第拾八話 最後の来訪者
「お久しぶりでございます」
仙石屋徳兵衛が牢格子越しに軽く頭を下げた。
「徳兵衛どの、おれは――」
一馬が格子に手をかけ無実を訴えようとすると――
徳兵衛が掌を広げて制した。
「わかっております。みなまでおっしゃいますな」
「…………」
一馬は外鞘の向こうを見た。番人が聞き耳をたてているかもしれない。うかつなことを口走れば仙石屋の立場を悪くする。
「長らく留め置かれたようですが、これには理由があります」
「理由……?」
「辰峰藩はお取り潰しとなり、辰峰郷は天領となりました」
天領、すなわち幕府が直接管理する直轄地となったのだ。
一馬が牢内に放置されたのは、
「一馬さまの疑いを決定づける証拠はいまだ見つかっておりませぬ」
近隣の住民の証言と懐に入れた切り餅のみだから当然といえる。つまりは状況証拠のみで捕縛されたのだ。
「ではおれは……おれはどうなるのだ」
一馬は思わずすがるような視線を徳兵衛に投げた。
「辰峰藩が改易となったいま、お役人さまたちも総入れ替えとなります。むろん、御用商人であったわたくしどももこの地を離れなければなりません」
「…………」
一馬は悪寒につつまれた。この上もなく嫌な予感がする。
「これ以上の詮議は無用かつ不可能ということとなり……」
徳兵衛はそこで言葉を区切った。表情をみせない徳兵衛の相貌にわずかながらの悲嘆の影が差した。
「あなたさまは佐渡送りとなりました」
最終話につづく
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