第13話 初依頼(11月28日加筆修正)

ギルドマスターの執務室に案内されたライトとヴェルは、ソファーに座り談話している。目の前には、ギルドマスターのタマラと受付嬢のビアンカが座ってる。


「いや〜、クラースの言う通りだね。ま、少々やり過ぎな所もあるけど、あれはアイツらが悪い。」


二人に絡んで来たのはDランクの冒険者で、最近ランクが上がり少々威勢を張るようになっていたのだそうだ。


「君達には申し訳ないんだけど、彼らの荷物と武器を返してやってはくれないだろうか?勿論、タダでとは言わない。しっかり荷物を精査して、ギルドとして買取り、適正な価格で彼らに買い取らせる。彼らにとっては、いい薬になったと思うよ。後、お詫びと言ってはなんだけど、そちらのお嬢さんの登録もさせて貰う。どうだろうか?」


ライトとしては別に荷物が欲しかった訳では無い。単に、念の為奪っただけだし別に返す事に否は無かった。ついでに、ヴェルの登録も出来る訳だし。


「それは構いませんよ。」


「そうか!ありがとう。」


ただ、少々心配事が無い事も無い。


「返すのはいんですけど、返した後にまた襲われたらどうするんですか?」


そう、また襲って来る可能性もあるのだ。と言うより、確実に襲って来ると思っている。


「そうならない様に厳重注意はするつもりだよ。それでも襲って来たら、残念だけど君達の判断に任せるよ。ビアンカ君もいいね?」


「はい。」


ギルドマスターの横で縮こまっているビアンカは、その言葉に首を縦に振る。


「と言う事で、私とビアンカ君が証人だ。ま、出来ればそうならないで欲しいけど。」


そうは言われても、それこそ相手次第の話だ。絶対はない。


「わかりました。では、荷物は何処に出せばいいですか?」


「隣の会議室に出して貰おうかな。ビアンカ君は、そちらのお嬢さんの登録をしなさい。」


ライトはヴェルからマジックバッグを預かると、ギルドマスターと共に隣の部屋に行く。ヴェルとビアンカはそのまま執務室にて、ヴエルの冒険者登録をする事に。

会議室と呼ばれた部屋は、確かに長い机が綺麗に並べられた部屋だった。そのテーブルの上に、四人から奪っ……回収した物を出す。


「マジックバッグとは珍しい。それは何処で手に入れたんだね?」


その様子を見ていたギルドマスターに、答え辛い事を聞かれる。


「クラースさんには話しましたが、元々俺は違法に攫われた奴隷でした。最後の売れ残りだったのですが、処分される前にとある人に買われました。その人が魔物に襲われた後に、自分が生き延びる為に死体から剥いで逃げ出して来たんです。」


そう説明するライトだが、嘘は言ってない。ブラスやダナ、アデルが死んだから貰って来たんだし。まあ、その原因はライトではあるのだが。


「そうだったのか。悪い事を聞いたね。ただ、マジックバッグは高価なマジックアイテムだ。あまり人前で使うと要らぬ騒動に巻き込まれるかもしれないから気を付けるんだよ?」


「はい。理解してます。」


余程がない限り大丈夫なように、隠蔽とまではいかないが隠しているので大丈夫なはずだ。そもそも、マジックバックは一番強いヴェルに渡している訳だし。いや、アンも指輪型を持ってはいたか。


「査定結果は明日でも大丈夫かい?」


「はい。明日から二日程、採取依頼でも受けようかと思ってるので。」


「そうか!最近、採取の依頼を受けてくれる冒険者が少ないから困ってたんだよ。君が受けてくれるなら大助かりだ。じゃ、君が方向に来る頃時に一緒に精算しよう。ビアンカ君に伝えておくから、報告は彼女にね。」


「はい、わかりました。」


「その後はどうするんだい?」


「最終的には迷宮都市ルゾルトに行く予定です。なので、次はルードの森を通りカーマンに向かいます。カーマンで一泊したら、南下してヴァーノスの町に。ヴァーノスを出たらイガル渓谷を通りルゾルトに行く予定です。」


「なるほど。なら、念の為に通り道のギルドマスターへ君の事を伝えておこう。万が一を考え手紙も用意しておくから明日報酬と一緒に渡そう。」


「ありがとうございます。」


そんな話をしながら執務室に戻ると、既にヴェルの登録も終わっていた。

ギルドマスターとビアンカにもう一度礼を言うと、ヴェルと共に宿へと戻った。



翌朝、宿で朝食を食べた後、身支度を整えると3人連れ立ちギルドへと向かう。

依頼板で薬草採取の依頼を数枚選び、受付のビアンカの所へと持って行く。


「採取は初めてだと思うので、図鑑で説明しますね。」


そう言って説明してくれる事十数分。全く話を聞いていないアンが飽き始めて「早く行くのじゃ!」と急かして来る。しかし、そう言われても、採取する物の説明聞かないと採取すら出来ないだろうに。

とは言え、粗方説明は終わっていたので、「それじゃあ早速!」と目的の薬草が生えている森に行く事に。

北門から町を出て、街道沿いに歩く事約一時間程だろうか。左手にある森へと進路を変える。

森に入ると、足元の草に鑑定を掛けていく。採取するのは、ヒールポーションの材料となるヒルバ草の葉。マナポーションの材料となるムントラヴァ草の葉と茎。アンチポイズンの材料のファリウム草の葉と根。この三つだ。


ヒルバ草とファリウム草は比較的浅い場所でも潤沢に生えているらしいが、ムントラヴァ草は少し奥に行かないと行けないらしい。なので、今日は森の奥のムントラヴァ草を集中的に採取し、明日浅い所のヒルバ草とファリウム草を採取しようと予定を立てる。

アンを前衛、ヴェルに後衛を任せライトが中衛で鑑定して行く。

途中、アサルトボア《突撃猪》の親子に遭遇。アンがキッチリ仕留めてくれた。

アサルトボアは魔物ではなく、単なる動物だ。要は、お肉をゲットしたと言う訳だ。

それはともかく、アサルトボアと遭遇した場所から暫く歩くと、ムントラヴァ草の群生地に出た。ギルドマスターの言う通り、ここ最近誰も採取に来なかったのだろう。かなりの量が立派に育っている。

アンとヴェルに見張りを任せ、ライトは茎を折らない様に丁寧に短剣で根元から切り、5束で1組になる様に紐で結んで収納へと仕舞う。と言う作業をひたすら繰り返す。

途中、昼食を挟み群生地のムントラヴァを刈り尽くす。全部で、23束分が集まった。これくらいあれば大丈夫だろうと言う事で、少し早いが町に戻る事に。

ちなみに、ライトが採取に集中している間にゴブリンが数匹近寄って来たらしく、アンとヴェルが倒し魔核と討伐部位を剥ぎ取っていた。


日が暮れるよりも早い時間に町に戻ったライト達は、ビアンカにムントラヴァの報告をし、ゴブリンの魔核と討伐部位、アサルトボアの買取をお願いした。無論、肉は売ってはいない。

魔核と討伐部位で銀貨4枚と銅貨20枚。アサルトボア親子の毛皮、牙で銀貨2枚と銅貨60枚。解体費用が親が銅貨40枚、子が銅貨20枚で、差し引き銀貨6枚と銅貨20枚に。

肉は明日になると言う事なので、明日の依頼報告の時に受け取る事にした。

買取の話が終わると、ビアンカから「昨日の件について話がしたい」と言われ2階の会議室へと移動する。


「昨日の、Dランク冒険者パーティーの荷物の買取の件ですが、お出し頂いた武器、荷物を精査した結果、金貨8枚、銀貨65枚、銅貨16枚となりました。ご確認下さい。」


そう言って差し出される硬貨。予想外の金額に少し驚く。


「以外と高額になったんですね。」


「ええ。荷物の中に、お金が入っていたのが大きいです。お金はそのままの額が査定に入りますから。内訳はこちらになります。」


そう言うと、ビアンカは内訳の書かれた羊皮紙を見せてくれた。

その内訳は、金貨が3枚と銀貨が168枚、銅貨が216枚だった。

換算し直すと、金貨4枚、銀貨70枚、銅貨16枚となる。


これに小剣が2本、長剣が1本、短剣が5本で金貨1枚と銀貨95枚だ。

小剣が一本銀貨35枚。長剣が一本銀貨50枚。短剣が一本銀貨15枚の査定だ。

これに背嚢の中の衣類、雑貨類、スクロール、食料、野営具など 四人分で金貨2枚(価値が付け辛いので、総評価らしい)が加算され、締めて合計金貨8枚、銀貨65枚、銅貨16枚となるそうだ。

元々所持していたお金を返すと何の意味も無くなるので、お金は貰ってもいいそうだ。


「それと、昨日買取に出された魔核と討伐部位の精算です。銀貨18枚銅貨80枚となります。内訳はこちらに記載しておりますのでご確認下さい。」


手渡された羊皮紙を確認する。

ゴブリンの魔核が一つ銀貨1枚×14個、ホーンラビットの魔核が一つ銅貨60枚×5個、ゴブリンの討伐部位が1つ銅貨10枚×14個、ホーンラビットの討伐部位が一つ銅貨8枚×5個だそうだ。

ま、ギルド価格なので、そこは信用するしかないのだが。


「これら報酬は、現金でお渡しした方が宜しいですか?」


ビアンカの言葉に、一瞬ライトは「ん?」と首を傾げる。


「えっと……どう言う事ですか?」


現金以外の支払い方法を知らないライトは、不思議そうな顔で尋ね返す。


「あ、もしかしたらギルドタグ預かりの話は聞いてないんですね?」


「ギルドタグ預かり?」


「ええ。時に冒険者は多額の報酬を受け取る事があります。その際、現金で受け取るといらぬ騒動に巻き込まれ兼ねないのと、金額によってはギルド側が一括支払いが出来ない場合があります。そう言った場合を想定して、ギルドタグ預かりがあります。支払いを現金で支払わず、タグに「ギルド預かり金」として記載するんです。タグ預かりのお金は、ご本人であればいつでも引き出しや預け入れが出来ます。資金分配で揉める事が無ければ、ライトさんが一括で受取、タグ預かりにしても問題はないと思いますよ?」


「なるほど。それは便利な機能だ。お金を持ち歩かなくて良くなるし。」


とりあえず手持ちの資金は潤沢にある。なので、これから依頼報酬や買取金は、タグ預かりにしてもいいかと考える。


「では、それでお願いします。ついでに、今日の報酬や買取のお金もタグ預かりでお願いします。」


「わかりました。では、1階で手続きしましょう。」


では早速と、ビアンカと共に1階の受付へと移動する。

受付でタグを渡し、ビアンカが手早く今日の総額を計算。羊皮紙に内訳を記入し見せてくれた。その内訳を見て頷くと、何やら手元で作業し始めるビアンカ。そうして作業が終わると、再度詳しく説明をしてくれた。


「ギルドに預けているお金は、身分証タグの裏面に記載されてます。ただ、銅貨換算での表示ですが。」


そう言って裏側に記載された数字を見ると、89016と書かれていた。

換算し直すと、金貨8枚、銀貨90枚、銅貨16枚となる。分かり辛い。


「引出する際は、このギルドタグを受付へと渡して頂き、引出金額をお伝えください。その際、引出多分だけここの表示が変わりますので。」


ビアンカはそう言うと、ライトのタグを返却してくれる。


「分かりました。ありがとうございます。」


ライトはビアンカに礼を言うと、タブを首から下げギルドを後にした。

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