第73話 記憶


「エミリー様、どうかなさいましたか?」


「あ、、いえ、、、。

私の兄もオリバーという名前だったので、反応してしまいました。」


エミリーの兄?

父に捨てられ、所在不明の?


「でも、、、この方ではありません。

兄は私と同じ金色の髪でしたから。」


エミリーは俯き、僕ら家族は顔を見合わせる。

オリバーは状況がわからないという顔をしていた。


「エミリー嬢、お兄さんのことをもう少し詳しく話してもらえるか?

今は何歳だ?」


「兄と別れた時、私も幼かったので覚えていないことも多いですが、、、。

私が4歳頃に居なくなってしまって、当時は7歳なので、、、今は18歳くらいだと思います。」


「なるほど、他に覚えていることは?」


オリバーの年齢と同じくらいだが、まだ決め手にはならない。


「瞳の色はグレーです。

私と兄は髪色と、瞳の色が同じだったと母から聞きました。

あ!左の脇腹、背中のほうに火傷の痕があるかもしれません!

私にフライパンが投げられた時に、兄が庇ってくれて火傷をしました。

今は消えているかもしれませんが、、、。」


髪色と瞳の色はオリバーと一致している。

オリバーと一緒にプールやお風呂に入ってたことがないので、背中のことはわからない。


「ありますよ、火傷の痕。

左の脇腹に、、、。」


口を開いたのはオリバーだった。


「それから、私の髪の色は金です。

執事として働いてから黒に染めています。」


エミリーはただじっとオリバーを見ていた。

兄の面影を探しているのかもしれない。


「彼が家にきたのは11年前だ。

街で雨の中一人で立っていて、その後高熱を出して寝込んでいる。

起きた時に覚えていたのは自分の名前と年齢だけだった。

当時7歳だと言っていたので、今は18だ。」


偶然にしては特徴が重なり過ぎている。


「お兄ちゃん?

お兄ちゃんなの!!??

私よ!エミリーよ!

覚えていない!!??」


エミリーが立ち上がり、オリバーに向かって叫ぶ。


「申し訳ありません、家族のことはほとんど覚えていなくて、、、。」


オリバーが申し訳なさそうにしている。


「お母さんのことも覚えていない?

名前はルーナ!」


「ルーナ、、、。」


エミリーの言葉にオリバーが考え込んでいる。


「じゃあ家!

家のことは覚えてない?

屋根は緑で、、、庭には木があるの!

ベリーの木!

家に何もない時にはベリーを食べて過ごしたわ!

お兄ちゃんが登って取ってくれた!」


エミリーは必死に昔のことを思い出し、オリバーに語る。


「私と熊のぬいぐるみで遊んでくれたことは?

寒い日には一枚の毛布で体を寄せ合って寝たのよ!

パンを半分くれたこともあったわ!

あ!それから一度だけ!あの人の機嫌がいい日にチョコレートを貰ったわ!

私があまりにも美味しいって食べるからお兄ちゃんが全部くれて、、、。

ねえ!覚えていない?」


泣き止んだはずのエミリーはまたボロボロと涙を溢す。


「お願い、思い出して!!!」


エミリーが膝から床に崩れ落ちた。


「エミリー様!」


アンが駆け寄り、肩を抱く。


「チョコレート、、、。

鳥の描かれた缶に入った?」


オリバーの言葉にエミリーが顔をあげる。


「そう!そうよ!

チョコレートの缶には鳥が描いてあったわ!」


「私の妹、、、なのですか?」


オリバーは半信半疑でエミリーを見つめていた。


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