第15話 事後処理で縁が出来る(11月29日加筆修正)

男ABと女ABを沈めた後、身包みを剥ぎ取り、喋れない様に口に縄を噛ませ手を縄で縛る。女Aは首が変な方向に向いてたが、命に別状は無かった事に、少しホッと胸を撫で下ろライト。流石に殺してしまうのはマズいからだ。

そしてこの四人が持っていた荷物は、既にヴェルが回収済みである。

各々を縛り上げた後、四人の首と腰を縄で繋ぎ、ウォーターを掛け目を覚まさせる。


「さて、ギルドマスターの厳重注意を無視したんだから、おじさんとおばさん達の処理は俺に一任された事になる。ギルドマスターとビアンカさんとそう言う話しになってるからね。とりあえず、町に戻ろうか。あ、おじさん達の装備と荷物は戦利品として貰うからね。」


そう言うと、ライトは縄の端を持ち歩き始める。

四人は未だ地面へと倒れ込んでいるままだ。本来なら、四人を引き摺る事など出来ないだろうが、そこは常時身体強化を使ってるライトだ。四人が立ってなかろうが、関係ないとばかりに引き摺りながら歩く。

しかもこの四人、下着しか身に着けて無いものだから、肌が地面で擦れて呻き始める。

街道に戻った所で、少しだけ時間を置き四人が立ち上がるのを待つ事にする。

理由は、周りの目が痛い程突き刺さって来るからだ。

これ以上引き摺られて堪るかと思った四人が、何とか立ち上がったのを見たライトは、改めて縄を引きながら町へと戻る。


流石にこの状況なので、城門前で門兵に止められたが、事情を説明すると四人とライト達を交互に見ながら信じられない物でも見たかの様な目で驚く。

ただ、何も悪い事をしている訳では無いライトなので、その後問題も無く町に入る事が出来た。街へと入ったライト達は、そのままギルドへ直行する。

その間も、町の人達の目線がかなり痛かったが。

ギルドに入ると、騒がしかったギルド内が突然静まり返る。

ライトの姿を見たビアンカが、右手をコメカミに当てて「あちゃ~」と俯く。

そして隣の受付嬢に何やら話し掛けると、その受付嬢は二階へと走って行く。


「で、どうしてそうなったのか教えて貰えますか?」


ライトが受付前に着くなり、腰に手を当てお冠状態のビアンカにそう聞かれる。


「採取が終わって街道に戻ろうとしたら、この人達が待ち伏せてたんです。で、念の為に「ギルドマスターから厳重注意されたんじゃないか?」と聞いたら、「そんなのお前を口封じすれば問題無い」って言われて武器を抜いて襲い掛かって来たんです。しかもですよ?アンとヴェルは「自分の女にする!」とか言って厭らしい目で見てたし。で、襲って来たので返り討ちにしたまでです。一応、ギルドマスターに義理を立てて殺さず生かしたまま連れて帰りましたけど、何か問題ありましたか?」


ライトがそう説明すると、ギルド職員も周りの冒険者達も複雑な顔をしていた。

四人に蔑みの視線を送る者、ライト達を見て「信じれない」と言った目で見る者と三者三様だ。

そのタイミングで、ギルドマスターが降りて来る。


「はぁ・・・やはりこうなりましたか。君達の事を信じていたんですがね。まあ仕方が無い。ライト君達、二階に来なさい。ああ、その四人も連れて来るように。ビアンカ君、君も一緒に来なさい。」


そう言い終わると、ギルドマスターは盛大に溜息を吐いて二階へと上がって行く。

ご指名を受けたライト達も、四人を引き連れてその後を追う。


通されたのは執務室では無く、隣の会議室だった。

ギルドマスターとビアンカ、それとライト達三人は椅子に座り、下着姿の冒険者四人は床に正座している。

ちなみに、口の縄だけは解かれており、男達の荷物や着ていた服などはテーブルの上に全て出してある。


「さて、事情は聞きました。あれだけ厳重に注意をしたはずですが、まさか今日の今日でこのような事態になるとは夢にも思いませんでした・・・。何か言いたい事はありますか?」


男達は何も答えない。いや、答えれない。


「はぁ。で、ライト君はどうして殺さずに連れ帰ったんですか?」


男達が何も答えないので、今度はライトに白羽の矢が立つ。


「どうしてって、殺すのも面倒臭いでしょ。後、こちらのギルドには良くして貰ってますから、義理を立てただけですが?」


そう答えると、ギルドマスターは溜息を吐き「逆に連れて帰ってくれる方が厄介だったんですけどね。」と、ボソッとそんな事を言う。

それでいいのか、ギルマスよ!


「まあ、わかりました。この四人をどうこうする権利は、ライト君達にあります。ただ、この四人はギルドに対して借金がある為、返済もして貰わないといけません。ライト君、この場で交渉させて下さい。」


至極当然の事だ。とは言え、別に交渉するような事は無いようにも思えるが。


「ええ、大丈夫ですよ。」


ライトが一つ返事で了承すると、ギルドマスターはビアンカに何かしらを指示する。

そしてビアンカは頷くと、部屋を出て行った。


「さて少し時間が掛かると思うので、先に交渉を纏めましょう。ライト君はこの四人をどうするつもりですか?」


どうするつもりと言われても、全く何も考えている筈はない。

連れて帰ったのだって、それこそ殺すのも面倒だし、一応ギルドに義理を果たしただけなのだから。


「えっと……何も考えてません。とりあえず、連れ帰っただけですね。」


「なるほど。では、こちらの状況を話します。彼らはギルドに対し金貨10枚の借金があります。これが証文です。」


そう言って、四人のサインが入った羊皮紙をライトに見せる。


「ギルドとしては、この借金が全額返済されれば、後はライト君の好きにして貰って構いません。今、知り合いの奴隷商人を呼びに行かせてますので、彼が到着後に四人を奴隷として売った代金を返済に充てさせて貰い、その後は荷物共々、ライト君達に任せる形を取れればと思いますがどうですか?」


ライト的にそれは構わないのだが、別段目ぼしい物が何も無かった男共の荷物は要らない。更に、こんなやつらを奴隷にして連れ回したところで、何の役にも立たないだろう。


「それはそれでいいとして、この四人が所持していた荷物から引き取って貰いたいんですけど?足りない所を売却したお金で補えばいいのでは?」


現在、鑑定で自らのステータスを見る事が出来ないので分からないが、何かしらのスキルがいい仕事をしてくれている。


「いや、荷物はそちらで受け取って下さい。ギルドとしてはこれ以上、この件で持ち出しをしたくは無いので。」


「なら、交渉決裂と言う事で。」


「何故ですか!?それはギルドとしても困ります!」


そうは言われても、ライトの方としては全く困らない。

そもそも、ライトからしてみると、男共の処遇など迷惑でしかない。更に言えば、金に困っている訳でも無いので、荷物にしろ金にしろどうでもいいのだ。


「よく考えて下さいね?そもそもこの四人がまた襲って来た時は、こちらの判断に任せると仰いましたよね?もし俺達が四人を殺した場合、彼らの借金はどうするつもりだったんですか?」


「……。」


その言葉に答えられないギルドマスター。


「俺は、ギルドに義理を立てて生かして連れ帰りました。荷物を持ち帰ってこの場に出しているのも、ギルドとしても借金を支払わせないといけないだろうと思ったからです。そもそも彼らが借金をしたのは荷物を取り戻す為です。ならば、先ずは借金の元になった荷物をギルドが受け取るのが先なんじゃないですかね?無論、査定額が多少下がるのは仕方が無いと思います。その足りない所を奴隷として売ったお金で埋め合わせるのならば俺は承諾します。別にお金や荷物が欲しい訳ではないので。」


ギルドマスターにそう告げると、暫く考え込んでいた。そして、結論が出たのかしっかりとライトの方を向き口を開く。


「確かにライト君の言う通りですね。それで手を打ちましょう。ただし、荷物は多少色を付けて査定してましたから、君が受け取った額の一割減での査定とさせて頂きますよ?足らない所は、共同で奴隷売買したと言う事でこちらに貰えればいいので。」


別に何かが欲しいと言ってはいないのだが、敢えてこちらにも何かしらを渡そうとするギルドマスター。これ以上問答しても、埒が明かないのでそれで承諾する事に。


「では、それで。」


とは言え、なんとかギルドの面目を保ったまま終われたのではないかとは思う。

そんなライトとの交渉を終えたギルドマスターが、不思議そうな顔でライトを見つめる。


「それにしても、本当に君は10歳なのかね?強さと言い、その話し方と言い交渉の仕方と言い、大人と話してるみたいだ。」


そこは全てスキルのお陰なのだが、そうとは言えないライト。「それは、秘密です。」と言葉を濁す。


交渉が纏まり一息ついていると、会議室のドアがノックされビアンカと男が3人会議室へと入って来る。

その内のほっそりしていて、とても紳士的な男が、ギルドマスターと握手を交わす。

この男が奴隷商なのだろう。全く以て、シモとは大違いだ。


「ライト君、彼はアードルフと言って国の許可証を持った正規の奴隷商人だ。私とは10年来の親友だよ。口も堅いし安心していいからね。」


ライト達の事情を知るからこそ、そう言ってくれたのだろう。ここのギルドマスターには感謝しかない。


「ライトです。よろしくお願いします。」


「奴隷商のアードルフと言う。よろしく頼むよ。話はここに来る途中にビアンカ君から聞いた。この四人を買い取ればいんだね?」


そう言うと、アードルフは四人を値踏みする様に眺める。

そして一瞬、顔を顰めた。理由は、顔が酷い事になっていたからだ。これでは、まともな査定も出来るはずも無い。

それを感じ取ったライトは、本当に申し訳なさそうに口を開く。


「すみません。ボコボコにしたのは俺達なんです。査定額に影響があるなら、回復させますけど?」


ライトが申し訳なさそうにそう言うと、アードルフは「ではお願いします」と言う。

その言葉を聞いたライトは、しっかりと回復させる事に。


「アクアヒール!これでどうですかね?」


四人の傷が完全に消えたを確認したライトは、アードルフの方を向き確認する。

だが、アードルフもギルドマスターも、アードルフが連れて来た男達も、更にはビアンカでさえも、口をあんぐり開けて驚いている。回復された四人もおまけで驚いている。


「アードルフさん?」


「あ、ああ・・・これで大丈夫だ。直ぐ査定するから、待ってってくれ。」


我に返ったアードルフは、そそくさと四人を品定めし始める。そして四人目の品定めが終わると、羊皮紙に何やら書き始める。


「タマラ、ライト君、これでどうかな?」


そう言って見せられたのは、四人の値段だった。

男A 金貨5枚

男B 金貨5枚

女A 金貨8枚

女B 金貨4枚

と書かれている。

男ABは鉱山へ送るそうで、これでもかなり元が取れるらしい。

女Aは虎種の獣人で、人種よりも力が強い為、色々と人気があるのだそうだ。

女Bは・・・まあ、あれだ。良くて女Bと同様、悪くてあっち系だそうで額が低いのだそうだ。

だからと言って、ライトには関係ないが。


そして、金額が決まった所で女Aと女Bが命乞いをし始める。


「なあ、坊ちゃん!私はこいつらに無理矢理連れて行かれたんだ!だから、助けてくれ!あ、そうだ!なんなら坊ちゃんの護衛として雇ってくれないか!?坊ちゃんの奴隷でもいいから!」


「わ、私だってこいつらに無理矢理連れて行かれたのよ!だから、ぼく!私を助けて!私もぼくの護衛をしてあげるわ!だからね?お願い助けて!」


何なのだろうか。散々っぱら「こいつら殺っちまおうぜ!」とか「これだからガキは手に負えないんだよね。」とか言っていたたくせに、売られると分かると掌返しが早すぎる。

そして、女ABの言葉を聞いた男ABが、「何言ってんだこいつら!」と言う目で睨む。


「おばさん達、「殺っちまおうぜ」とか「ガキは手に負えない」とか言ってたよね?忘れたとは言わせないよ?」


ライトがそう言うと、女ABはギャアギャアと騒ぎ立て始める。

それをアードルフの後ろに立っていた男達が黙らせる。

静かになった所で、最終的な話し合いとなった。とは言え、ライト的にはーでも良かったのだが。


「ギルドマスター、俺はこれで問題ありませんよ。」


「ライト君がいいなら、こちらもそれで構わない」


「では、四人分で金貨22枚となります。おい、お支払いしなさい。」


アードルフがそう指示すると、後ろに控えていた男が会議テーブルの上に布を敷き、その上に金貨22枚を載せる。

アードルフは、奴隷紋を刻む準備に取り掛かっている。


「では、ご確認下さい。1、2、3・・・・・・・22。金貨22枚になります。宜しければ、お受け取り下さい。」


そう言いながら、ライトの方へと金貨を持ってくる男。


「はい。確かに受け取りました。で、ギルドマスター。差額で金貨7枚程お渡しします。お収めを。」


受け取った金貨の中から7枚程取ると、先程の布の上に置きギルドマスターの方へと持って行く。


「は?いや、差額はまだ出して無いよ?それに、金貨7枚は多すぎると思うが?」


「いや、いいんです。色々ご無理言いましたから、その気持ち分も含めての額です。差額の金貨3枚はそちらで何とかして下さい。」


そう言って、ライトは一歩下がる。

ギルドマスターはどうしたものかと思案するが、結局渋々受け取り「すまんね。気を遣わせて」と一言呟いた。


アードルフの作業が終わり、無事奴隷紋を刻まれた四人は男に連れられて部屋を出て行く。

部屋に残ったライトは、アードルフにお礼を言い、そしてどうしても聞きたかった事を聞いてみる事にした。

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