第2話 委員長

 ♪キーコンーカーコーン

一限目のチャイムが鳴り先生が教室に入ってくる。


「よし。じゃ、早速始めるぞー。昨日の続きの、教科書86ページを開いてくれー。」

慣れた口調で生徒に指示を出す。


まずい。俺は今日なんの荷物も持ってきていない。というか久しぶりすぎて教科書の存在すら忘れてた。


しかしこれはチャンスだ。

幸い隣の席は女子。この機会を利用しない手はない。


『賢者よ。隣の女子の名前は?それと性格をおおまかでいいから教えてくれ。』


『答:名前は水川玲奈です。性格は真面目で正義感が強く学級委員長を務めています。しかし、その真面目さからかルールに厳しいところもあり、クラス内では少し浮きぎみです。』


なるほど。いかにもって感じだな。

長い黒髪を後ろで束ね、大きくクリクリとした目には細縁の丸いメガネをかけている。体から発しているオーラはいかにもthe委員長ってかんじだ。

しかしまぁ顔はそこそこに可愛いくターゲットとしては申し分ない。女子を見るのが久しぶり過ぎて誰でも可愛く見えているだけかもしれないが……いや。そんなことはない。この子は紛れもなく美女だ。


うん。決めたぞ。

記念すべき一人目の彼女は水川玲奈、君に決めた!


「あの、水川さん。俺教科書忘れちゃってさ。よかったら見せてくれない?」


あくまでも控えめに、がっついてると思われないように声をかける。

この辺の知識は昨日、こっちの世界に帰ってきて、調べまくったから抜かりはない。

いくら【賢者】があるとはいえ、自分が疑問に思わない事は【賢者】に聞くことすらしないからな。

最低限の知識は必要だ。



喋っている途中、女子に話しかけている事が嬉しすぎでニヤケそうになったが必死に堪えた。


「いやです。あなたはまず先生に教科書を忘れた事を謝罪するべきです。そして、それからきちんと許可を得て私に教科書を見せてもらうようにお願いするべきです。」

彼女はメガネをクイっとあげながら、キッパリと言いきった。


こ、こいつ、クソめんどくせーー!

ルールに厳しいとは聞いてたが、ここまでかよ。

これはクラスで浮くのも納得がいく。

しかし、ここで俺がキレてしまっては元も子もない。ハーレムへの道が遠のくだけだ。

俺はイライラするのを抑えながら、先生に許可をもらってからもう一度丁寧にたのんだ。

すると、


「はい。いいですよ。どうぞこちらに。」


そう言って俺に机をくっつけるように促してくれだ。


なんだ、今度はえらくあっさり承諾してくれたな。

ルールさえ守ればいいって事なのか。

なかなかにめんどくさい性格だ。

が悪くわない!

こういう奴に限って恋愛に関しては打たれ弱いとかいうギャップ萌えパターンに違いない。

俺は妄想を膨らませつつ机を隣にくっつけた。


——数学の授業が始まって40分。

特に何も起きずに時間だけがすぎていた。


まずいどうにかしなければ。

せっかくのチャンスを棒に振ってしまう。


『賢者よ。人の好感度って分かったりするのか?』

『答:もちろんです。人が人に抱いている感情、イメージ、考え、全て分かります。』


まじか賢者。流石だな。


『じゃ水川さんの俺に対する好感度って今どのくらいだ?50を初期値として100段階で答えてくれ。』

『答:50です。何の感情も抱いていません。興味なしです。』


なるほど。興味なしか。

まぁでも、50を下回ってなかっただけましだ。今からの行動次第でどうにでもなるだろう。

 そのためには何か話題を見つけて喋りかけなくては。

俺は意を決して喋りかける。


「水川さんって、字めっちゃ上手いね。何か習ってたの?」

話題が見つからなさすぎて字を褒めてみたのだが… どうだ?無理矢理すぎたか?


「それ授業に関係ありますか?授業中なのでどうでもいい事で喋りかけないでください。」


カッチーン。案の定ムカつく返答が返ってきた。

クソ、ここまで会話が続かないとは。授業中のルールを厳守してやがる。

初っ端から心が折れそうだぜ。


しかし、これは裏を返せば授業に関係する事なら喋りかけてもいいって事だよな?

俺は教科書の適当な問題を選び彼女に見せる。


「水川さんここ、分からないだ。教えてもらえない?」


どうだこれなら断れないだろう。

水川玲香はルールが絶対だ。しかしその性格をうまく利用すれば何とかなるかもしれない。


「はぁー。こんなものも分からないのですか?いいですか、これはまずこここのXに3を代入します。そしてそれから——」


ため息をつかれたのには少しムカついたが最初から最後まで丁寧に教えてくれた。

やっぱり水川玲香はルールに厳しいだけで、悪い奴ではないのかもしれない。


「キーコンカーコンキーコンカーコン。」

一限目終了の合図が鳴る。


「ありがとう水川さん!おかげでよく分かったよ。」


「いいえ。困っているクラスメイトを助けるのは当然ですから。」

そう言ってどこかに立ち去っていく。


よし。少しだがなんとかコミュニケーションを取る事に成功したぞ。

『賢者よ。今の水川さんの俺への好感度は?』

『答:先程の会話で5上がり現在55です。』


なるほど55か。少ないけれど確かな一歩だ。しかしいったいどのくらいまで好感度を上げれば付き合えるのだろうか。


『賢者よ。人と付き合うには好感度はどのくらい必要なんだ?』


『答:人それぞれ異なりますが平均して90を超えると付き合うことが可能となります。水川玲香の場合は95の好感度が必要となります。』


残り40か。

まだまだ先は長そうだ。

しかし俺には【賢者】がある。

これをうまく活用していげば案外、好感度なんてすぐにあげられるかもしれない。

 待ってろよ!俺のハーレム!

俺は決意を新たにするのだった。




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