第拾話 突き返された遺作

 仙石屋の本店は城下町の目抜き通りにある。

 嘉平に伴われて本店の暖簾をくぐる。

 すぐさま客間に通されて一馬はしばし待たされた。


(一体、なんの用だろう……)


 香典でも手渡してくれるのか……と思ったが嘉平の様子からしてそんな雰囲気はない。


 からり。

 襖が開いて陶器を持った徳兵衛が入ってきた。手にしているのは父の作品である。


 お悔やみの言葉も時候の挨拶もなく、徳兵衛はそれを座卓に投げ出すようにおくと口を開いた。


「これを買い取っていただきたい」


「は?」


 意味がわからない。父が死んだから価値がなくなったとでもいうのか。いや、作者が死亡なら却って値があがるはずだ。


「その様子では徹山さまからなにも聞かされておらぬようですな」


 やれやれ……といった表情を浮かべて徳兵衛がゆるゆると首を振った。


「なにを仰っておられるのです」


 徳兵衛はいままで見せなかった軽侮の態度を露わにしている。


「では、はっきり申しましょう。寒河江徹山さまは刺影人でございました」


「刺影人……?」


「わたくしどもは徹山さまに対する報酬として器を買い取ってまいりました。

 この度の影刺し御用が不首尾に終わった以上、受け取られた金子のご返却を願いたい」


「ま…待ってくれ。刺影人とはなんなのだ!」


 いきなり意味不明かつ理不尽な要求を突きつけられて一馬は叫んだ。


「刺影人とは……」


 徳兵衛が語り出す。嘉平が客間の襖をそっと締めて出てゆく。

 それは他言無用の闇の稼業のことであった。




   第拾壱話につづく

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