第16話 元奴隷が元奴隷と奴隷?を奴隷にする(11月29日加筆修正)
「アードルフさん、お手数をお掛けしました。」
「いや、こちらこそ良い取引をありがとう。」
お互いが礼を言い合い、そして握手をする。
「アードルフさん、少しお時間いいですか?」
「ああ、大丈夫だよ。」
煽れいが終わった所で、ライトは確認したい本題を切り出す。
「奴隷紋は消す事が出来るんですか?」
ライトの心臓はバクバクと高鳴る。
「いや、今まで奴隷紋が消せると言う話しは聞いたことが無いな。今から話す事は、どの奴隷商も秘匿する事だから絶対に外で口にしないと約束してくれるかい?」
「はい。」
消す事は出来ないが、何かしら情報を持っていそうな言い方である。
その言葉に期待を込めて頷くライト。
「奴隷商を営む者は、奴隷術と言うスキルを持っている。そのスキルには剣術や魔法と同じ様にレベルがあるんだ。」
そのスキルを持っているので知っている。
「殆どの奴隷商は、奴隷術のレベルが6前後で一生を終える事になるから、その先を知らないんだ。何故かと言うと、人種だからだね。長寿種のエルフなら奴隷術のレベルが最高値になるかもしれないが、人種の奴隷商では最高値にはならないんだよ。そもそもエルフに奴隷商人が居るとは聞いたことが無いしね。だから、もしかすると奴隷術のレベルが最高値の10になれば奴隷紋を消せるかもしれない。あくまで憶測だけどね。」
「なるほど。そうだったんですね。」
「力になれなくてすまないね。」
「いえ。ありがとうございます。もう一つ聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「ん?何かな?」
「実は、この子。アンって言うんですけど、違法に連れ去られた元奴隷なんです。盗賊に攫われていた所を助けたんですが、前の奴隷主は既に盗賊に殺されているにも関わらず、奴隷契約が生きてるみたいで魔法もスキルも使えないんです。彼女の魔法やスキルが使えるようにするにはどうすればいいですか?」
これはアンとの約束の一つでもある。それに、折角一緒に旅をするのだから、少しでも戦力となるのであれば、アンの魔法が使えるようにしてあげたい。
「それなら、君が奴隷主になればいいのだよ。奴隷契約をする時に条件書を作るんだが、その条件は契約主が決める事が出来る。例えば、『君や彼女に危険が迫った時のみ魔法やスキルが使用出来る』とかね。」
「それは、アードルフさんにやって貰う事は可能ですか?勿論、お金は払います。」
「ああ、大丈夫だよ。ああ~だが、道具を持って帰らせたな。明日、うちの商会に来なさい。やってあげよう。」
「本当ですか!ありがとうございます!じゃ、明日の朝そちらの商会に伺いますので、場所を教えて下さい。」
その後場所を教えて貰ったライトは、アードルフに礼を言うとギルドを後にした。
翌日、ライト達は、朝からアードルフの商会へと足を運んだ。
宿は念の為もう一日延長してある。
アードルフの商会は、流石国公認の店だけあって、シモの店とは違う高級感溢れる建物だった。
商館に着いたライト達は、受付でアードルフを呼んで貰い、応接室に通された上で滞りなく手続きが終了する。
無論、条件は何も無い。単に奴隷主がライトになっただけだ。
名前 : アン=ソフィ・ヴェスティーン
職業 : ????
種族 : ????
年齢 : ????歳
レベル: ????
経験値: ????
体力 : ????
魔力 : ????
筋力 : ????
精神力: ????
瞬発力: ????
スキル:
????
????
????
????
固有スキル:
????
????
????
????
????
とは言え、アンの隠蔽はそのままだったが。
手続きも終わり、代金(金貨1枚)を支払いお暇しようと腰を上げかけたところで、アードルフに呼び止められる。
「君達、少し待って貰えないかな?逢って貰いたい子が居るんだ。」
そう言うと、テーブルの上のベルをチリンチリンと鳴らす。
すると、昨日代金を渡してくれた男が、奴隷とは思えないくらいちゃんとしたワンピースを着た一人の女の子を連れて来た。
肩までの黒い髪に、整った綺麗な顔。身長も年齢もライトと同じくらいだ。そして必然的に目の良く場所、そう、胸も大きい。ただ、少し違うのは額から生える二本の角だ。
「突然ですまないね。この子は隣の大陸から連れて来た鬼人種なんだが、ちょっと訳ありでね。君達なら任せても大丈夫だと思って紹介したんだが、もし良かったら金貨1枚で買ってくれないかな?」
突然、そんな事を言い始めるアードルフ。
女の子と一緒に入って来た男がお茶を入れなおしてくれる。多分、執事なのだろう。
ライト的に、アードルフは「いい人だ」と思っているので、別に問題ないと言えば問題無い。
ただ、それにしても、理由くらいは教えて欲しい所だ。
「えっと・・・その訳ありって言うのは何なんですか?それに、何で俺達なんですか?」
そう聞きながら入れてくれたお茶を口に含みつつ、念の為に女の子を鑑定してみる。
名前 : アルベルティーナ・オーグレーン
職業 : 奴隷(元オーグレーン王女)
種族 : 鬼人族
状態 : 呪い(成長阻害)
年齢 : 134歳
レベル: 3
経験値: 35%/100%
体力 : 15 (-15)
魔力 : 5 (-5)
筋力 : 13 (-13)
精神力: 8 (-8)
瞬発力: 10 (-10)
スキル:
真祖の呪い・体術LV2・槌術LV2・身体強化:LV2・気配察知・隠密・帝王学LV3・算術
固有スキル:
超ブースト・超回復・異常状態無効・即死無効
「ぶっ!」
何気に鑑定を使用して見た内容に、盛大にお茶を噴き出す。
「おや、君も見れるのかね?」
「……すみません。」
ライトはとりあえず誤った。
「構わないよ。まあ、理由については詮索はするまい。」
お茶を入れてくれた男の人がテーブルや床を拭いてくれる。
「それを承知でお願いしたいんだが、出来ればでいいんだ。彼女の呪いを解いてやっては貰えないだろうか?タマラから聞いたんだが、君達はこの後迷宮都市に行くのだろ?今は無理でも、いずれは迷宮に挑むのだろうから、その際に呪いが解けるアイテムが出たら彼女の呪いを解いてやって欲しい。」
切実な顔で頼んでくるアードルフ。彼女の訳ありとは、元王女と言う事と成長阻害の呪い。呪いのせいで経験値が極端に入らなくなる為、レベルが上がり辛い。
更にせっかくレベルが上がったとしても、能力が半減されてしまう。と言う呪いだ。
「事情はわかりましたが、何故俺達なんですか?そもそも、何故アードルフさんが隣の大陸から彼女を連れて来たんですか?」
そこが一番の疑問点だ。
「それには色々と理由があるのだよ。話せば長くなる。ま、要点だけを言えば、彼女は産まれながらに呪いが掛かっていた。そして、その呪いが故にレベルが上がりにくい。そして、数年前。隣の大陸にあるオーグレーン王国は隣国との戦に破れ滅んだ。彼女の父、オーグレーン国王には、私が若かりし頃に少し世話になった事があってね。戦争が激化する中、国王は彼女を逃がす為、部下に命じて彼女に奴隷紋を刻ませ偽りの奴隷として国外に逃がした。その後、戦況が悪化。事前に伝えられていた王の命で、遠く離れた私の所まで逃げて来たと言う訳だ。王女なら検閲に引っ掛かるが、奴隷紋の刻まれた奴隷なら引っ掛かる確率が低いからね。」
「部下の人はどうしたんですか?」
「ん?彼女を連れて来た部下。と言っても近衛騎士団副隊長なんだが、彼女を私に預けると国に戻って行ったよ。今、生きているのかどうかはわからない。まあ、私はオーグレーン国王に大恩がある。その大恩人に頼られたんだ。その忘れ形見の力になってあげたい。しかし、私は奴隷商だ。ここに匿う事や呪いを解くアイテムを探す事は出来ても、直接迷宮に潜ったり、直接呪いを解く事は出来ない。タマラにも聞いたが、君は見た目とは違い年齢の割には強く、そして賢い。君には秘めたる何かがあるのだろうと、私は確信している。そして、そちらのお嬢さん二人も普通の子供では無いのだろ?だから君達なんだ。彼女を預けるには、人を選ぶ必要がある。大恩人の忘れ形見だ。ちゃんとした人にしか預けられない。君達になら安心して預ける事が出来ると私は思う。無論、奴隷商として国に収支を報告する義務がある関係上無料でとは言えないが、彼女を外の世界に連れ出してくれるのなら金貨1枚で連れ出してやっては貰えないだろうか?」
多分、鑑定で色々と見られたのだろう。だからこそライトは悩む。
ラシムとメイラを救う為、何れはビザード帝国へと向かわなければならない。しかもブラスの件もあり、いつ追手が迫ってくるかも分からない。更には、アンを屋敷に連れて帰ってやると約束をしている。
だが、アードルフの話を聞き、彼女に少し情が湧いたのも確かだ。自分に重ねてしまった。ライトも村を襲われ、家族を失った孤児だ。
今はコピースキルのお陰でこうして何とか生きているが、コピースキルが無かったら死んでしまってたかもしれない。
自分は彼女の為に、何かをしてあげられるのだろうか?と。
「難しく考えてるようだが、例え呪いが解けなかったとしても私も彼女も文句は言わないよ?解けるかどうかは誰にも分からない事だからね。ただ、私としてはここに閉じ籠って一生を過ごすよりは、彼女には日の当たる世界に出て、自由に過ごして欲しいと思ってるだけなんだよ。その中で彼女の呪いが解ければいいと思っている。まあ、その為には彼女の安全の為にも君の奴隷として登録する事にはなるがね。」
「……わかりました。お受けします。その代り、一つ条件があります。」
「何かな?」
「知ってるかどうかは知りませんが、実は俺も違法に捕らえられた元奴隷なんです。」
その瞬間、アードルフの顔が険しくなる。
「詳細を話すと、俺はオラリオン王国のダーグと言う街の近くにあるタガラ村に住んでました。半年以上前、村がヴァロと言う盗賊達に襲われ村は全滅。大人は多分全員殺され、ある程度の年齢の子供達は捕らえられました。そしてその後、ビザード帝国のシモと言う奴隷商に売られ、最後まで売れ残ったのが俺なんです。」
ライトはそこまで話すと、一旦口を閉じお茶を飲む。
「その後、売れ残りの俺は、処分される前にとある冒険者に買われました。買われた理由は、魔物討伐の囮としてです。」
この話は、アンにもヴェルにもまだ伝えてはいない。
初めて話したライトの過去話しに、部屋にいる全員の顔が険しくなる。
「討伐対象はオークを5匹引き連れたオークファイター。俺はそのオークの前に放り出されました。オーク達は俺を見つけると棍棒を振り上げ向かって来ましたが、俺は契約主の方へと向かって走りました。命令違反で体に激痛が走るのを耐え、気配を殺し木の陰に隠れました。その後、契約主が死亡。契約主の仲間もオークは殺しましたが、ボロボロになっていたオークファイターに殺され、俺は気配を殺しボロボロのオークファイターに近寄りトドメを刺して逃げました。その後、逃げる先で別の盗賊に捕まっていたアンを助け、そして今に至ります。」
そこまで一気に話し一息吐く。
「ふぅ。で、条件ですが、奴隷紋を消す方法を調べて貰う事です。彼女の呪いを解く方法を探す見返りに、俺とアンの、何れ助け出すつもりの、売られて行った幼馴染や弟の奴隷紋を消す方法を調べて下さい。無論、見つからなかったとしても俺は文句は言いません。でも、俺達も彼女の呪いを解く方法を必死に探します。だから、アードルフさんも必死に探して下さい。それが条件です。」
ライトがそう言い切ると、アードルフは目頭を摘まみ俯く。
そして、顔を上げると涙を流しながら口を開く。
「辛い目に遭ったんだな。そうとは知らず、申し訳ない事を言った。だが、君のその条件は是非飲ませてくれ。彼女の奴隷紋は現状、契約こそされては無いがやはり消す事が出来ないんだ。私としても是非、彼女の奴隷紋を消して差し上げたい。だから、私も必死にその方法を探すとしよう。」
こうして、新たな仲間が加わった。
そして信頼出来るアードルフと言う奴隷商の伝手が出来た。
いずれ奴隷紋が消せる日が来るかもしれない。
「そうなるまでに、ラシムを、メイラを救い出さないと」と、心に誓うライトであった。
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