第六話 怒りと寂寞



「これは奥伝おうでんノ序だ」


 徹山は短くいった。


「では、この縮地を会得いたさば『隠神』を教えていただけますか?」


 一馬は『隠神』こそが必殺の業だと思っている。

 長槍遣いの野盗を倒したときの父は距離を詰めぬまま敵を倒したのだ。そのようなことができれば縮地を遣うまでもない。


 そのときだった。父の足が伸び、一馬の腹をえぐった。

 一馬がもんどり打って倒れた。


「慢心するな、おまえに『隠神』はまだ早い!」


「うッ……ぐ……」


 一馬が倒れたままうめいた。右の二の腕から血が流れている。倒れた拍子に石に腕を打ちつけたようだ。


 徹山は立ちすくんで見ているさわに声をかけた。


「介抱してやってくれ」


 そういうと背を向けた。


「父上、どこへ?!」


「土を探しにいってくる。しばらくもどらぬゆえ、傷を治し、修行に励め」


 背中でそう告げると徹山は去った。仙石屋徳兵衛のために作陶せねばならない。上質な陶器を焼きあげるには良質な土が必要なのだ。


「父上……」


 去ってゆく父の後ろ姿はどこか寂しそうであった。息子に剣術を教えつつも己はそれで身をたてられずにいる。




   第七話につづく

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