第21話 ノーとは言えない子供(12月1日加筆修正)

ナル・シストの件が片付き宿に戻ったライト達は、翌日ヴァーノスの町を後にした。

本当は8時には出発したかったのだが、出発が9時を過ぎてしまう。

その理由は、宿を出ようと一階に下りた所、ボーイェン伯爵家の使いの者が宿に尋ねて来ていたからだ。

ライトが首を傾げながら使いの人に近付くと、「ボーイェン伯爵からだ」と言う手紙二通と指輪を預かって来たと告げられる。手紙の内一通はルゾルトの街の領主であるルゾルト辺境伯宛の手紙であり、もう一通はルゾルトのギルドマスター宛の手紙らしい。

一瞬「危険人物と思われたのか!?」と思うも、昨日のボーイェン伯爵の態度から「それはないかな?」と勝手に解釈した。

そしてもう一つ。渡された指輪は、ボーイェン伯爵領の貴族旗が描かれており、これを領主邸で見せれば、いつでもボーイェン伯爵に取り次いでくれるそうだ。要は、揉め事回避の為だ。

と、まあ、そんな説明を受けていた為、出発が遅くなったと言う訳だ。

ちなみに、昨日トシュテンが壊した扉の修理代は、ボーイェン伯爵が支払ったそうだ。結果、宿へと戻ったライトは、別の部屋に移されたのだが。


そんなこんなで、ようやく町を出て西に向かって街道を歩く。

とは言え、やはり子供4人(ライト以外は子供っぽく見えるだけだが)は目立つのか、ここでも通りすがりの旅人にジロジロと見られる。

「つか、俺以外けっこうな年なのに。」とそう思った瞬間、急に寒気が襲って来る。ギギギィっと横を見ると、冷ややかな殺気が三つ……。何故わかったんだ!?と思うも、二度と年の事を言うまいと心に誓うライトであった。



大体、初日は何の起こらず無事に過ぎるのだが、今回はちょっとした出来事が起こった。

それは、イガル渓谷に入る手前にある林に入り、半分くらい進んだ時だった。

ライト達四人が街道をてくてくと二列になって進む中、横を商人だろう幌馬車が三台連なって通り過ぎて行く。

そして奴らが現れる。


「ヒャッハー!」と言ったかどうかは定かでは無いが、通り過ぎた馬車の左側。イガル山脈の裾の方から、盗賊が現れた。その数十五人。

無論、馬車の中には護衛の冒険者だろう人達が乗っており、すぐさま馬車から飛び降り応戦していたが人数的には八人。

しかも、一組の冒険者達はまだ連携を取りながら戦っていたが、もう一組の騎士風なの女性達は、連携もろくすっぽ出来てはおらず、てんでバラバラに戦っている。

「これって大丈夫なのか?」と思う程だった。

そして、ライト達が何の警戒もせず近付いたと思ったのだろう、「僕達、逃げて!」と、騎士風の女性が叫んだ。

となると、どうなるかは予想が付くだろう。こちらを向いた盗賊達が、アンとヴェルとティーナを厭らしい目で嘗め回す。そして、子供ばかりで組みやすいと思ったのか、嬉々としてこっちに向けて走り込んで来たのだ。

これで、こちらに五人、あらに十人となった。


「殺るよ!」


ライトは「やれやれ、仕方ないな。」と思いつつ、そう一言だけ言うと剣を抜く。

アンが向かって来る五人にバインドを掛け動きを止めると、ヴェルがダークネスを掛け暗闇状態にする。

そこへライトが斬り込み、ティーナがガントレット……が汚れるのが嫌だったのか、顔面をメイスで横殴りにする。

一応言っておくと、ティーナのメイスは丸い球体では無く、棘の様な突起が無数に付いてる物だ。呪いにより筋力が半減してるとは言え身体強化で補ってる為、その一撃の破壊力は凄まじい。

棘が盗賊の頬に当たり頬に穴が開く。そしてそのまま頭蓋を貫通し、骨を砕く。

痛々しくて見てる方が、目を瞑り顔を顰めそうになってしまう程だ。


それはともかくとして、ティーナが三人、ライトが二人を倒すと、その先で戦ってる盗賊と冒険者がこちらを見て、驚愕の表情で目を見開いており、戦いの手が止まっていた。


「いや、早く倒そうよ!」


そう叫んだライトは、再び武器を片手に残りの盗賊へと駆け出す。そして、一番近くに居た盗賊の手前で飛び上がると、首目掛けて横薙ぎの一閃を放つ。そして、盗賊の首が飛ぶ。

そこからは早かった。ハッと意識を取り戻した冒険者達は、盗賊相手に持ち直し、盗賊はライト達四人を見て慌てて逃げようとする。

それを逃がさぬとばかりに追撃し、盗賊の頭と思わしき男を残し殲滅が完了する。

勿論、盗賊の頭は縄でグルグル巻きの状態だ。


「助かった。俺はランクE冒険者でパーティー「雷光の剣」のリーダーのヴィーゴだ。護衛依頼の最中だ。君ら、見た目に寄らず強いな。」


「さっきはゴメンね。逃げて貰おうと思ったんだけど、逆に寄せ付けちゃったね。私はアイノよ。雷光の剣のメンバーね。こっちが、ベッテで、こっちがアントンよ。後、もう一パーティー居るけどね。」


ヴィーゴは、両手剣を使うガチガチの戦士と言う感じだ。アイノは小剣を使ってるところを見れば、身軽な遊撃手だろう。ローブに杖を持っているベッテが魔法系、槍を持ってるアントンが中衛であろう。この四人が、連携を取って戦っていた方の冒険者だ。雷光の剣が各々自己紹介を終えた所で、もう一つのパーティーと護衛されてる商人達がやって来る。


「助太刀感謝する。私はランクE冒険者でパーティー「白薔薇」のリーダーのマリアリーナだ。一応、貴族の三女だが冒険者になった時に家名は捨てた。気軽にマリアと呼んで欲しい。メンバーは、ミルヴァ、レイヤ、セシリアの四人だ。」


「この度は、危ない所を助けて頂き、ありがとうございます。私、ルゾルトの街で商会を営んでおりますエンシオと申します。後はうちの従業員が数名程同行してますが、お陰様で誰一人欠ける事無く無事でした。坊ちゃん方には感謝しかありません。」


一気に捲し立てる様に紹介されて誰が誰だか分からないが、「まあ、ここで分れるんだし別にいっか。」と聞き流すライト。

白薔薇と言う名のパーティーは、先程連携も摂れていなかった方の冒険者だ。そして四人の装備は、冒険者と言うより騎士と言う感じだ。

エンシオと名乗った商人は、ごく一般の商人っぽい服装をしている。


「俺は、ランクG冒険者見習いのライトと言います。パーティー名はありませんけど、一応この四人のリーダーです。こっちがアン、こっちがヴェル。こっちがティーナです。ルゾルトの街に行く途中です。」


と、そうまともに言ったのがマズかった。と言うより、この道を通っていると言う事は、ルゾルトにしか繋がって無いので言わなくてもバレバレではあるのだが。


「おお!そうですか!では、どうです?街までご一緒しませんか?坊ちゃん達は見習いにしてはお強そうですが、それでも成人もしてない様子。我々としても、強い護衛が増えるのは大いに有難いですし、坊ちゃん達は我々と共に行けば安全にルゾルトに行ける。いい案だと思いませんか?」


ここで会ったが百年目と言わんばかりに、護衛の勧誘を受けたのだ。

普通の10歳児であれば、逆に諸手を挙げて喜ぶのだろうが、そこは普通ではない10歳児のライトだ。色々隠したい事もある為、理由をこじつけてでも断りたかった。


「それは有難いお申し出ですが、この後このかしらを問い詰めてアジトへ行こうと思ってます。なので、時間も掛かりますしご迷惑を掛けますから……」


「結構です」と言おうとしたが、エンシオがそれを遮る。


「なるほど!盗賊が盗んだ物は、討伐した冒険者の物ですからね。では、我々はここで少し休憩しておりますので、アジトへ行って来られたら良いと思いますよ?お待ちしておりますので、どうぞお気を付けて。」


何となく、こうなるかも?とは思っていたのだが、本当に待つと言うとは思わなかった。内心溜息を吐くライト。


「は、はあ……ではお言葉に甘えて……。」


その後、盗賊の頭を叩き起こし、アンの魔法でアジトを聞き出したライトは、殴り込みを掛け……たかったのだが、白薔薇と雷光のメンバーも同行すると言い出し、結局パーティーを分ける事に。ちなみに、盗賊の頭はヴィーゴがしっかりと始末した。

アジトに向かうのはライトとヴェル。白薔薇からはマリアーナとセシリア。雷光からはアイノとアントンの計6人となった。

その他のメンバーは、馬車の護衛として残り、仮のリーダーにヴィーゴが就く事に。残ったメンバーには、その場に切り殺されている盗賊達の装備を剥ぎ取る任務も与えられた。

アンとティーナには「やらなくてもいいよ?」とは言っておいたが。


現在、時間的には昼過ぎくらいだ。早く片付けば、夕方までには林を抜けれるだろう。

盗賊のアジトへと林の中を三十分少々進み、林を抜けた先にあったのは山脈の麓にひっそりと建つ小さな教会だった。

何でこんな所に教会が?と思うライトだったが、教会自体は石造りであり、周りには風化した木材などが転がっている。元々住んでいた住人が、別の場所へ移動したのか全滅したのかは分からないが、ここら辺には昔、村があり、誰も住まなくなった為、家などは荒んで風化したが、石造りのこの教会だけは残ったのだろう。そう解釈をした。良く分からないが。


それはともかく、教会の入口の扉の前に見張りが一人立っている。

「アジトには三人程残している。」と頭が言ってたので、中に二人いるのだろう。

どうするかと悩んだ結果、ヴェルに扉の前の盗賊を倒して貰う事に。

気配を消して盗賊に忍び寄るヴェル。そして、盗賊の後ろに回り込んだ瞬間に短剣で首を切る。見張りの男は盛大に血を吹き散らかしながら、その場にゆっくりと崩れ落ちる。

それを確認したライト達は、入り口まで進み扉を開けて中に入る。

しかし気配はするが、おかしい事に人影が見えない。


「なんかおかしいよ?気配するのに、人が居ない。」


全員で隈なく探すが、盗んだ物すら無い。


「ご主人様、これは多分地下ですね。気配は主祭壇の奥の部屋からしてますが、人が居ませんでしたし。どこかに地下に降りる階段がある筈です。」


「じゃ、私に任せて!」


そう言ってガッツポーズをすると、アイノが怪しい所を調べ始める。

そして数分後。主祭壇の下に地下への階段が見つかる。

隠し扉を開け、警戒しながら階段を下りて行くと、通路を挟んで部屋が五つ。左右に二つずつと真正面に一つの扉が現れる。

ライト達は三手に分かれて捜索する事に。

ライトとヴェルは真正面の扉から、白薔薇は左、雷光は右と言った感じだ。

二人は真正面の扉の前に来ると、気配遮断を使う。中に、人の気配があるからだ。

ゆっくりと扉を開けて行くと、中の盗賊達は笑いながら談笑していた。通路へとその笑い声が木霊する。

ヴェルと目配せをし扉を勢いよく開け放つと、ライトは左側、ヴェルは右側の盗賊に向かって駆け寄る。

そして、首に短剣を押し当てると一気に横に引く。ゴトリと言おう音と共に、盗賊が床へと倒れ込む。これでこの地下には気配が無くなった。

気配が無いと言う事は、捕まってる人も居ないと言う事だ。


ライト達の入った部屋には更に二つの扉がある。左側を開けると、そこは頭の部屋なのだろう、金や宝石など金目の物が袋に入って散乱していた。

一応後から文句を言われても嫌なので、収納から予備の背嚢を取り出すと全部詰め込む。この部屋の目ぼしい物を袋に詰めると、次に右の部屋へと向かうのだが、別段何かがあるわけでも無かった。この部屋で下っ端が寝てたのかもしれない。汚れた布や鞣す前の何かの皮が敷かれていただけだった。


目ぼしい物の回収が終わったライトとヴェルは、正面扉を出て白薔薇と雷光に合流する。

白薔薇が調べた部屋は、一つが食糧庫で一つが拷問部屋だったらしい。

壁や床に血がこびり付いており、拷問に使ったのであろう道具もそのまま置いてあったそうだ。二人とも顔色が悪い。

雷光の方はと言うと、一つが武器や消耗品である回復薬などが置いてある部屋で、もう一つは牢屋だったそうだ。今は誰も居ないが、本来は捕らえた人を入れていたのだろう。

とりあえず「戦利品はどうする?」とライトが聞くと「持って帰りたいけど、全部持てないから」と言われた。

それはそうだ。マジックバックと言うのは、それなりに高価な物であり、ランクEやFの冒険者が買えるような代物ではない。

そこで一つ提案してみる。


「ヴェルがマジックバックを持ってるから、それを使って持って帰る事は出来るよ。ただし!絶対に他言はしない事。それが条件かな。」


この言葉に、二つ返事で了承する四人。本当に守るかどうかは分からないが、実力的に約束を破ったらどうなるのかは分っているだろうが。

ヴェルに空のマジックバックを渡し、食糧から武器、防具、アイテムを全て入れて貰う。ついでにライトが背負ってる、お金や宝石類の入った背嚢も入れて貰った。


そして全ての部屋の扉を開けてから地上へと上がると、ヴェルにお願いして地下に向けてフレームバーストを放って貰う事に。

ライトと白薔薇の二人、雷光の二人は教会の外へ。ついでに見張りだった男から、武器を剥ぎ取り教会内に放り込む。

準備が整った所でヴェルに声を掛ける。

すると、ドゴォーンと言う音と共に地響きがする。

ヴェルが外に出て来た所で、今度はライトが教会の中へとフレイムボムを放ち林の中に逃げ込む。ドッカーンと言う音と共に、教会が崩れ去り炎を上げ始める。

これで盗賊に捕まり拷問されて亡くなった人たちも、神の御許へと行けただろう。

ライト達は、教会の方へ祈りを捧げてからその場を後にした。

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