第4話 日向との関係
あの夏の日の夜、
一度きりのつもりだったはずが、楓奈のスマホに週末近くになると日向から家に行ってもいいかというメッセージが届く。
愛し合っているわけでもない熱を感じ合うだけの関係であるのに、日向はいつの間にか猫のように楓奈の隣にぴったりとくっついてくる。
ただし、追えば離れるだけ。今の関係性だからこそ日向は楓奈の元に来ているのだとは感じていた。
その日も二人で外で夕食を取って楓奈の部屋に帰り、シャワーだけを浴びて、そのまま楓奈のシングルサイズのベッドで体を合わせる。
回数を重ねれば日向の好みも、動き方にも楓奈は慣れていく。日向は胸に触れるのが特に好きで、下手をすれば1時間でも2時間でも楓奈の胸だけを触っている。
「このちょっと溢れそうなくらいのサイズが堪らないんだよね」
楓奈の胸を片手で掴みながら、日向は上機嫌だ。
「でも、男の人は胸がないけど、それはいいの?」
日向は男女拘りがないとは何度か聞いている。
「鍛えてる人だとそれはそれで愉しいよ? でも楓奈はそんな筋肉むきむきになっちゃ駄目だからね」
「なりません」
「そうして。好みのおっぱいはそのままでいて欲しい」
「胸だけが目的ってことは良く分かりました」
「胸だけじゃなくて、楓奈の体全部が好みだよ」
悪びれもなく言う存在に楓奈は溜息を吐く。
元々の人懐っこい性格が楓奈に日向を強く拒否できなくさせていることは分かっていた。軽く触れ合うの延長線上で日向は楓奈に触れてくる。
そして体に火がついてしまって、楓奈は断る隙も与えられずに日向に翻弄されているが毎度のパターンだった。
今日も結局そのパターンで日向と抱き合い、一緒の布団で裸のまま眠ることになる。
「そういえば毎週来てるけど、向こうに帰ったりしなくていいの?」
金曜日の夜に楓奈の家を訪れ、翌日帰ることもあれば出勤日までずっといることもある日向にふと楓奈は尋ねる。
プロジェクト転勤しているということは、日向は今住んでいる部屋とは別に家があるはずだったが、一度も帰るという話を聞いたことがなかった。
「1年以上って言われたから借りてた部屋解約して、荷物はトランクルームに預けてきたから帰る家なんてないよ。うちの親は離婚していてどっちも再婚してるから、実家的なものもないしね」
「ごめんなさい」
「謝らなくていいんじゃない? 別に悲観してないよ? 縁を切ってるわけでもないし、どっちとも仲も悪くないから。ただ行き来が少ないってだけ。まあ今更親に会うよりも、こっちでここに来る方が楽しいしね」
愛し合っているわけではない。
それでも体を求め合い溶け合うことに手放しがたさを覚えて、毎週訪れる日向を楓奈は拒否できていなかった。
日向とすることはせいぜい食事とセックスと睡眠の三大欲を満たすことだけだ。
「それとも楓奈はわたしのこと邪魔?」
「邪魔ってことはないけど……」
機嫌が悪い時は察して日向が帰ってくれることは楓奈も気づいていた。だからこそ邪険にはできずに結局ずるずる今が続いている。
「嫌なら嫌って言ってくれていいよ。束縛し合う関係でもないし、ストレスを感じるなら我慢しなくていいから」
「大丈夫」
そう答えたものの日向の目的が体でしかないことを改めて楓奈に伝えた。
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