第22話 イガル渓谷(12月1日加筆修正)

盗賊のアジトを爆破させたライト達は、無事林を抜け馬車の待つ場所へと帰還する。

戦利品の分配は野営の時に。と言う事で合意し、とりあえず一行は林を抜ける事に。

ライト達はエンシオの計らいで、荷馬車に乗せて貰う事になった。と言うより、歩きでは馬車の速度に付いていけないからなのだが。


ライト達が合流する前は、前3人、中2人、後ろ3人だった護衛が前4人、中4人、後4人に変わった。無論ライト達は最後尾の荷馬車だ。従業員であろう人は御者台に二人掛けで座るらしい。少し窮屈ではあるが、狭くても護衛が増える方がいいのだそうだ。


馬車は順調に進み日が沈む前には林を抜ける。そして、イガル渓谷に入る手前の平原で今日は野営をする事に。

そしてここでライトが懸念していた事が現実となる。

そう、マジックテントだ。まあ、ここまで来たら出すしか無いのだが。

ライトは即諦め、行動に移す。


「すみません。絶対に秘密でお願いします。」


そう一言釘を刺すと、球体に魔力を流しマジックテントを出す。そして全ての人が驚く。

全員の野営準備が整うと、白薔薇と雷光のリーダーに分配の話を持ち掛ける。


「分配は夕食後に俺のテントの中でしましょう。」


二人はそれに了承し、各々のテントへと戻って行く。

この商隊、エンシオ達商人、白薔薇、雷光は各々別での食事だそうだ。

なので、ライト達もテントの中で食事をする。


「今日は、パンとホーンラビットの腿の塩焼と野菜スープにしますね〜。」


ヴェルがマジックバックを漁りながら、夕食のメニューを教えてくれる。

マジックコンロが一口なので、ヴェルとティーナ二人が使うには狭い。ルゾルトに着いたら二人で使えるコンロを買わないといけないだろう。そう思いつつ、夕食が出来るのを待つ。


夕食後、白薔薇と雷光のメンバーがやって来た。テントに入るなり「スゲー!」と目を丸くして騒いでた。


「さて、盗賊のアジトで回収した物を出しますね。欲しい物が被ったら、喧嘩せず話し合いで解決して下さい。」


一言前置きをした上で、ヴェルからマジックバッグを受け取り中身を取り出す。


鉄の長剣×5本

鉄の小剣×9本

鋼の長剣×3本

鋼の小剣×3本

鉄の槍×4本

鋼の槍×2本

鉄の片手斧×5本

鉄の両刃斧×2本

鋼の両刃斧×1本

鉄の槌×2本

鉄のメイス×3本

鉄のナイフ×5本

鋼のナイフ×3本

鉄の短剣×10本

鋼の短剣×2本

弓×4本

矢筒20本入×6つ

男物の革鎧×8

女物の革鎧×4

鉄のハーフプレート×2

鉄のガントレット×2

鉄のグリーブ×2

鉄のタス×2

スクロール×5

指輪×3

首飾り×4

宝石各種

お金×金貨46枚、銀貨139枚、銅貨281枚

小麦×7袋

大豆×3袋

酒樽×10樽

水の入った樽×5樽

皮の水筒×7つ

塩壺×5壺

胡椒の小袋×2袋

干し野菜の袋×3袋

干し肉(10枚入)×10袋

堅パン(10個入り)×10袋


出してから思った事は、ショボいだ。確実に、金か宝石か装飾品に集中しそうだ。指輪も首飾りも付与の付いてない普通の物であり、売れば多少金にはなりそうではある。

ちなみに、スクロールはファイヤーアロー、アクアヒール、ウィンドアロー、アースニードル、バインドなので、強いて欲しいと言えばアースニードルくらいだ。

食糧に関しては白薔薇も雷光も要らないらしい。確かに、荷物になるし、マジックバックが無ければ持っては行けないので当たり前だ。


お金は人数で割る事になった。

銅貨換算で474128枚なので、十二人で割ると一人頭金貨3枚、銀貨95枚銅貨10枚となり、銅貨8枚余るので余りは4枚ずつ雷光と白薔薇に分配した。

分配金を一人一人に渡すのが面倒臭いので、パーティー毎に纏めてリーダーに渡してお金の配分は終了する。

後は、予備用に武器を貰えばそれでいいと言われ、雷光が、鋼の長剣、鋼の小剣、鋼の槍、鋼の短剣を。白薔薇は、鋼の長剣×2、鋼の小剣、鋼の短剣を選んだ。

実質、盗賊を倒したのはライト達なので、後はこちらで処分して換金してくれとの事だ。言い換えれば、面倒事は任せたと言う事だろう。

まあ、それはそれで別に構わないと思うライトではあるが。ついでに、売るに売れなかった諸々を一緒にギルドに売ってやろう。そう思っていた。


分配が終わると、雷光も白薔薇も各々の取り分を持ちテントを去る。

ライトは、床に置かれた物の中から売る物売らない物を分けると、売る物をマジックバッグに売らない物を収納に仕舞い込みベッドに飛び込んだ。



翌日、朝6時。目が覚めたので身支度をし、外に出て顔を洗っているとエンシオと鉢合わせる。

一言、二言話しをし、「準備が整い次第出発しましょう。時間はそうですね。8時半頃を目安にお願いします。」と、お互い時計を見ながら打合せる。

ちなみに、昨晩の分配整理が終わると即寝してしまったが、白薔薇と雷光は見張りをしていたのだそうだ。

「何で声掛けてくれなかったの?」と問うと、「子供に見張りなんかさせられるか!」と怒られた。


しかし、流石に「今晩は頼むぞ?」と言われたので、ライトは快諾しておいた。理由は、イガル渓谷を抜けるのに、二泊ほど野営をしなければならず、流石に疲労がたまる為人数が欲しいからだ。


イガル渓谷道

右にエンゲレン連峰、左にイガル山脈群に挟まれた山裾に作られた街道で、脇にはエンゲレン連峰から流れ出る小さな川が流れている。

ほぼ何も無い平坦な地形で水源が確保出来るからと言う理由で、ルゾルトの街を作る際に整備され街道となった場所だ。

その際に、どうせならずっと平坦な道がいいよね?と言う安易な理由から、進路上にある小高い丘を真っ二つに削って道を通したので、場所によっては左右のどちらか、若しくは両側に丘の名残りである断崖が続く場所が数カ所ある。要は丘を一直線に魔法でぶち抜いた訳だ。


何故そんな説明をしたか。

現在、その断崖下でロックウルフに襲撃されているからだ。

ロックウルフと言っても、岩で出来てる狼では無い。岩の様に硬い体毛が灰色掛かった色をしているからそう呼ばれている。大体5〜7匹の群れで動いており、今来てるのは5匹だ。

素早い上に連携して来るのが厄介なだけで、強さからすればランクEの白薔薇も雷光も余裕で倒す事が出来る。ちなみに、護衛対象が襲われたら元も子もないので、荷馬車には他の人に気付かれない様に結界を掛けてある。


割り当ては、ライト達が一匹、雷光が二匹、白薔薇が二匹を相手している。が、雷光はまだしも、白薔薇が苦戦しているのは毎度の事だ。見ている限り、全く連携が取れていない。そもそも、四人共前衛なので、魔法で足止めしたり牽制したりする人が居ないのが理由だ。

一匹を割り当てられ、サクッと倒したライト達は、仕方ないので白薔薇を助けに入る。


「スロウ」


アンとヴェルがロックウルフ二匹にスロウを掛ける。

掛けられた対象は10秒ほど動きが遅くなる。これなら余程のバカではない限り、余裕で倒せるはずだ。だが、その余程のバカが目の前に居た。

本来なら、動きの遅くなったロックウルフを誰かが直ぐに仕留めればいいだけの簡単な作業なのだが、ここでマリアリーナが各人に指示を出し始める。


「レイヤはウルフの足を狙え!レイヤが足を狙い動きを止めたらたら、セシリアはウルフの首に剣を突き立てろ!ミルヴァ、私がウルフの動きを止める!動きの止まったウルフなど敵ではない!お前がトドメを刺せ!」


そう、これで10秒取ったのだ。

マリアリーナが指示を出し終わると同時に、ロックウルフが通常の動きに戻る。

そして、更に苦戦する。


「アホか……。」


ライトは頭を抱えて溜息を吐くと、そう一言呟く。

エンシオがライト達と一緒に行きたいと思う気持ちが良く分かった気がする。雷光のメンバーもこれには苦笑いだ。

その後、苦戦こそしたが無事にロックウルフを倒す事が出来た白薔薇。

とは言え、何度となくライト達が陰ながら援護したお陰ではあるのだが。

その後もロックウルフ、ロックリーザード、ロックワームなどと遭遇。一々倒すのに時間が掛かり、夕方になる頃にも関わらず1/3も進めてはいなかった。


その夜、各自テントを建て終え夕食を食べようかと思っていた時の事だ。

雷光メンバーが、ライトのテントへとやってきた。


「ライト、ちょっといいか?」


一応、結界があるから中に入れない事を知っているヴィーゴは、テントの前でライトを呼ぶ。呼ばれたライトがテントから出ると、雷光のメンバーを中に招き入れる。


「どうしたんですか?」


「いや、何かお前らに悪い事したと思ってな。」


そう言ってバツの悪そうな顔をする雷光メンバー。

要は、依頼を受けてないライト達に対し、依頼を受けている雷光が迷惑を掛けっ放しの白薔薇の事で謝りに来たと言う図式だ。

実際、盗賊の件に関しても、ロックウルフに関しても、白薔薇がまともに動けてない以上、場合によっては依頼達成にはなっていなかった可能性は否めない。

依頼達成出来ないならまだしも、もしかすると死んでいたかもしれないのだ。


「別に大丈夫ですよ?俺達も楽させて貰ってますし。それに、ヴィーゴさん達が謝る事じゃないですし。」


「いや、まあそうなんだけどな……。俺達、お前らに助けて貰ってばっかりでよ、そんなんで依頼達成になってもいいもんかと思ってな。白薔薇も悪い奴らじゃないんだが……如何せん、元貴族令嬢ってのがな~。」


なるほど、問題指摘したいが、元とは言え貴族令嬢だから言い辛いと言う感じらしい。


「ルゾルトでは結構有名なパーティーなんだ。白薔薇は。いい意味でも、悪い意味でもな。」


長い話に入りそうだったので、腹が減っていたライトは一緒に夕食をどうかと誘ってみる。


「長くなりそうですし、夕食はもう食べましたか?まだなら、一緒に食べませんか?」


「ああ、晩飯はまだ喰ってない。でも、いいのか?んじゃ、お言葉に甘えて。」


立ち話だったので、雷光のメンバーをソファーに座らせライトもソファーに座る。

豪華な応接用ソファーなので、一人掛けが二つと三人掛けが一つと言う組み合わせだ。なので必然とライトの隣に誰かが座る事になるのだが


「はいはーい!私ライト君の横!」


アイノがスッと隣に座った。アンとティーナはベッドに腰かけている。

全員が座った所で、ヴェルが小麦のオートミールをテーブルに並べると、食べながら話を始める。


「うんめぇな、これ。いつもこんなの喰ってんのか?羨ましい……。ま、それはともかくとしてだ。あの白薔薇なんだが、もうわかってると思うが騎士崩れなんだよ。確か聞いた話では、マリアリーナが伯爵令嬢、ミルヴァ、レイヤ、セシリアは伯爵家子飼いの子爵令嬢、男爵令嬢、騎士爵令嬢の次女以下って話しだな。」


ヴィーゴはオートミールを美味しそうに食べながらそう話す。


「小さい頃から必死に訓練してきたにも関わらず、騎士にはなれず。冒険者になったはいいがその癖が抜けないから、今日見た通り。一瞬の勝機を逃す事が多くてな。特にアンナリーナが酷い。だが、相手は元とは言え貴族令嬢だ。俺達平民上がりの冒険者が何も言えねえ。今回の依頼も、最初は喜んだんだぜ?だって、護衛依頼は依頼料が高いからな。だが、もう一組が白薔薇と聞いて愕然としたよ。多分、依頼失敗になるかもしんねぇってな。だから、お前らが現れて、一緒に行動してくれて俺らすんげぇ助かった。つかお前、年齢の割に強すぎだろ!あっちの嬢ちゃん達も強すぎるぞ?」


他の雷光メンバーもオートミールを食べながら「うんうん」と頷いている。

そんな事言われても、返答に困るのだが。


「ま、まあ、俺達の事は詮索しないで下さい。色々事情があるんで。それよりも、俺達はルゾルトまでは一緒に動くので、それまでは精一杯護衛しますから。」


「おう、それ以降も俺達はルゾルトで冒険者やってっからよろしくな。ま、それは置いといて、同じ護衛依頼を受けてんのに、相方パーティーがあれだからな。何かお前らに申し訳ないと思って。だから、俺らの気持ち的に詫びに来たって訳だ。食事までご馳走になっちまったがな。」


ヴィーゴ達雷光のメンバーが頭を下げ、食後のロッサムティを飲んで一息吐いた後、雷光メンバーは見張りがあると言ってテントを出て行った。

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