第75話 思い出



「オリバーと申します。

7歳の頃、フェイン家に拾われ今は執事となりました。

執事となった日から髪は染めています。

私の地毛は金です。」


その言葉を聞くと、ルーナさんの目から涙が溢れた。


「7歳、、、。

あの子が居なくなった歳と同じだわ。」


「先程、エミリー様からお聞きしました。

私はエミリー様の兄なのではないか、と。

それを確かめにお邪魔致しました。

私には、、、フェイン家に拾って頂く前の記憶がほとんどありません。」


オリバーがルーナさんのそばに行き、自分のことを話し始めた。


「思い出して欲しいのだけれど、、、忘れていたほうが幸せかもしれないわ、、、。

オリバー、ごめんなさい。

あの日、あなたを助けられなくて、、、。

あの人があなたを捨てたと言った日、街を走り回ったけれど探し出すことが出来なかった!!!

私が無力なばかりに、あなたにもエミリーにも辛い思いをさせてしまった、、、。

ごめんなさい、オリバー!!!」


ルーナさんの言葉に、僕まで目頭が熱くなった。


「辛い記憶でも私は知りたいです。

自分が何者なのか、貴女の息子なのか。」


オリバーは覚悟を決めたようだ。


「そうね、私は話さなくちゃダメね、、、。

家のことも覚えていないかしら?

緑の屋根で、庭にはベリーの木が植えてある家であなたは育った。

生まれた時から泣き虫で、よく泣いていて、、、子守唄を歌うと泣き止んだわ。

好きな食べ物はスープだった。

お金がなくて具材は少しの野菜だけだったけれど、美味しいって食べてくれたわ。」


オリバーを見ながら懐かしそうに昔のことを語る。


「あの人は、、、あなたがエミリーが生まれてすぐに怪我をしたの。

大工の仕事が出来なくなって、、、。

お酒を飲んで過ごす日々になったわ。

酔ってあなたたちに手を出すことがあった、、、。

泣き虫だったあなたは強くなって、妹を庇っていたの。

背中に火傷の痕はない?

あの人が料理中のフライパンをエミリーに投げて、、、あなたに当たった。」


「エミリー嬢も同じことを言っていました。

私の左の脇腹、背中の方に火傷の痕があります。」


「痕が残ってしまったのね、、、。」


ルーナさんがすごく悲しそうな顔をした。


「お城の騎士様を見るのが好きだったわ。

いつか自分も騎士様みたいに強くなって、お母さんとエミリーを守るって言ってくれたの。

あ!いつかの誕生日に絵本を買ってあげようとしたら騎士様の絵本を選んでいたわ!

チェストの中に入っているのだけれど、読んでみる?

3段目よ。」


オリバーが立ち上がり、ゆっくりとチェストに近づいて引き出しを開けた。

中から絵本を取り出した。


「そう、その本よ。」


「騎士がドラゴンや魔法使いと戦って、姫様を守る話、、、ですか?」


「、、、覚えているの?」


オリバーの目にも涙が浮かんだ。


「、、、思い出しました。

この本が大好きで、何度もお母さんに読んでほしいと頼みました。

夜寝る前に、この本を読んでくれる時間が大好きでした、、、。」


本を閉じ、ルーナさんのそばへと向かう。


「ただいま、お母さん、、、。」


「おかえりなさい、オリバー!!!!!」


抱きしめ合う姿は、間違いなく親子そのものだった。


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