第5話 王国と聖女
ここ、ロヴェイユ王国は騎士の国だ。
隣の王国のように魔法は使えないし、更に隣の王国のように獣人族は生まれない。
魔法の使えない、爪も牙もない人間が、鍛錬して騎士として国を守っている。
しかし、昔から一人だけ例外がいる。
それが聖女だ。
聖女は王国を加護し、王国の外部からの攻撃を防いでいる。
雨の日も、風の日も毎日毎日教会へ行き祈る。
ずっと昔から聖女に守られ、この王国は栄えることが出来た。
先代の聖女様は随分長く生きられた。
老衰で亡くなられた時は120歳を超えていたそうだ。
先代の聖女様が亡くなったその日、その時、アンの肩が光出した。
「熱い、、、肩が熱い、、、。」
そう言って肩を抑え、蹲る妹の姿を今でも鮮明に覚えている。
あれは5年前、アンはまだ10歳だった。
アンの体から光が消え、両親が肩を見ると痣が出来ていた。
太陽の形をした痣、聖女の証の痣だった。
その日からアンは聖女になった。
毎日教会に通うアンのために教会のすぐそばに屋敷を建て、僕らはそこに住んだ。
今も書斎の窓の外には教会が見えている。
聖女になったアンは、自動的に殿下の婚約者となった。
国民は聖女の加護の有り難みを知っているので、聖女は王族と結婚し王族の地位を脅かすことがないようにと決められている。
アンが聖女になってから初めて殿下と会った日も忘れることはない。
二人はまるでそうなることが運命だったかのように会ったその時から惹かれていた。
僕の愛するアンに僕以上の存在が出来た。
自他ともに認めるシスコンの僕は1週間も寝込んだ。
そんなアンと殿下の元にエミリーという女が現れたのは、悪夢のあの日から一年ほど前だった。
「聖女の痣を持つ女性が、もう一人現れました。」
王城の使者からそう伝えられた時のアンの顔は、今まで見た中で一番悲しそうだった。
そこから殿下はすぐにエミリーに夢中になっていった。
最初は殿下の趣味である紅茶に詳しいから話し相手になってもらっているとのことだったが、だんだんエスカレートした。
舞踏会ではエミリーとだけ踊り、彼女にドレスや装飾品を送った。
アンはさぞ辛い思いをしていただろうに、一人で耐えていた。
「殿下の婚約者は私ですから、私は殿下を信じております。」
父や母に心配されると必ずそう答えていた。
しかし、婚約発表の前にアンは裏切られた。
本物の聖女はエミリーであると、よってエミリーを婚約者にすると殿下から告げられた。
殿下のそばでエミリーは次々と奇跡を見せたそうだった。
熱を出した子どもを救ったり、動物と心を通わせまるで会話が出来ているかのようだったとか、汚れた水を一瞬で浄化したとか、エミリーの自慢話を散々聞かされた。
僕と父もその話を信じてしまった。
エミリーが本物の聖女で、アンはたまたま少しだけ加護の力を貰ったのではないか、と。
「アン、帰ろう。もう祈らなくてもいい、休もう。」
「アン、今までよく頑張ったね。」
これ以上殿下とエミリーのそばにいてアンが傷つくことを恐れた父と僕は帰宅を促す。
「お父様も、お兄様も私を信じては下さらないのですか?」
下を向き、ボロボロと涙を流すアンに国王が告げる。
「アン嬢よ、今までご苦労であった。
今後はこのエミリーが王国を加護していく。
其方の役割は終わった。」
その言葉を聞くとアンはショックで気を失い、父の腕の中へと倒れ込んだ。
僕がアンのそばへ駆け寄ろうとした時、あの悪夢が始まった。
急にガラスが割れ突風が起きたかと思うと、王城の壁が崩れた。
そして赤く、大きな竜の手が入ってきたのだ。
本物の聖女であるアンが加護を解いてしまったのだろう。
意図的だったのか、気を失ったことで解けてしまったのかはわからない。
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