第15話 愛して、愛されたい - AKIRA -

珍しく甘えモードの楓奈かなでをわたしは思いっきり満喫して、ベッドで愛し合った後、裸のままで互いの肌を触れ合わせる時間を過ごしていた。


右星あきら、嫌われるのが怖いから優しくするってあると思う?」


その言葉で今日の楓奈は何か考えているところがあったのだろう、とは気づく。楓奈は周囲に影響されやすくて、それが体の反応にも現れてくる。


まあ、今日のそれは明らかに自分たちに関してのことではないと判断して、自分の考えを返す。


「あるんじゃない? 人は好意を投げてくれる相手にはあまり嫌悪を返せないでしょう?」


「そっか……」


「楓奈はそんな風に考えたことなさそう」


「ないけど……なんか、それって辛くない? 本当の意味では誰も好きじゃないってことなんじゃないの?」


なんとなく、誰のことかは想像がついた。


正直に言って、その人に楓奈が影響されて欲しくないけど、楓奈の性格上放っておけないことは分かっている。


「そうだけど、それ以上に傷つきたくないって思うことだってあるんじゃないかな。昔負った心の傷が癒えてないとか」


「右星もそう思うことある?」


「わたしはないなぁ。心よりも体での快楽を先行させちゃったのは、心と体のバランスを取れるような相手に逢えてなかっただけだったんだって最近は思ってるし。

でも、わたしだってはじめから体ばかりだったわけじゃないよ。ただ、性格なのかな。どうしても体の方に偏りがちだっただけで」


「右星のはただエロいだけです」


「それを満たしてくれて、愛してくれる相手を見つけたからいいの」


そう言ってわたしは楓奈の唇を奪う。


こんなことに悩むのは楓奈がそれだけ純粋な証拠だろう。楓奈には自分を人より良く見せようだったり、自分だけが良ければそれでいい的な自己中心的な部分がほとんどない。


時々もう少し欲張ってもいいのにと言いたくなるくらい自然体で、でもそこが楓奈の魅力だと思っている。


誰にも渡す気はないし、そんな楓奈を守るのはわたしの役割だ。


「右星は毎日触りたがるから、それは相手も逃げるよ。普通」


「楓奈は逃げなかったでしょう?」


「駄目だって言っても押しかけたの右星でしょう……」


わたしは楓奈は押しに弱いという算段があって、楓奈に甘えている部分がある。でも、そういう所がなければ、触れたがりのわたしは満たされないのも分かっていた。


「本能が楓奈を求めてるんだもん。人って細胞レベルでは同じはずなのに、みんな考えることが違っていて不思議だよね。わたしはどちらかというと嫌われる恐怖よりも、好かれたいで突っ込んで行っちゃう方だけど、みんながみんなそうじゃないから」


「そうだね」


「嫌われたくないから優しくするは一つの手としてありだとは思うけど、本当に大事なものを見つけられるといいね、その人」


小さく楓奈は頷く。


生まれつきそんな生き方しかできなかったわけではないだろう。どこかで何かがあって、自己防衛でそんな風になったのではないかと憶測は立つけれど、それを変えられるとすれば本気の情熱がなければ無理な気がしていた。


「だからって楓奈は渡さないからね」


「ばか。そんなことあるわけないじゃない。幸せになって欲しいけど、私には右星が一番なのは変わりないから」


「ほんとに?」


「でないと毎日つきあわないよ?」


楓奈の笑顔に安堵して、わたしは再び唇を重ねた。


あの時楓奈の手を握っておいて本当に良かったと思っている。あれが多分最後のチャンスで、わたしは辛うじて大切な存在を手に入れることができた。


「もう一回していい?」


それに甘い声が返ってくる。


傷つけあう恋愛よりも、抱き締め合って温め合える恋愛の方が絶対にいいし、楓奈とはそんな関係をずっと続けたいと思っている。


愛して、愛されたい。

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