第13話 楓奈のために - AKIRA -

自分が田町先輩を唆したせいで彩葉いろはちゃんが振られるになってしまったのではないかと楓奈かなではここ数日落ち込んでいた。


どう転んでもこの二人の関係に深く関わってしまった楓奈は、傷つくことになりそうだと前から思っていたけど、やっぱりその通りになった。


そんな楓奈にわたしは、彩葉ちゃんに新たな出会いの場を設けてみないかと提案する。


「どうやって?」


並んで座ったソファーで、膝を抱えていた楓奈が視線を上げる。


「知り合いを当たってよさそうな人を探すから。ちゃんと女性がOKな人で。楓奈は彩葉ちゃんを誘える? 泣きたかったらその時に泣いてもいいからって」


「わかったけど、誘うのって右星としたことのある人じゃないよね?」


「焼きもち? 可愛いなぁ。こっちでは楓奈以外にそんな女性いないから心配しなくていいよ。呑み友達とか、そういう伝手で探そうと思ってる。何人か心当たりはあるから」


「ほんとに?」


楓奈の独占欲が可愛すぎて、わたしは楓奈の腰に抱きつく。わたしも嫉妬をする方だけど、楓奈もわりと重度だと思っている。でも、それは今のわたしには心地よいものだった。


「わたしを誰でも襲う性欲魔みたいな目で見てるよね?」


「違ったんだ」


「楓奈に対してはそうだけど、わたしだって全然触手動かないこともあるからね」


「でも、向こうに帰ってあっさり捕まえてたじゃない」


妬いてる楓奈は本当に可愛い。ちょっとわざと仕掛けてもいいかもしれないと思うくらいに好物すぎて、悪い気を起こしてしまいそうだった。


とはいえ、今の弱っている楓奈には流石にそれはできない。


「向こうに帰ってからセックスした女の子の方は、楓奈に会う前から何度かしたことがある子だから。体の相性は前から悪くなかったのもあって、気が向けば声を掛け合う関係だったんだ。わたしが久々に帰ってきたからって誘われたけど、その時は全然乗らなかった」


「ふぅん」


この話は鬼門だとわかっているけど、隠せば隠すほど楓奈の機嫌が悪くなることを知っているので、正直に話すことにする。


「ほんとだって。何があったんだろうって思うくらい、全然気持ち良くなかったんだ。その後に楓奈が来てくれて、楓奈じゃないともう駄目なんだってはっきりわかったんだから。拗ねないでよ。仲良くしよう?」


楓奈を横抱きにしたまま顔を近づけると、楓奈が頬を膨らませる。


「今日は生理だから嫌」


「じゃあ胸だけで我慢するから、ちょっとだけでも」


「毎日触りすぎていたら飽きるよ」


「飽きないよ、楓奈には」


生理でいらいらしているせいもあるかもしれないけど、確実に今日の楓奈はご機嫌斜めで、流石に今日は触れるのは諦めるべきかと思い始める。


「たまには別々で寝るのもいいんじゃない?」


「泣くよ? 楓奈が乗り気じゃないなら彩葉ちゃんを誘おうって件もなしでいいから」


「そこまでは言ってないよ。単に右星かなでの性欲に呆れてただけ。相阪さんは元気づけたいし、右星が考えてくれた案で行くでいいよ」


「楓奈が冷たかったら、頑張る気がしません」


しょうがないなぁと言いながら楓奈はソファーの上で向きを変えると、そのままわたしを抱き締めてくれる。


「右星のことは愛してる。ただ、今日はちょっとしんどいから触れ合うのは我慢してくれる?」


「うん。しんどいなら先に寝る?」


「そこまでじゃないけど、ごめんね」


その夜は、やっぱり先に寝ると寝室に向かった楓奈にストレスを掛けたくなくて、たまにはソファーで眠ろうかとわたしはうとうとしていた。


それなのに楓奈が風邪引くよと起こしに来てくれて、結局楓奈に手を引かれて一緒のベッドで眠りについた。


しんどくてもわたしには気を配ってくれる楓奈は、やっぱりわたしの大好きな楓奈だった。


もう世界中にわたしのだって叫んでもいいんじゃないかと思う。

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