第19話 やっぱりか(12月1日加筆修正)
カーマンの街に着いたライトの感想は、「デけ~!」だった。
カーマンの街は、今まで滞在したどの町より大きい。とは言え、王都までとはいかないが、王都の大きさを知らないライトにしてみると、十分に大きな街だ。
何故カーマンの街が大きいのかと言うと、この街が国の主要街道が交差する場所にあるからだ。
次の目的地である、ヴァーノスの町の南側には海があり、そこから齎される塩や干物などがこの街を経由して、各地へと運ばれている。逆に、各地から農産物などが入って再び四方八方へと運ばれるため、かなり人の出入りが多く街に活気があって賑やかだ。そして、それら出入りをする者達をターゲットとした商売が、このカーマンと言う町を支えている。
何故でそんな事を知ってるかと言うと、門兵に教えて貰った宿、「地駆ける馬亭」の大将に教えて貰ったと言う訳だ。いや、教えて貰ったと言うより、勝手にペラペラ喋ってただけなのだが。
対象の話が長くなった所為で、買い出しに行くつもりが行けず一泊の予定が二泊になったのはご愛敬だ。まあ、お陰で色々情報を聞けたから良かったのだが。
そして翌日、ライトはヴェルと共に、宿の大将に教えて貰った魔道具屋を訪れた。
アンとティーナはお留守番だ。一応、遅くなる可能性も考えて、二人にお昼代としてお小遣いは渡してある。
魔道具屋で何を買うかと言うと、それは時計だ。
この世界、時計は普通に普及している。マジックアイテムとして。
どの様な原理なのかは分からないが、それなりに高価な物らしく安くて金貨5枚から。高い物になると白金貨数枚もするらしい。
元々片田舎の村に生まれた、農民の子供のライトには全く縁のない物だったのだが、旅をするようになり時間が分からない事にかなりの不便さを感じていた。
ブラス達が持っていただろ?と思うかもしれないが、マジックテントと言う便利かつ高価な物は持ってるくせに、時計は何故か持っていなかったのだ。
どうしても時間が知りたいライトは、安い時計を買い求め、宿の大将に魔道具屋を教えて貰ったと言う訳だ。
ただ大将にその話を聞いた時、「どこぞのお貴族様のお坊ちゃんなのかい?」と聞かれたが、はっきりと「違いますよ」と否定はしておいた。
そもそも平民ですらなく、単なる農村の子供なのだ。
大将に教えて貰った魔道具屋にやって来たライトとヴェルだが、扉を開けて中へと入ると、如何にも怪しそうな鷲鼻の婆さんに訝し気な目で見られる。
そりゃそうだ。実年齢10歳の子供がメイドを引き連れやって来たのだから。
「す、すみません。「地駆ける牝馬亭」の大将から教えて貰って来たんですけど、時計って売ってますか?」
そんな鷲鼻の婆さんに少々ビビりながらも、恐る恐る聞いてみるライト。
「あぁ?うちの息子に聞いたのかね?なら無下には出来ないねぇ。」
その言葉を聞いたライトの目が大きく開く。大将のお母さんだったのか!と。
全く似ても似つかないのだが。
しかし、そんなライトの事などお構いなしに、鷲鼻の婆さんはライトに問いかける。
「で、時計だって?金は持ってんだろうね?」
「え、ええ・・・一応、予算は金貨50枚くらいありますが、なるべく安いので大丈夫です。後、スクロールやマジックアイテムなんかがあればいいな~って……。」
「ほ~う、ガキの癖に金は持ってるんだね。どこぞのお貴族のお坊ちゃんかい?」
大将と全く同じ事を聞かれる。
見た目的にどう見ても貴族のお坊ちゃんと言う服装ではないのに。
「い、いえ、違います。一応冒険者です。」
「ふ~ん。まあ、いいさね。時計は二つしか無いよ!スクロールは今切らしてる。マジックアイテムは、筋力、体力を上げる指輪と麻痺耐性の首飾り。収納の腕輪があるが、予算的に買えるとしたら指輪だね。一つ金貨15枚だ。」
鑑定を使ってはいないので、そもそもの相場と言う物が分からないのだが、その金額を聞き驚くライト。高すぎる。
現状、予算は金貨50枚だと告げているが、実際はもっと予算はある。ただ、足元を見ているのか、吹っ掛けて来ているようなので、とりあえず買わなくていいかと考えた。
「じゃ・・・じゃあ、時計だけでお願いします。」
「チッ。金持ってんのにショボいガキだね。で、安い時計でいいのかい?金貨6枚だよ。」
そう言って見せてくれた時計は、丸い形をしており上に鎖を通すリングが付いている。鑑定してみると、どうやら鎖と本体は銀と銅の合金で出来ているようだ。
リングの下にボタンがあり、それを押すと蓋が開き時間が分かると言う物だ。
鷲鼻の婆さんが言うには「懐中時計」と言うらしく、昔どこからともなく現れた旅人が伝えた物なのだそうだ。
動力は魔核。魔力蓄積型と説明を受けたが、そんなのライトに分る筈がない。
とりあえず、たまに魔力を流せば動き続けると言う事だけは理解した。
ちなみにこの鷲鼻の婆さんを鑑定したら、隠蔽されていた為「チッ」と舌打ちをしてしまった。
とりあえず代金を払い、時計を受け取ると店を出る。
「口が悪いお婆さんだった・・・。」
店を出てライトがそう呟くと
「ですね。ご主人様に対して無礼です!」
全く見当外れの事をヴェルが言う。別に無礼でも無く、単に見た目が怖かっただけなので、ライトは軽く流しておいた。
目的の時計を買ったライトとヴェルは、宿に戻り時間が早かったのもあり、まだ昼食を食べていないアンとティーナと共に、宿でお昼を食べるとその後はのんびりと過ごした。
本来ならギルドに魔核売りに行くつもりだったのだが、確実に騒動に巻き込まれそうな予感がしたので止めた。
明けて翌日、朝食を食べたライト達は、カーマンの街を出て南下する。
少々予定日数的にオーバーはしているが、急ぐ旅でもないので問題ない。
どうせ15歳になるまでは、表立っての討伐依頼は受けれないからだ。ただ、早く迷宮には行ってみたい。アーベルととの約束である、ティーナの呪いも解いてあげないといけない訳だし。
そんなライト達は、カーマンを出発し、3日掛けて次の目的地であるヴァーノスの町に到着する。ここで食糧を補充したら、第二の難所イガル渓谷を通り、最終目的地のルゾルトへと到着だ。
ヴァーノスまでの道中、何事も無かったので安心しきっていたライトだったが、最後の最後で問題が発生する。
それは、城門を抜け街に入った所で起こった。
ライト達が検閲を終え、城門を潜り、「さて、宿はどっちかな?」とキョロキョロとしていた時だ。ライトの横を通り過ぎた馬車が突然止まる。
「何だ?」とばかりに馬車を見ると、金属鎧を着て馬に跨った数人の騎士が、黒塗り真四角の馬車を囲っている。そんな馬車に乗っているのは、大方貴族なのだろう。
そして突然馬車の扉が開き、案の定中から貴族らしき感じの男が降りて来た。
年の頃は20歳前後だろう、面長で顎が角ばっており、眉毛が太く細めのタレ目。髪は金髪のキノコ型、服は青地の布に金の刺繍。指には色とりどりの宝石の付いた指輪を嵌めている。そして、その男は降りて来るなり髪の毛を掻き上げて「俺、カッコいいだろ?」と言う感じでこっちを見てる。
そして、その男はクネクネと腰をクネらせ、さながらランウェイをあるくモデルの如き歩き方で、ライト達の方へと近付いて来る。
そして、ライト達の目の前に立つと、ビシッ!と指を差し口を開いた。
「一目見て気に入ったその日から、綺麗なお嬢さん方は僕ちゃんの物。このシスト伯爵家が長男、ナル・シストが、そちらの綺麗なお嬢さん方を貰い受けよう!そこの君、彼女達を渡したまえ。これは手切れ金だ。」
そう言うと、男は硬貨を指でピンっと弾き寄越してくる。
弾かれた硬貨が、クルクルと回転しながらライトの元へと飛んで来て、足元に落ちた。ライトが地面に落ちた硬貨を見ると、銀貨であった。しかも一枚。三人の値段が銀貨一枚とか、安すぎる。
地面に硬貨が落ちると同時に、その男は髪を掻き上げ「フッ」っと笑い、にこやかに食べカスだらけの汚い歯を見せる。
メチャクチャ気持ち悪い。アン、ヴェル、ティーナも汚物でも見た様な顔をして顔を顰めており、周りに集まって来た野次馬達も大いに呆れ返っている。
チラリと横目に映り込んだが、門兵が慌てふためいているのが見えた。
とりあえず気持ちが悪いのでサッサとこの場を立ち去ろうと思い、「いえ、結構です。三人共行くよ。」と三人に伝えると、教えて貰った宿へと歩き出す。
すると、キノコ頭は無駄に器用なつま先立ちで、両手を上に上げた状態でクルクルと身体を回転させてライト達の進路を塞ぎポーズを決める。
そのポーズと言うのが、また気持ち悪い。
足は、左足を前にしたへの字。身体を前に傾けて左腕の肘は左足の膝に突き手で額を抑え、右腕は掌を上にして伸ばすと言う、バカみたいな格好だ。
しかも、その着地の仕方が「スタッ」っと言う感じで、笑いそうになってしまう。
そして、そのキノコ頭はその恰好のままで、目線だけをこっちに向けて口を開く。
目が細い為、見てる事すら誰も分からないのだが。
「ノンノンノン!これだから平民は困るんだよね。この僕ちゃんが連れて帰ると言えば、誰も断れないんだよ?何せ、僕ちゃんは偉大なるシスト伯爵家が長……こらこらこらこら!最後まで人の話を聞きたまえ!無礼な!」
話しが長くなりそうだし、大振りな身振り手振りで全くこちらを見ていなかったので、途中で無視して歩き出したライトだったのだが、まんまと気付かれてしまった。
「さっきも言いましたが、間に合ってます。では。」
ライトはそう言って頭を下げると再び歩き出す。のだが、それを許さない者がここにはいる。
「君が良くても、僕ちゃんが良くないんだよね。おい、お前達、あの三人を捕まえろ!あぁ、お嬢さん方には傷を付けないようにな。特に顔に傷は付けるなよ?ガキはどうなっても構わん。」
キノコ頭が後ろに控える騎士に命じる。
命じられた騎士達が、兜の上からでも分かるくらい頭を抱えて、困った顔をし始める。だが、命令されたとなるとそれに従わざるを得ない。嫌々ながらも溜息を吐き、剣を抜いてライト達へと迫る。
「剣を抜いたと言う事は、何されても文句は無いと言う事でいんですかね?」
早くこの場を立ち去りたいライトは、キノコ頭に一応、念の為にそう聞く。
しかし、キノコ頭は高笑いし
「ハッハッハ!栄えある伯爵家の騎士が、こんな子供に負ける訳が無いじゃないか!面白い、もし君が勝ったらこの無礼は大目に見てあげようじゃないか!なんせ僕は「はいはい。」……。」
何か言い放とうとしたキノコ頭だが、聞くのも面倒臭いライトは途中で言葉をぶった切る
周りの人達も、成人してないと一目でわかる子供に、完全に遊ばれているキノコ頭を見てクスクスと笑ってる。
「ぐぬぬぬぬ・・・。もう許さんぞ!お前達、さっさとその娘達を確保しろ!少々手荒な事をしても構わん!」
その言葉で戦の幕が開ける。
ただ、呆気なかったと言えばいいのか。確かに金属鎧で固めた、屈強な騎士だとは思う。それが八人もいるのだ。普通に考えれば、子供に太刀打ちなど出来ないと思うだろう。それが普通の子供なら。
しかし今まで散々コピーを使いまくって来たライトだ。身体強化+俊足+気配察知+スロウを使い、二分も掛からず八人を地面に沈めた。
あっという間に八人が地面に沈んだのを見たキノコ頭は、顎が外るんじゃないかと思う程に口を開けて、鼻水垂らして驚いている。周りの弥次馬たちも同様だ。
一仕事終えたライトは、手をパンパンと払い立ち去ろうとするが、流石にこのまま無言で立ち去るのもどうかと思ったのか、とりあえず一言だけ声を掛けて立ち去る事に。
「とりあえず10歳児が騎士団に勝ったんで、この無礼は無かった事でいいですよね?こちらも忙しい身なので、これで失礼します。」
そう言って頭を下げてその場を立ち去る。
何やら後ろの方で「覚えてろよ~!」と叫び声が聞こえたが……気のせいだろう。
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