第7話 再会

吐き出した息が白くなる時間に楓奈かなでは家を出て、新幹線に乗って日向ひむかいの住む街に旅に出ていた。

一人で新幹線に乗ることすら初めての楓奈は、それだけで不安いっぱいで、到着した駅の改札で出迎えてくれた日向に思わず抱きついてしまう。


久しぶりと変わらない笑顔を日向は見せる。


「こ、これは無事右星あきらに会えたっていう安堵のやつだからね」


抱きついた理由を誤解されたくないと、楓奈は訂正をすると日向はうんとだけ頷く。


折角だから軽く観光しようかといくつか日向が上げた候補地を選んで観光をして、少し早めの夕食を済ませてから日向の部屋に二人で向かった。


楓奈は土日を使った一泊だけの予定で、家にあるものを使えばいいと日向が言ってくれたこともあり、楓奈の荷物は少し大きめのバッグに最低限の着替えと化粧品が詰まっている程度だ。


日向が夏の終わりに戻ってから借りたという部屋は普通の1Rで、配置は違っても備わっているものは楓奈の部屋と大差はない。

ただ転勤になる前に荷物を極力減らしたらしくあまり物がない部屋だった。


日向の部屋に着くなりシャワーを浴びたいのならどうぞとバスルームに案内され、交代で今は日向が入っている。


あっさり応じてしまったが、それはこの後にする行為を完全に楓奈が受け入れていることになる。


そんなつもりがなかったのか、と自問自答してみて、期待をしていなかったわけではないという結論にしかならなかった。



右星に触れたい。



それは事実だった。


バスルームから出てきた日向は、寝室は上だからとロフトに一緒に登り、そこに敷かれた布団の上で誘われるままに体を合わせた。


久々の日向の匂いは、それだけで過去を呼び覚まし、忙しいながらも体を求め合った日々に楓奈は一瞬で戻ってしまう。



先のことなどあの時は何も考えていなかった。



このままが続くと思っていたわけではなかったが、熱だけが日々の憂さをかき消してくれた。


「うーん……」


夢中で求め合い、一息ついて日向の布団に並んで寝転がっていると、隣で俯せで上半身を逸らせて肘をついている日向の悩み声が届き、何を考えているのかを問う。


「言ったら怒るから言わない」


「言わなくても怒るけど」


「じゃあ言わない」


「言いなさい。散々人の体で好き勝手したんだから」


気になるような態度を取られて、曖昧にされるのは余計にストレスになる。それが体を重ねた後であれば尚更だった。楓奈の責めに仕方なく日向は口を開く。


「…………やっぱり体の相性がいいのは楓奈だなって」


その言葉は、比較対象があってからこそ成り立つ台詞だ。

楓奈に会う前にももちろん日向には恋人なり体を重ねる存在なりがいたはずだったが、今の言葉はそうではなく最近、つまり転勤が解除されて戻ってから誰かと肉体関係を持ったということを示していた。


「嬉しくない」



嫌だと思うはっきりとした気持ち。



それは楓奈は日向を自分のものだけにしておきたいという独占欲を示していた。


「相手がいるなら来ていいなんて言わないでよ」

「…………ごめん」


日向の声には罪悪感が含まれている。それが尚更楓奈の気に触った。わかっていて、わざと日向は楓奈を招き、楓奈を抱いたのだ。


楓奈はあまりにも独りよがりだった自分に気づき、散らかった自らの服を拾い集めると身に纏い始める。


「楓奈、ごめん」


「右星が謝る必要ないでしょう。そういう人だって知っていたけど、勝手に私が押しかけただけなんだから」


その日は日向の部屋に泊めてもらう予定だったが、一緒の部屋にはもういたくないから外で泊まると告げ、ロフトを降りて荷物を掴むとまっすぐ玄関に向かった。


「もう遅いんだから、危ないよ」


「私がどうなったって、関係ないでしょう右星には」


「……そんなことない」


「じゃあ仮に私が襲われて、あなたとどう違うの?」


どうせ楓奈の体にしか興味がないのだろうと日向を切り捨てる。


「…………楓奈」


「私はやっぱり、体だけじゃなくて心も伴わないとこんなこと意味ないと思ってる。右星には右星の考えがあるからそれを否定するわけじゃないけど、私は好きな人と体を繋ぎたいし愛し合いたい。今までそのことは棚上げしてたけど、もう分かったから。右星とはこれ以上いても求める未来があるわけじゃない、これで本当に終わりにしよう。連絡ももうしないから」


そう言って楓奈は右星の部屋を後にした。

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