第14話 距離 - KANADE -

右星あきらが主催した女性だけの合コンは、相阪あいさかさんはそれほど乗り気ではなかったけど参加してくれて、合コンというよりも女性を愛することの悩みを話す場になっていた。


右星が声を掛けた人は、30代前半くらいの女性で、ショートヘアに背は高めで、さっぱりとした感じの人だった。


田町先輩とちょっと似ている系だけど、でも印象は全然違うので、私からのヒアリングだけでこの人を引っ張ってきた右星を褒めるべきなのだろうか。


相阪さんと並んで歩いたら素敵だろうなと思うものの、流石に初めは相阪さんの表情は硬かった。


それでも徐々に打ち解けて、好きな人に打ち明けられない辛さや、恋人ができても関係を続けて行くことの難しさなんかを話しているうちに相阪さんも話に乗ってくれるようになった。


私はレズビアンでもかなり消極的な方で、今までそういったことを話をする存在が恋人以外にはいなかったけど、右星の世界は広いなと素直に感心をする。


普段にへらにへらとしているくせに、やろうと決めた時の右星の行動力は、右星の好きなところランキングのかなり上の方だ。


その合コンが、相阪さんが元気を出すきっかけになってくれたかどうかはわからなかったけど、それでも右星の知り合いと連絡先を交換していて、少しは前向きになってくれたのかなと期待はあった。





その数日後、私は合コンの際に自分の鞄に間違って入れてしまっていたハンドタオルの主を探して、業務部門の席を訪れていた。


右星でも、右星の連れてきた人のでもなかったので、思い当たるのは相阪さんだけだった。


「相阪さん、これ、この前の飲み会で間違って鞄に入れちゃってたみたいなんだけど、相阪さんのかな?」


業務部門の方に直接行くことは今までほとんどなかったこともあって、ちゃんと認識していなかったけど、相阪さんの席を見て心中で溜息を吐く。


相阪さんの席は田町先輩の向かいで、失恋してこの状況はかなり辛いだろう。


「芳野さん、有り難うございます。ワタシのです。すみません、わざわざ持って来ていただいて」


「よかった。相阪さんのだったんだ。ごめんね、間違って持って帰って。一応洗濯もしてあるから」


「ありがとうございます。ワタシも無くしたの全然気づいていませんでした」


「あの時結構呑んでたしね。あと右星が近い内にまた飲みに行こうって言ってたよ」


「はい、ぜひ誘ってください」


笑顔の相阪さんに別れを告げ、私は自席へと戻った。


今更ながら田町先輩と相阪さんの仕事中の物理的な距離が近いことが気になったものの、それは私ではどうすることもできなかった。


だからこそ、普段は告白されてもあっさり断る田町先輩が相阪さんからの告白だけは、回答に苦しんでいたのも頷けた。


今、二人の間に会話はあるのだろうかと考えたものの、それは興味本位で聞くことではない。





田町先輩との定例のランチ会があったのは、それから三日後のことで、相阪さんに忘れ物を持って行った日のことが話題に出る。


「芳野さんと相阪さんって仲良かったんだ?」


「私がコンビニに行く時にわりとよくすれ違うことがあって、そこからちょっと話をするようになったんです。相阪さん、一時期悩んでいたみたいだったので、そこから飲みに行ったりも時々してます」


「そうなんだ。でも芳野さんの彼氏は束縛結構強いんじゃなかったっけ?」


「相阪さんもOKしてくれたので実は一緒に飲んでるんです。あとは三人だと中途半端だからって、もう一人声を掛けて四人で飲んだりとかもしてます。相阪さん結構お酒強いですよね」


「そうだね」


「何か気になることありました?」


振ったものの田町先輩は田町先輩なりに後輩のことは気になっているのだろう。


「この前忘れ物を持って来ていたから、外で会うほど仲いいんだなってちょっと意外だったから」


「相阪さんはいつも可愛い格好しているので、アクセどこで買うのとかそういう話をするようのなって、私が田町先輩と高校時代の先輩と後輩だって言ったら、その頃の話を聞かれたりもしましたよ」


「そんなこと聞いてきたんだ、相阪さん」


「隠すことでもなかったので、部活動での話とかしました。それからしばらくしてからですかね、失恋したって聞いてじゃあ飲みに行こうかって私から誘ったんです」


「そう。ありがとう」


「田町さんがお礼を言う必要ないんじゃないですか?」


一応私は田町先輩と相阪さんの間にあったことは知らない体になっているので、それを聞いてもおかしくはないだろう。


「ほら、今は相阪さんがワタシの後輩だから」


「そういう所、先輩は昔と変わらないですよね。面倒見が良くて、優しくて」


「そんなことないよ。多分ワタシの優しさは嫌われることが怖いから、その裏返しでしかないような気がしてるんだ」


「えっ?」


「ごめん、変なこと言っちゃった。お昼終わるし、行こうか」


田町先輩が相阪さんを振って終わったではなく、まだ二人の間で動揺が続いていることは、今日の田町先輩とのランチ会で分かった。


もうどうしようもなくて、ただ互いの傷が癒えるまで待つしか選択肢がないのかと思うと、自分のことではないのに辛かった。

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