらない。

—これってもしかして……


残り距離0.2メートル。

男の拳が徐々に迫る

—おいおい嘘だろ


残り距離0.1メートル。

拳が俺の顔に吸い込まれるように近づいてくる。

—やっぱりかよぉぉぉぉ


残り距離0.0メートル。


バゴーーーン!!!


教室中に鈍い音が響き渡る。


「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


俺は自分の叫び声を最後に意識を失った。

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異世界で貰ったスキル【賢者】でハーレム作って幸せに暮らしたいんです。 @rubeberu

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