第3話

僕がしぶしぶながらに向かい合って座ってから、料理が来るまではあっという間だった。

その少しの間、彼女はケータイをいじっていたので

「LINEですか」

と恐る恐る聞いてみると、彼女は

「まぁそういう感じですね、明日の夜も予定があるので」

目も合わせず淡々と、しかし声にはたしかに感情があった。多分またあのサラリーマンみたいな人だろう、それか、その狡猾さを隠してまで好きな男がいて、そいつに、思っていることないことを可愛らしい顔文字とともに送信しているのか、僕にはわからない。

そんな会話と意味の無い考えを巡らせていれば、テーブルに大皿のフライドポテトと随分チープな唐揚げが並べてあった。塩むすびは3つあって、彼女は気を使ったのか2つは僕が食べていいということになった。

いただきます、と掌を合わせて唐揚げを頬張る彼女をまじまじと観察する僕は、傍から見たら大層「キモイ」おじさんだ、まあ僕自身が1番よく分かっている。でもどんなに彼女を凝視しても、彼女は少しも僕の方を気にせず唐揚げとおにぎりを交互に食べている。

しかし沈黙を破ったのは彼女だった。

「お兄さん私のこと知ってたの?」

「は?」

「だから、私のこと知ってたのかって聞いてるんですよ」

意味がわからない。取り敢えずこう言っておこう。

「この辺でよく見かけるから声掛けただけです」

僕がいまこの瞬間で出せる最大の冷たいトーンで吐き出した。すると彼女は出会ってから今までの1番の笑顔で

「ありがとうございます」

と答えた。

「でも、本当に知らないんですね、私のことも何も知らないのに声を掛けたなんて、嬉しいです」

「多分お兄さんが知っている私は、こんな夜遅くにラブホからおじさんと出てくるはしたない小娘、ってところですよね」

捲し立ててくる勢いで放たれた言葉は、何故か僕の心を突沸させた。

「そんなことこれっぽっちも思っていない、はしたないなんてハナから思っていないぞ、僕がお前を知らない以上に、お前は、お前は僕を知らないだろう」

少し声を荒らげて叱った。彼女はそれでも笑顔だった。その上、メモ帳を取り出してブツブツと僕の言葉を紙の上に書き出した。

「ありがとうお兄さん、お兄さんのことも少し知りたいし、私のことも少し教えてあげたい」

とても嫌な気になった、頭にくる。まだ大丈夫だが、本当に呆れて嫌になったらさっき下ろした紙幣をいくらか置いて先に出ようと思う。

「私そろそろ死のうと思ってて――――――

僕は反射で彼女の口を押さえた。

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