第一話
彼はいかにして怪人となってしまったのか
【1】
この計画の最終目標はざっくばらんに言えば、【人類を次のステージへと進化させる】である。
超能力、魔術、最先端科学技術、聖なる力、古代の超力、宇宙の神秘、星の意思、妖精の祝福、理力、闇、忍者、秘密のパワー、恐竜パワー、百獣パワー等々、
しかしながら、これらの一般人離れした力を持てる者は、ほぼ全てが才能によったものなのであった。
もちろん、全ての人物が生まれ持った才能でこれらを所持していた訳ではない。後天的な要因によってそれを手に入れたものもいる。
しかしながら、だとしても、確実な方法で特別な力を持てた人物は皆無なのであった。
生きるか死ぬかの修行を経て力を手に入れた者。
改造手術に適応出来た末に力を手にした者。
一等の宝くじに当たったレベルの幸運によって力を手にした者。
どれもこれも、全ての人間が同じように真似をしたとして、同じ結果が出てくるようなものではなかった。であるならば、それは、備わった才能があったゆえに力を手にしたのと何も変わらないと言えるのではないだろうか。
少なくとも、
【特別な才能が無くても特別な能力を得る】。
全ての人間がそうなれば良いのだ。
で、あるがために、進化。全人類がすべからく超人的になり、特別が特別でなくなる。それこそが
それを達成するために生み出されたのが、【G.S.ナノマシン】と【S.C.細胞】である。
異世界に生きるオークやケンタウロスといった
書き換わった遺伝子を元に、身体をその遺伝子がもつ特性に見合った形状に変化させる役目を持つのが、【S.C.細胞】。
この二つを使えば、理論上は全ての人類が超人的な力を持つことが出来るようになる。将来的には、動物以外の特性を持つことだって可能になるかもしれない。
だからこそ、データを集める必要がある。
そのために考案されたのが、
△△△
その日は、様々な人達にとって特別な日になった。藤田家と大和家にまつわる者達にとっては特にそうだろう。蒼澄と朱音が、まだ高校生になる前、中学生の時の話だ。そのころの二人は中学三年生であり、進路も固まりつつある中で冬の季節を迎えようとしているところであった。
始まりは、朱音が蒼澄に持ちかけた相談からだ。
『不思議な夢を見た』
『起きたら身に覚えのない宝石を握っていた』
『何だか良く分からないから見て欲しい』
こんな風に蒼澄は朱音から相談を持ちかけられたので、とりあえずは朱音の部屋に訪れ、その相談に乗ることにしたのだ。
余談だが、朱音の部屋は蒼澄にとって第二の自室と言っても良いくらいには馴染みがある。女の子の部屋を訪れてドキドキ、みたいなラブコメみたいな展開は残念ながら(?)期待出来なかった。
「それが例の宝石?」
「うん」
蒼澄が朱音の手に収まっている宝石をまじまじと見つめる。金の装飾が施された、美しい輝きを放つルビーである。形状は、まるでこぼれ落ちた涙を思わせるかのようなドロップカットだ。
「夢の内容は思い出せる?」
「えっとね……」
一つずつ記憶を手繰り寄せるかのように、指に手を当て眉根を寄せながら朱音が少しずつ答えていく。
『失われた力が回復しました』
『貴女は光り輝くエレメンタルの力に選ばれたのです』
『貴女の力は、炎』
『どうか、この力を、受け継いで下さい』
『伝説の戦士の力を……』
「こんな感じのことを、すごく綺麗な女の人が出てきて言ってくれたの」
「で、目覚めたらそれが握られていたってことなんだね」
こくんと、小さく朱音がうなずく。
「身体に異変とかは? なんか悪影響ある?」
「ううん、特には……」
朱音がそう答えたように、蒼澄から見ても外見上朱音に特別な変化はないように思えた。
「ねぇ、この宝石どうしようかな?」
少しだけ不安そうに朱音が蒼澄に問う。悪い影響を与えるものではなさそうとはいえ、流石に色々唐突過ぎて朱音も困惑を隠せないようだ。
そんな朱音の様子を見ながら、蒼澄は目をきつく閉じて、腕を組んで考え込む。彼は、何と言葉を出して良いか分からない心持ちになっていた。というのも実は、すでに似たような話を、蒼澄は聞いてきたばかりだからだ。
「実はさ……今朝、リコからもほぼ同じ相談をされたんだ」
「リコが?!」
朱音が驚愕に目を見張る。彼女としても全く予想してなかったのだろう、気持ちは蒼澄も大変に共感出来た。
「だからさ、すごい驚いてるんだよ……夢の内容もほぼ同一。違うとこがあるとすれば、リコの宝石はエメラルドってとこくらいかなぁ?」
「そうなんだ……リコは今どうしてるの?」
「それなんだけどさ、朱音ちゃん、このことをご両親には言ったの?」
「え? その、まだ言ってない。今日忙しそうだったから、さきに蒼澄に相談してからにしようかなって……」
蒼澄の言葉がまたしても想像しなかった方向から来たからか、朱音が徐々に不安の顔色を強くする。蒼澄はそれに気づきつつも、状況の共有を優先して彼が知る事情を話す。
「この話なんだけどね、父さんと義母さんが聞いた時、いきなり血相を変えてリコを
「小五郎さんとノザーテさんが?」
「うん。確か、朱音ちゃんのお父さんもお母さんも
「う、うん」
想定しない方向にどんどん話が大きくなることを感じたのか、朱音の表情は不安を飛び越えて混乱の域に達している。蒼澄としても、出来れば彼女を気づかってあげたいのは山々だった。なんだが、彼自身も混乱している部分があり、とにかく今は事態の整理を優先しようとした。
「これ、多分ヒーローとしての何かが関わってるんだと思う。だから、忙しいところ申し訳ないけどすぐに朱音ちゃんのお母さんとお父さんに連絡して……」
「ま、待って!! 今ルカから連絡来てるんだけど!! 見て!!」
朱音がいよいよ混乱極まった顔で叫ぶ。彼女の言葉を受けて、蒼澄もすぐさま自分の携帯を見る。共通の友人であるルカ=ホリィから、朱音と蒼澄へ同時に同じ内容の連絡が来ていた。
「これって……」
「同じじゃない……私達と……」
二人揃って目を見開く、ルカから来た連絡は今しがた自分達が相談していた内容とほとんど同じであったためだ。
無言でお互いが顔を見合わせる。もはやどんな言葉を発して良いかも分からず、ただただ、二人は見つめ合う。
最終的に、ルカと合流して
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