【2】
朱音からの相談を切っ掛けとして始まったその時から、いろんな事態が
とりあえず、まず先に結論から言うと、
藤田栗子、
藤田リコ、
ルカ=ホリィ、
そして、大和朱音、
以上の四名が、新しいヒーローとして
その時のことを、蒼澄は、一分一秒でも思い出せるくらい、深く脳裏に刻まれている。きっと、朱音たちにとっても忘れられない日であるなら、蒼澄にとっても忘れえぬ日であるのは間違いなかった。
蒼澄が思うに、自身が【怪人】となる過程においてルーツと相成った場面は、間違いなくここにあると考えているからだ。
そんな訳で、場面を移す。朱音と蒼澄がルカと合流し、
「なンなンだよ、一体よォ……」
「イライラしててもしょうがないでしょうが」
「ま、まぁまぁ、ルカちゃんも朱音ちゃんもそれくらいにして……」
「ごめんねぇ、皆。窮屈な想いをさせちゃって」
「…………」
どこかそわそわしていら立ちがが隠せない朱音とルカ、それを蒼澄はなだめようとしている。口数少ないリコは、不安げな表情で蒼澄にべったりだ。そんな様子を、栗子は若干困ったような顔で見つめている。
そして、ヴィランは世界各地で活動している。ということは、つまり、
さて、五人が待機しているのは、その東京本部の客室。その中でも最上級のゲストに通される、いわゆるVIPルームだ。世界有数の規模を誇る、東京本部の、VIPルームである。
それだけで、今彼等の置かれた事態がどのようなものか把握出来るものである。
「でも……驚きました。まさか栗子さんも同じ夢を見てたなんて」
「ほんとねぇ〜〜」
朱音の言葉に、ゆったりした口調で栗子が答える。藤田栗子という人は、よほどなことがない限り、そのおっとりしたペースを崩さない。叔母のそんなところは、蒼澄も素直に尊敬していた。
(もっとも、叔母さんは事情をある程度把握してるんだろうな)
蒼澄が栗子を見つめる。藤田栗子は、その時点でヒーローではなかったものの、ヒーローと関わりの深い立場にいる人物だった。
なにせ、栗子はこの
「栗子叔母さん、実際のところ朱音ちゃん達に何が起こってるの?」
なので、蒼澄はそのことをストレートに聞いてみることにした。
「一応ある程度は把握してるけどぉ……多分、私からじゃなくて然るべき人から話を聞いた方が良いと思う」
「然るべき人……?」
蒼澄がいぶかしむと、部屋のドアからノックの音がした。栗子が、どうぞ、と返事をする。
「やぁ、皆集まってくれているね。ありがとう」
部屋に入ってきたのは、蒼澄の父、藤田小五郎だった。
「小五郎さん! あの、これは一体……?」
「一体アタシ達に何があったンですか!?」
「ごめんね、朱音ちゃん。ごめんね、皆。本当はすぐにでも事情を話たいとこなんだが……もう一手間かけてもらっても良いかな?」
朱音達の
「父さん、その話、僕も聞いて良いものなの?」
蒼澄が小五郎に問う。朱音達のことが心配でここまで来たが、これ以上踏み込んで良い話なのかは彼自身確認しておきたかった。
「問題ない、むしろいてくれ。確かにお前と直接関わりのない話なのだが、いくらなんでも当事者達と関わりが深い。このまま何も知らずに過ごせという方が無理な話だ」
小五郎が神妙に答える。冷静に考えて、幼馴染、親友、叔母、義妹が関わっているのだ、
「質問はこれ以上なさそうかな? それじゃ、案内するから着いてきてくれ」
その場に座っていた全員が静かに立ち上がる。朱音も、ルカも、リコも、栗子も、誰もかれもが落ち着かない様子に見える。そして、それは、蒼澄自身もそうだ。
もしかして、自分は、
小五郎を先導にして連れられた場所にいたのは、一人の青年と、一人の老婆。他にも蒼澄の義母であるノザーテや大和家の両親もいたが、先にあげた二人の存在感はやたらと際立っていた。ノザーテも、朱音の両親も、明らかにその雰囲気は緊張が支配している。
「初めまして、この日本における
ダークブラウンのプレジデントデスクの向こうで、革製の高級椅子に座っている青年が、部屋に入ってきた蒼澄達に微笑みながら声をかける。
「嘘……でしょ……」
「おいおいおい、マジかよ……」
朱音とルカが驚愕に目を開く、ルカも栗子も萎縮していた。もちろん、蒼澄も平静を保てなかった。
「はは、緊張しないでも大丈夫ですよ」
青年は笑いかけるが、無理な話であろう。何せ、この青年こと白原眞一郎、ヒーローとしての名はブレード=ゼロ、
つまるところ、ヒーローが中心となった
「総帥、緊張するなというのは流石に無理がこざいませんか……」
そんな蒼澄達の様子に気を使ってか、小五郎が白原に口を挟む。言葉こそ相手を立てたものになっているが、語調が軽い。二人の仲に親しいものが築かれていることが伝わるものだった。
(父さん……本当に凄いヒーローなんだな)
蒼澄は、父の偉大さをを改めて感じた。今までが感じてなかった訳ではなかったのだが。
「むう……そんなものですかねぇ」
「お気持ちは察しますがね……総帥、なにはともあれ本題に」
「ああ、そうですね。では、マルーゼさん、よろしくお願い出来ますか?」
そう言った白原が、隣に控えていた老婆こと、マルーゼに目を配らせる。とても穏やかで品のある女性だった。彼女はうなずいた後にゆっくり立ち上がると、静かに朱音達へ近づく。
「ああ、確かに良く似てるわぁ」
嬉しそうに、懐かしそうに、マルーゼが呟く。
「ごめんなさい、あなたたちが受け取った宝石を、見せて頂いてもよろしいかしら?」
ゆっくりと、優しくマルーゼが問いかける。マルーゼという女性に何かを感じていたのか、呆けたように彼女を見つめていた朱音達だったが、その言葉を耳に入れた途端、弾かれたように慌てて宝石を取り出した。
マルーゼが、吸い込まれるように朱音達の手に収まっている宝石を見つめた。ややあって、彼女の瞳から一粒の涙がこぼれ落ちる。
「ああ……間違いありません。この宝石は、間違いなく、ティアエレメンタルの証です」
マルーゼが、静かに語る。
「…………え?」
「…………は?」
「…………??」
時が止まったかのように、朱音、ルカ、リコの動きが止まる。栗子だけは、その言葉を覚悟していたかのように、決意に満ちた瞳で手元の宝石を見つめていた。
「よく聞いてね、あなた達は、選ばれたの。この世界を救ってくれた伝説のヒーロー、ティアエレメンタルを継ぐ者として、あなた達が」
マルーゼが、朱音の手を取り、握りしめる。朱音は、もはや完全に脳の処理がオーバーフローしたようで、ただただ唖然とした表情でなすがままにされているだけだった。
蒼澄もまた、事態を全く飲み込めず、所在なさげに視線の先を父である小五郎に向けた。小五郎は、
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