第4話

「なんで」

咄嗟に出た手が震える。そういう行動に出た自分への驚きと、彼女のその言葉の「軽さ」への憤りとが混ざってさらに僕は

「死ぬとか、何言ってるんだ、何が足らないのだ?愛か?存在価値か?自尊心か?」

彼女は流石にこんな僕を見て笑いはしない。もはや少し哀しそうというか、複雑な表情をして小さい声で

「愛も、存在価値も、自尊心も、多分お母さんのお腹の中に置いてきたか、胎盤と一緒に捨てられちゃったのかもね」

直ぐにでも泣きそうな瞳なのに、無理に微笑む彼女に心が痛かった。僕に何かできることがあれば、連絡先とか交換すれば少しは、とバックをまさぐると、さっき下ろした大金の入った茶封筒が出てきた。

「これ、貰ってください、幾らでも出すので、身体と心を安売りしないでください」

茶封筒に殴り書きで僕のメールアドレスを記し、それとまた別に居酒屋の支払い分を少し多めに置いて、店を出た。

もう、会うこともないだろうし、連絡も来ないだろう、彼女はまた自身を安売りして、この街に消えていくのだろう。

深く吐いた溜息は凍てつく空気の中で白く濁った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る