第9話 妬くなという方が無理がある - AKIRA -

その日は午後を過ぎた時点で楓奈かなでから連絡があって、またしても先輩と呑みに行くからという衝撃の通知に、ふて腐れたままわたしは家に帰った。


楓奈はもうちょっとわたしに対しての配慮があってもいいと思うと、誰にぶつけることもできない愚痴を抱えたまま、帰っても当然何もする気がしなくて、リビングのソファーでふて寝していた。


別にわたしだって毎晩楓奈にべったりしているわけじゃないけど、同じ空気を共有し合うことが重要で、楓奈はそういうところを分かってくれない。


ただいまと楓奈が帰ってくる声がしたけど、わたしはそのままふて寝を続けた。


用件は聞いていても、楓奈がその先輩と呑みに行くのは無意識下で嫌だという思いがやっぱりある。


だってどういう事情であれ楓奈が世話を焼くということは、その先輩を意識しているということなのだから。


右星あきら、一緒にお風呂に入ろう?」


「楓奈なんかもう知らない」


ソファーの背の方を向いて楓奈と顔を合わさないようにしていると、楓奈はソファーの前に座り込んできて、わたしの頭を撫でる。


そんなことで絆される気はなかったけど、


「拗ねない、拗ねない。一緒にお風呂に入ろう?」


「…………」


「しょうがないなぁ。お詫びに今日はお風呂で右星の好きなことしてあげるから」


「……じゃあ全身手で洗っていい?」


楓奈に背を向けたままで、敢えて無茶なことを言ってみる。これまでこの要求は楓奈には通った試しがない。


「うーん、右星がそうしたいならいいよ。だから一緒に入ろう?」


その誘いは壮絶に性欲をそそられて、結局わたしは誘いに乗ってしまった。


こうなったら本能のまま行こうと二人でバスルームに向かう。


服を脱いで楓奈と手を繋いでバスルームに入って、一緒にシャワーを浴びる。


今の部屋を決める時に決め手になったのはこのバスルームのオーバーヘッドシャワーで、二人で浴びれるのが気に入っていた。


シャワーを緩めて、楓奈のお気に入りのボディソープをいったん泡立て用のネットで泡立ててから手に戻し、楓奈の体に乗せて行く。


くすぐったいと楓奈から抗議の声は何度か上がったものの、全身を隈無く洗い尽くして行く。


楓奈はいつもの楓奈で、自分が嫉妬するようなことなど何もなかったのは分かっていても、何かを得ないと心が落ち着かない自分は子供だなとは思っている。


でも、楓奈には自分だけを見て欲しいのだ。


「今思ったけど、逆にすれば良かった」


その意図がわからずに楓奈は首を傾げている。


「楓奈に全身で洗って貰えば良かったなって」


「……それってソープじゃない」


「ほんとだ。なるほど、ソープってそう思えば結構夢を叶えてくれる場所なのかも」


「じゃあ行ってきたら?」


「楓奈じゃないと意味ないでしょ」


冷たく言われたけど、今のわたしは楓奈以外にして欲しいなんてもう思わなくなっている。


どうやったら誘えるかとシミュレーションしていると、楓奈にそんなことはしないとぴしゃりと言われる。


「えーっ」


「普段から好き放題人の体を触りまくっているくせに、わざわざそんなことしなくてもいいじゃない」


それ以上のこともいっぱいしたけど、それとこれとは話が別なので、わたしは次に何かあった場合に持ち越ししようと思う。


「じゃあ、今日はがっつりやっていい?」


昨日の夜満たされたはずなのに、もう新たな欲が溢れていて、それは楓奈でしか埋められない。


「ノーとは言わないけど、今日はビール飲んだから途中で寝ちゃうかも」


「えーっ。わたしは呑んでないのにつきあってよ」


「いいから、そろそろ上がろう? また逆上せちゃうよ」


その提案に渋々バスルームから出て、体の雫だけを簡単に拭うと、服も着ずにそのまま楓奈と一緒に寝室に向かった。


ふて腐れていたはずなのに、もうすっかり楓奈といちゃいちゃすることに夢中になっているあたり、単純すぎるかもと思ったけど、悪いと思っている時の楓奈は普段より無理な要求を聞き入れてくれるので、どうしても燃えてしまう。

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