【76】 戻ってこい

 ルナは裁縫さいほうの達人だった。

 人数分の水着を作ってくれた。採寸は、身なりを整えて貰っている時とか、そういうわずかな隙を狙って、ちゃっかりサイズを取っていたようだ。忍者かな。


「カイト様の水着もばっちりですよ! ほらっ」

「おぉ!」


 見事な花柄海パンである。ここまでクオリティが高いとは。

 さすがメイド。あらゆる仕事をこなしてくれるな。



 そんなワケで、みんなと一緒に『海』へ向かうことに。ワンダにその事情を伝え承諾しょうだくを得た。そして、俺はひとり店の外で待機していた。女の子の準備は掛かるものだ。


「……ん」


 ひとり待ちぼうけていると、気配を感じた。


「……久しぶりだな、カイト」

「な……あんた、シャロウの副マスター『エキナセア』か……」


 びっくりした。


 突然、覚えのある気配が現れたからな。


 ――副マスター『エキナセア』。今はフードで顔を深く隠しているため、素顔は見えない。昨晩の一件で警戒しているのだろうか。


「単刀直入に言う。――シャロウに戻ってこい」

「……はぁ!?」


「マスターの気が変わってね。世界でただひとりしか扱えない『レベル売買』が重要だと再認識なさったようだ」


「ふざけるな……残念とも思わんが、今更もう遅いんだよ! 追放したのはそっちだろうが! 俺にはもう大切な仲間もいる。お前たちよりも遥に価値のある仲間たちだ」


「そうか。だが、マスターも私も諦めない。あらゆる手段を講じ、カイト。貴様をシャロウに引き戻してやる。

 ――これは警告だ。今後、帝国と敵対する『共和国』が大きく動き出すだろう。もともとシャロウは共和国で結成されたギルド。帝国は承知の上であえて傭兵にしていたのだからな。だが、我々は逆手に取り、逆に奪ってやった。次はお前だ」


 そこでエキナセアはきびすを返し、一瞬で消え去った。


 ……み、見えなかった。



 ◆



 セイフの街を出て――南へ。


 海までの道のりはそれほど遠くはない。道中はアクティブモンスターも多々いるが、脅威きょういではない。ほぼ無視スルーして海へたどり着いた。



 到着早々、ソレイユが服を脱ぎだして水着姿を披露した。


「ソ、ソレイユ……ドキっとしたぞ」

「下に着てきたの。な、何を期待しているのよ、エロカイト」


 派手な赤いマイクロビキニ。こうして水着姿で改めれば、人並みに谷間はあったんだな。そうか、それほど胸が無い分、露出で勝負ってことか。


 そしてやっぱり、あしはスラっとしていて美しい。健康的だ。それにしても……ソレイユ本人は羞恥心が勝っているのか、俺と目を合わせようとしなかった。


「ジロジロ見ないでよぉ……」

「エロイぞ」


「ちょ! もうちょい言い方とかあるでしょ!?」


「いやぁ、胸のこと言ったら怒るじゃん」

「あたりまえよ! てか、蹴り飛ばす!」


 行儀の悪い足が飛んできたので俺は回避した。

 レベルを上げておいて良かったぜ。

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