第5話

 購買意欲5

 ――――――


 あれから、あの出来事があった日から何日か経った朝。目が覚めてすぐ、彼女にくだらない説教を垂れたことへの罪悪感が、陽射しとともに網膜から脳内へ突き刺してくるし、銀行口座の残高の心配をしては「まだ大丈夫だ」と確認して、ひとつ息を吐く。そういえば彼女にいくら渡したか、あまり覚えていない。大金を渡したことへの後悔も、今のところないと思われる。ただ、これは贈与にあたるのか、とかどうにもならないことを考える。

 すこし前にホ別ゴ有苺の意味を調べて、男は彼女のその熱した身に侵入しては、視聴覚、触覚、嗅覚、さらに味覚までを彼女に集中させる。そしてそれら五感を使って彼女を自分の中に摂り込んで、雄蕊を滾るだけ滾らせては吐き出す。男側はさぞ気持ちいいことであろう。

 しかし、ホ別ゴ有苺の「苺」が有している意味は、行為に対して一万五千円を支払うということである。あの彼女にその金額は安すぎて出せない。今回僕はそういうことをしなかったが、それの何倍、否もしかしたら十倍近くも払ったと思う。彼女には、僕が今回渡した金額程度の値打はあるだろう。

 空気を肺いっぱいに取り込んで、鼻から吐き出した。今日も夕方くらいには駅に行こう、お金も少し下ろそう。そう思って布団に潜った。

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