第12話 ちょっと一波乱(11月29日加筆修正)

翌朝、ライトが目を覚ますと既にヴェルが起きており、ベッド横でライトが起きるのを待っていた。

何故待っていたいのか。

それはメイドなのに生活魔法を使えないからだ。残念な事に。

昨晩も、スープ用の水や皿洗い用の水を一々「水を下さい」と言って来たヴェル。それにはライトも参ってしまったので、生活魔法をペーストしようと思っていたのだが、すっかり忘れて寝てしまったライト。

なので、朝食を作る為にライトの水待ちだった訳だ。


「ごめん、昨日すっかり忘れてた。ペースト!」


朝一、ヴェルに生活魔法をペーストした。

しかしそうなると、何故そのような事が出来るのか?と言う話になる。その結果、食事を摂りながらアンとヴェルに、ライトの固有スキル「コピー」の詳細を伝える事となる。

意を決して固有スキルを二人に伝えたライトなのだが、二人は別段特に驚く素振りも無く、「だから何?へ~、便利なスキルだね~」程度の感想であった。

「俺のこの気持ちを返して欲しい」と思ったのは内緒だ。


そんな理由で出発が遅れたのだが、無事テントを仕舞い街道へと戻る。

次の町へは、距離的に昼頃には到着するはずで、四日間滞在する予定だ。

一応、この旅で倒したゴブリンやホーンラビットの魔核と討伐部位の右耳、一角は回収してるが、登録してからまだ一度も依頼を受けてはいない。

せっかくクラースが冒険者登録してくれたので、せっかくだし二日程まともに採取依頼でも受けようかと思っていたのだ。

周囲の気配を伺いながらもアンやヴェルとお喋りしながら歩いて数時間。

ようやく目の前に町の城壁が見えて来る。


「ようやく町に着いたね。列に並ぼうか。」


ライト達は、町に入る列の最後尾に並ぶ。

この町は国境の町デッケルの次の町で、この町を通らないと主要な街に行けない為かなり人が多い。そして、デッケルもそうだったが、町に入る為の手続きの列はかなり長蛇の列になっている。

ライト達三人が列に並び、暫く時間が経つ。後20組くらいで俺達の番になるな〜と思っていた矢先の事だ。事件が起こる。

多分、先頭が一纏まりの馬車であったのだろう。かなりの距離で列が前に進む。

その空いたスペースを詰める為、ライト達も動き出したその瞬間。4人組の冒険者と思わしき男女が、サッと三人の前へと割り込んだのだ。

そして、何事も無かったかの様に「いや〜、いてて良かった。」「ラッキーだったね〜。」「ああ。これで早く宿屋に入れるな。」「今日は少しいい宿に泊まろうよ!」と、完全に周りを無視して話し始める。

周りの大人達も文句を言いたいのだろうが、相手は武器や防具をしっかり装備している多分冒険者だ。注意して怪我をさせられても困るからか、誰一人として噯気おくびにも出さない。

ただ、ライトは違う。こんな蛮行を許すはずが無い。なので、普通に注意をした。


「すみません!割り込みはダメですよ!他の人の迷惑にもなりますから、一番後ろにちゃんと並んで下さい!」


だが、冒険者達は聞こえないふりをする。

何度か同じ事を呼びかけるが、完全無視の四人にだんだんムカムカしてくるライト。


「おじさんとおばさん、聞こえないんですか?あ~、歳を取りすぎて耳が遠くなってるんですね。」


その言葉に、周りの大人達も苦笑する。

すると、流石に恥ずかしかったのか、はたまた腹が立ったのか。顔を赤らめながら後ろを振り向く。


「あ〜ん?俺らは割り込みなんぞしてねぇぞ!列の隙間が空いてたから入っただけだろうが!イチャモンつけるなら、子供でも容赦しねぇぞ!」


リーダーらしき先頭の男が怒鳴り散らす。


「あれ?ちゃんと聞こえてたんですね。確かに隙間は空いたと思うよ?だって、俺達子供だから、大人より歩くの遅いし。だからと言って、その隙間に入るのは大人としてどうかと思うけど?ねえ、おじさん、おばさん?」


男は、怒鳴ればビビると思ったんだろう。しかし、噯気にも出さず言い返したライトに、更に顔に青筋を立てながら拳をプルプル振るわせる。他の仲間の男と女達は、「そんなやつやっちゃえ〜!」と煽ってる始末。

「冒険者と言うのは、こんなにもバカなやつが多いのかな。」そう思っていると、騒ぎを聞きつけたのか、誰かが告げたのか、鎧を着こんだ兵士が数名こちらに走って来る。

それを見た男はバツが悪そうに「チッ。覚えてろよクソガキが。」と捨て台詞を吐いて、仲間と共に列を離れ最後尾へと向かった。

駆け付けてくれた兵士には、周りの大人達が事情を説明し、咎められることなく無事町へと入る事が出来た。ちなみに、周りの大人達から凄く褒めて貰ったので、素直に喜び嬉しかったライトだ。

あんな大人にならない様に気を付けないと。と心に誓った。


町に入ったライト達は、門兵に教えて貰った「アイバーの酒場亭」に宿を取った。

ここはアイバーと言う主人が、家族で経営してる宿屋兼酒場なのだそうだ。

一人一泊二食付き銀貨1枚と銅貨10枚と少し高くはあるのだが、大将も女将も娘もとてもいい人だったのもあり、気を良くしたライトは三人部屋を三泊分頼み、支払いを済ませる。

部屋は2階のちょうど真ん中の部屋。部屋はそこまで広い訳では無いが、清潔そうな白い布の駆けられたベッドが三つ並んでいる。

部屋に入った三人は、それぞれベッドの位置を決めると暫く休憩をする事に。

どれくらい休んだのかは分からないが、「さて行くか。」と言った所でアンが寝ている事に気が付く。起こすのも可哀想なので、アンをそのままに、ライトとヴェルのみでギルドへと向かう事となった。

部屋を出て一階の受付まで降りると、丁度掃除をしていた女将にギルドの場所と市場の場所を教えて貰う。

宿を起点にギルドより市場の方が近いので、先に市場で必要な食材を購入する事に。小麦以外の豆、芋、新鮮な野菜、ソーセージやチーズ、黒パンではないパンなどを次々に購入し、ヴェルのマジックバッグに仕舞うと次の目的地のギルドへと向かう。

女将に教えて貰った通り、迷わずギルドへと到着。いざ中に入ろうと扉を開けようとするが、ライトが扉の取っ手を掴む前に扉が開く。そして中から出て来たのは、先程割り込みをした冒険者達だった。


「あ〜!てめぇ〜さっきのクソガキ!」


突然出て来ての最初の第一声がこれだ。

ギルド職員も、冒険者達も、道行く人達も、その大声でこちらの方へ振り向く。


「あ!割り込みしたおじさんとおばさんだ。」


ライトもまた嫌味っぽい事を言うのだが、その言葉にまたしても顔を真っ赤にする。


「俺はまだ17歳になったばかりだ!それに割り込みしてねぇって言っただろ!これ以上イチャモン付けるなら、ガキだろうが容赦しねぇぞ!」


そう怒鳴り散らした男に対し、ギルド職員もギルドの中に居る冒険者達も、周りの大人達も男を白い目で見る。大の大人が子供に容赦しないと言い放ったのだから、当然と言えば当然だ。


「イチャモン付けてないよ?だって本当の事じゃん。ねぇ、ヴェル。」


ライトはわざとらしく大きな声で、後ろに控えるヴェルへと話を振る。


「はい。この者達は門に並ぶ長い列を無視し、ご主人様の歩幅が大人と違うのをいい事に列の隙間が空いたからと言う理由で割り込んで来た碌でもない冒険者です。」


ヴエルもヴェルで、容赦のない言葉で捲し立てる。

聞いてるライトの方が「ハハッ」っと苦笑いしてしまったくらいだ。

ヴェルにぶっちゃけられた冒険者四人は、もう顔が発光しているのではないかと思う程に真っ赤っかになる。そして、頭から湯気が出ているのではないかと思う程、青筋を立てて怒り始める。


「ガキ共が!いい加減にしやがれ!」


男はそう怒鳴り散らすと、腕を振り被りライト目掛けて殴り掛かって来る。

後ろに続く男と女達も、流石にヴエルの言い分に腹を立てたのか、武器を構えるとヴェルに向かって襲い掛かって来る。

ただ、遅い……。ステータス差なのか、もの凄く遅く感じる。

ライトは殴り掛かった男の拳を、普通に首をかしげて避ける。そして腰を落とし右手に力を貯めると、ズガンッ!と男の鳩尾に一撃を入れる。一応、ちゃんと加減はしてある。多少だが。

しかし、まともにライトの拳を喰らった男は、腹を押さえてその場に蹲り嗚咽と共に胃の中の物を吐き始める。その間にヴェルに襲い掛かった男と女達も、武器を叩き落とされた挙句に地面に叩き付けられ伸されていた。


「いきなり殴り掛かって来るなんて、どうかと思うよ?まあいいや。いきなり殴り掛かって来たお詫びと、勝った戦利品として、武器と荷物を貰って行くね。」


そう言うとライトはヴェルに目で合図し、それを受けたヴェルが四人の身包みを剥ぎ取り始める。

ヴェルが剝ぎ取った物を、マジックバッグに入れるのを見届けたライトは、満足したのか、にこりと笑い改めてギルドの扉を潜った。



ギルド内は騒然とした。成人もしてないだろう少年とメイドの美少女が、最近Dランクになった冒険者四人を一撃で地面に沈めたのだ。

そしてその二人は戦利品と称し、伸した相手の武器や荷物を取ると、メイドの美少女の鞄の中にスっと消えた。その不思議なマジックアイテムへも視線が集まる。

全ての荷物を鞄に入れると、少年とメイドの美少女がギルドの中へと入って来る。

そして更に驚きの光景が目に入る。


「すみません、魔核の買取と討伐部位の確認をお願いしたいんですけど。後、こっちのヴェルの冒険者登録をお願いしたいんですが。」


そう言いながらヴェルと呼ばれたメイドの美少女が、鞄からそれなりの数の魔核と麻袋を取り出す。

しかし、少年の前に立つ受付嬢は固まったままだ。


「すみません、買取大丈夫ですか?」


少年に覗き込まれる様に声を掛けられた受付嬢は、その言葉で我に帰る。


「ぼ、僕……もしかして、お使いかな?」


受付嬢は、誰かのお使いで来たのだと思いたかった。

しかし、無常にも更なる爆弾が降り注ぐ。


「いえ、俺ランクGの見習い冒険者です。」


そう言いながら見せたギルドタグに、ギルド内はさらに騒然とする。


「えっと……ギルドマスターさんは居ますか?デッケルのクラースから連絡が来てませんか?」


少年の言葉に、受付嬢はハッと我に帰り「しょ、少々お待ち下さい。」と言って大急ぎで2階へと駆け上がる。勿論、一段飛ばしでだ。尚、ギルドマスターを呼び捨てにした事も気が付いてはいない。


受付嬢が二階へと飛び跳ねて上がった間、ギルド内は静まり返ったままだ。

暫くしてその静寂を破るかのように、2階から受付嬢とギルドマスターだろう男がドタバタと駆け降りて来る。

ついでに受付嬢が階段踏み外して落ちた。

そんな受付嬢を横目に、男性の方が少年に声を掛ける。


「ラ、ライト君だね?」


「はい。」


その男性と言うのは、細面の顔に肩までの長さの金髪を靡かせており、その金色の糸のような髪の間からは長い耳が飛び出ている。


「私は、ソミルの町のギルドマスターのタマラ・アブレウだ。見ての通りのエルフだよ。話はクラースから聞いてる。ここでは何だから、私の執務室に来て貰えないかな?ビアンカ君、彼の持ってきた魔核と討伐部位を持って一緒に来なさい。」


ライトの目線で分かったのだろう。タマラと名乗ったギルドマスターが自らの種族を口にする。初めて見るエルフに少し驚くライトではあったが、タマラに指示されたビアンカがヴェルが出した諸々を持ち「さあ、こちらへ」と促された為、驚きも少なに2階へと上がって行く事となった。

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