第21話 事件



「キャッ!」


アンの小さな悲鳴を僕の耳は逃さない。

挨拶していた相手に謝罪をし、彼女の元へ駆けつけた。


「何をするんだ!!!!」


殿下がエミリーを叱責している。


「アン様ごめんなさい!わざとじゃないんですう!」


目に涙を溜める彼女の右手にはグラスが握られていた。

濃い色のドレスなので目立たないが、アンのドレスは濡れている。


「殿下、私は大丈夫です。

ドレスは着替えれば良いのです。

エミリー様も気に病まないで下さいませ。」


今にもエミリーを怒鳴りつけてしまいそうな殿下をアンが宥める。

するとエミリーはすぐに笑顔になった。


「アン様!お優しい!

ありがとうございますう!」


おいおいおいおいーーー!!!!

さっきまで目に溜めていた涙はどこ行ったんだよ!!!


「アン、着替えを用意させるよ。

すぐに着替えておいで?」


アンには優しい目と言葉を掛ける殿下。


「大変〜!殿下にも少しジュースが掛かってしまってますう!

今お拭きしますね!

キャッ!!!」


エミリーは殿下に近づき、つまづいた。

咄嗟のことに殿下が抱き止める。


「殿下ごめんなさい〜!

私ったらつまづいちゃいました、、、。

でも殿下なら私を助けてくださるって信じてましたあ!」


殿下の胸に擦り寄る彼女。

隣にいるアンの悲しそうな表情に僕の胸も痛くなる。


「その行為が無礼だとはわかっていますか?

すぐに離れなさい。」


気がつくと3人のそばにいた。

自分でも聞いたことがないくらい低い声でエミリーに声を掛けていた。


「あなた誰ですかあ?

殿下、助けてください!!!怖い〜!」


殿下の背後に隠れる。


「エドワード・リー・フェイン。

アンの兄だ。

その方はこの国の殿下で、妹の婚約者だ。

すぐに離れなさい。」


エミリーは身を隠したまま僕に返事をした。


「アン様のお兄様?

お兄様も怖い〜!!!!」


は???

お兄様“も“???

アンも怖いかのように聞こえるが???


「アン様とお兄様怒った顔がそっくりですう!」


何も言わない僕にエミリーが調子に乗って更に言葉を続けた。


「僕のことはなんて言おうが構わない!!!

ただ、妹のことを侮辱することは誰であろうと何があろうと許さない!!!

この女神のような妹が怖い???

例え怒った顔だろうと天使の様に可愛いだろう!!!」


僕の叫び声に会場中がこちらを見る。

やってしまった、、、。


「落ち着いてください。

アンは着替えも必要ですし、お二人とも一度こちらへ。

皆様、陛下、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。」


殿下に謝罪をさせてしまった、、、。


「良い、一度下がれ。

皆様、パーティーの続きをどうぞお楽しみください!!!

少し早いですが、ここでダンスの時間と致しましょう!!!」


陛下にもフォローして頂いた。


エミリーからアンを守りたかったのに、ドレスは汚されてしまった。

僕が怒鳴ったことでパーティーを台無しにしてしまった。

殿下と、陛下にもご迷惑を掛けてしまった。



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