第10話 美少女の悩み - KANADE -

結局、田町先輩と相阪あいさかさんはつき合うまではいかないものの、真剣に向き合ってみようにはなったと、田町先輩と相阪さんの両方から私に連絡はきていた。


田町先輩に勧めておいてだけど、私は田町先輩が相阪さんをどう捉えているのかがいまいち分かっていない。


あれだけ可愛い後輩に告白されたら、断りづらいのはなんとなくわかる。それがつき合おうになれるだけの可能性を秘めているのか、ただの同情なのか、どちらもあり得そうだと思っていた。


田町先輩との会話の中でもあえてそのことにはわたしは触れずに、三ヶ月が過ぎようとしていた。


お試しでデートするにしても、そろそろ判断がつく頃合いではないかと思っていた所に、相阪さんから呼び出しが入った。


こうなった以上私はどちらからも相談される立場にあるので、できれば踏み込みたくないという思いはある。


とはいえ芳野よしのさんしか相談できる人がいませんと相阪さんに言われると無下にもできなくて、前回と同じレストスペースで待ち合わせをした。


約束の時間に向かうと相変わらずの美少女な相阪さんが既に到着していた。


遠目に見ても可愛い容姿で、星の数ほど男性に告白されていそうだけど、入社してずっと田町先輩が好きだったと聞いているので、全部断っているのだろうか、と何となくそんなことを考えてしまう。


「お待たせしました」


「芳野さん、こちらこそすみません。お呼び立てしてしまって」


美人に微笑まれると、つられてわたしまで笑顔になる。

やっぱり美人だなと思いながら、別のタイプの美人である田町先輩と相阪さんがデートしている所をなんとなく想像して、きっと人目につきすぎるだろうなと想像してしまう。


更に二人のキスシーンまで浮かんでしまって、あまりのきらきら具合に妄想だけで照れてしまう。


美人同士がくっつくのは世界にとっていいことなんだろうか、悪いことなんだろうか。


「私も休憩したかったので、大丈夫です。何かありましたか?」


その言葉に対象は指定しなかったが、相阪さんには何を指すかは伝わるだろう。


「あれから休日には一緒に遊びに行ったり、ご飯を食べに行ったりしてます」


「それは良かったですね」


「はい。でも、一緒にいればいるほど、もっと近づくにはどうすればいいのか分からなくて……」


照れを隠そうとしているのか、相阪さんはカウンターテーブルの上で人差し指同士をくっつけたり離したりしながら顔を上げてはくれなかった。


「相阪さんって今までに恋人がいたことは?」


「それはあります。でも、田町さんは何を考えているのかが見えなくって……一緒にいて楽しんではくれているのかなと思ってます。笑顔も見せてくれていますけど、ワタシをどういう存在として見てのものか分からなくて……」


抱き締めたくなるような可愛さだとは想いながらも、やっぱりなと溜息を吐く。


恋人がいたことがない田町先輩にとって、その領域を認識させるのは簡単なことではないだろうとは思っていた。田町先輩は相阪さんのことを好意的に見ているので、デート的なことをするのは抵抗はないにしても、恋人らしさを出せるかと言えば別だろう。


「どう思いますか?」


いきなり美少女に直視されて、私はちょっと照れてしまう。もし、私が田町先輩の立ち位置にあったら、一瞬で手を上げてしまうに違いなかった。


私には右星あきらがいるからと意識を戻して、


「どうしてそれを私に聞くんでしょうか?」


「田町さんの後輩で田町さんのことをよくご存知なのと、同じ女性しか愛せない方だからです」


「……気づかれていたんですね」


以前も右星に分かると言われたことがあったけど、相阪さんとはそれほど接点がないにも関わらずはっきり断言されてしまったので、自分はそれほど分かりやすいのだろうかと思ってしまう。


そして薄々そうかなとは思っていたけど、相阪さんも私と同じレズビアンだった。ということは過去の恋人も女性である可能性が高い。


「はい。そうだろうと感じていたので芳野さんと田町さんが仲良くされているのを見て焦りました」


なるほど、と以前相阪さんに呼び止められた理由を知る。私が田町先輩に手を出したのではないかと探りを入れられていたのだ。


「私と田町さんはただの先輩と後輩ですよ。私には恋人もいるので」


その言葉に相阪さんの目が輝くのが分かった。


「もう少しじっくり相談させていただけないでしょうか? できれば定時後に」


またこのパターンかと思いながら、どういう関係であれ美少女との飲み会は右星がまた拗ねる原因になる。


そろそろ本気で何をやらされるかわからなくなっているのだ。勘弁して欲しいと思ったところで、一つ相阪さんに提案をし、その条件ならばつき合うと返事をした。

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