【03】 救いの声

 目をつむり、俺はどろのように眠っていた。

 このままなら俺は餓死がしし、孤独に死を迎えるだろう。それでいい、俺の価値なんて、その程度でしかなかったのだから。


「…………もし」


 前の世界も、今の世界も理不尽の塊。


「あの……もしもし」


 もういい、疲れた……。


 全てを自然に委ね、苛辣からつな雨に打たれ身も心も冷たくなっていく。手足の感覚はとっくに麻痺まひし、じわじわと死が迫っていた。


 これで――



「あの、そこの倒れているあなた」



 ――声。


 いつの間にか、女性の声が俺を呼んでいた気がした。そのか細い声を認知できたということは、俺はまだ生きているらしい。雨音の幻聴かと思ったけれど……気のせいではないのか。


「え……」


 まさか……。

 そんなはずはないとまぶたを開けると、そこには――


「お、女……の子?」


 かさを差し、俺を心配そうに覗き込む少女。

 赤黒いメイド服に身を包み、クリーム色の長い髪が息をむほど美しかった。こんな女の子がどうして、こんな辺鄙へんぴな森の中に。


「大丈夫ですか。あの、手をお貸しいたしますよ」


 そう白く細い手をばしてくる少女。


 その光景があまりに神々しくて、俺は彼女を天使と見間違えたほどだ。こんなゴミも同然となった俺に救いの手を差し伸べ、助けてくれるような少女がこの世界にはいたんだな。



 ――俺はその手を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る