第11話 完璧悪魔の冥土(11月28日加筆修正)

翌日、二人は朝食を食べた後、支度を整え町を出た。

アンは革鎧にを身に着け、昨日ライトが急いで作った鞄を肩から掛け、剣帯にはショートソードと短剣と言うスタイルだ。弓は今の所使わない方向だ。

鞄には多少の食料と水筒を入れ、残りの嵩張る物は収納の指輪に入れてある。


一方のライトはと言うと、革鎧を身に着け、剣帯にはアンと同じくショートソードと短剣。背嚢には食料と水筒、テントに毛布を一枚入れ如何にも荷物を入れてますとアピールしてみた。

指には、血魔冥土騎士の指輪と疾風の指輪を嵌めてある。

盗賊は何でこの指輪を使わなかったんだろうか?指輪を見てそう思うライトだが、やはり鑑定が使えない上にこの指輪の見た目が呪われそうだからかな?と、不思議そうに指輪を眺める。


それは兎も角、デッケルを出たライトとアンは、これから一月ひとつき程掛けて迷宮都市ルゾルドへと向かう。

場所的には、デッケルから西に進み幾つか町を経由してカーマンと言う街に向かい、そこから南下しヴァーノスの町へ。さらにそこから西へと向かいルゾルトへと到着する予定だ。

まあ、立ち寄る町々で、冒険者らしく依頼を受けたりしようと思っているので、長めに見ての一月の予定だ。

途中、ルードの森とイガル山脈の谷合の道。イガル渓谷を通るらしく、「遭遇する魔物のランクが少し上がるから出来れば同じ方向に向かう商隊などに付いて行くように。」とクラースに言われた。

そう言われてもねぇ・・・。とぼやくライト。最悪、アンを背負い、疾走を使って逃げれば大丈夫だと安易に考えている。


そんなことがありつつも、現在街道を西に向かって歩いている。

ディケルは国境の町なので、クラースの言う通りビザード帝国からフィッセル王国中央部に向かう商人や冒険者が多い。馬車に追い抜かれ、大人の歩幅で追い抜かれつつも、とりあえず揉め事に巻き込まれる事なく初日は無事に終わる。

まだ町が近いせいもあり、魔物は殆ど出ないのだから当然と言えば当然だ。


ゆっくり休む為にもマジックテントを出したいライト。なので、かなり街道から外れた場所で野宿をする。

隠蔽やらのおまけ付きテントのお陰で、見張りもする事も無くグッスリ寝る事が出来た。マジックテント様々だ。

ついでに、大き過ぎて歩き辛かった背嚢を少し小さく縫い直した。

一つ難があるとすれば、料理をした事のないライトとアンだ。毎食の食事は堅パンと干し肉なので、そろそろ飽きて来ていた。なので、誰か料理作ってくれないかと説に願った事だろうか。



翌朝

何も代わり映えのしない朝食を食べ、テントを片付けた後に例の指輪を使って見る事に。何が起こるかわからないので、アンには剣を抜き待機して貰う。


「アン、準備はいい?」


「妾は何時でも大丈夫なのじゃ。」


「じゃ、召喚するね!」


そう言うとライトは、指輪に魔力を流す。

すると、悪魔の目が赤く光り始める。その光は次第に大きくなり、ライトを包み込む。そして光りが消えると、ライトの目の前にはロングスカートのメイド服を着、腰には真っ白なエプロンを身に着けたメイド姿の美少女が立っていた。

身長はライトと同じくらい。メイド服は赤黒い色で、腰まである白銀の髪がメイド服と黒い肌を引き立てる。胸は……アンよりもデカい。アンとメイドの胸を交互に見回すライト。一応、ライトとて思春期突入前の男の子だ。どうしても胸に目が行くのはご愛敬あいきょうである。まあ、アンと比べる方が間違っているが。


そのメイドの背中には、どう考えても身長よりは大きい大剣を斜めに背負ってる。

メイドは、召喚主たるライトに気が付くと、サッと片膝を折り跪く。


「私は、血魔ちま冥土騎士。ご主人様の召喚により、暗黒界より御前おんまえに参上仕りました。何なりとお申し付け下さい。」


突然の口上にポカンと口を開け固まるライト。確かの指輪だったよね?なんで騎士なのに鎧ではなくメイド服?しかも、大剣?冥土……メイドか?ライトは首を傾げ、更には頭の中が混乱しまくる。


「あ、あの~。ご主人様?」


ライトが何も言わないので、顔を上げて首を傾げながら上目遣いで声を掛けてくるメイド騎士。


「あ、ああ。よろしくね・・・。と言うか、何で騎士なのにメイド服なの?」


さりげに疑問をぶつけてみる。


「私は血魔冥土騎士団に所属しており、普段は暗黒城のメイドとして雑務を仰せつかっております。このメイド服は、暗黒界の森に巣くうモルフィル蝶の蛹の糸を紡いで造られておりまして、物理にも魔法にも高い耐久値を持っております。また愛剣の銘は『デゴレモワール 』。高名な暗黒鍛冶師が打ちし名剣に御座います。」


「な、なるほど……。」


とりあえず、何となく理解した。やはり、冥土=メイドらしい。

気を取り直したライトは、改めて自己紹介をする。


「俺はライト。こっちの子はアン。君の名前は?」


「失礼致しました。私の名はヴェルと申します。ご主人様、アン様。」


「ヴェルだね。改めてよろしく。君の事鑑定してもいいかな?」


ライトはヴェルの了承を貰い鑑定してみた。


名前 : ヴェル

職業 : 血魔メイド騎士(ライトの従者)

種族 : ハイ・デーモン

状態 : 良好

年齢 : 473歳

レベル: 251

経験値: 35%/100%

体力 : 1248

魔力 : 3491

筋力 : 958

精神力: 1067

瞬発力: 853

スキル:

剣術LV6・体術LV5・身体強化LV7 ・縮地・気配察知・気配遮断・魔力操作・物理攻撃耐性・魔法防御耐性・料理・家政・乗馬・操車


火魔法LV6

LV1:ファイヤーボール、ファイヤーアロー

LV2:ファイヤーボム、ファイヤーウォール、

LV3:フレイムアロー、フレイムジャベリン

LV4:ファイヤーストーム、エンチャントフレイム

LV5:フレイムサークル、ファイヤーアローレイン

LV6:フレア、フレイムバースト

闇魔術LV6

LV1:バインド、ダークボール、テラー

LV2:ポイズンミスト、パラライズミスト

LV3:スリープクラウド、ダークネス

LV4:コンフュージョン、テンプテーション

LV5:ダークマター、ペイン

LV6:インフェルノ


固有スキル:

眷属召喚・超回復・異常状態無効・即死無効


「ははっ・・・・・・。」と引き攣った顔で笑うライト。確かに、能力的には笑うしかない。しかもこれ、絶対に今のライトでは勝てないやつだ。

「つか、俺要らなくない?ヴェルだけで、事足りるよね?」とは思うが、ラシムとメイラを助けるのはライトである訳で、そうなると自分自身が強くならないといけない。結果、やる事は変わらない訳だ。


「あ、ありがとう。とりあえず、歩きながら話そうか。」


完全にヴェルの能力に顔を引き攣らせたライトは、そう告げると歩き始めた。

ちなみに、コピーはしなかった。

だって、これ以上剣術レベルが上がると、言い訳出来なくなるし。


ヴェルが住んでいる場所は、この世界ではなく別の世界なのだそうだ。とは言え、この世界の事すら良く知らないライトには、「ふ〜ん」くらいにしか思わないが。

ヴェルの世界にも人族が住んでいるらしく、何処の国も戦争をする事もなく平和な世界らしい。現状は。


「ヴェルは、こっちに来ても大丈夫なの?向こうの城で働いてるんでしょ?」


城勤めしてるのに、勝手に呼び出してしまい申し訳ないな〜と思ったライトは、そう聞いてみる。


「あ〜、大丈夫だと思います。暗黒大帝様は適当な方なんで、私が居なくなった事すら気が付かれないと思いますよ?」


いや、それでいいのか大帝さん・・・。心の中で盛大にツッコミを入れる。


「そ、そうなんだ。ちなみに、ヴェルは何を食べるの?堅パンや干し肉で大丈夫?」


「はい。暗黒界では、普通に食事をしてましたが、こちらに召喚されている間はご主人様の魔力を頂ければで問題はありません。ただ、食事が食べれない訳ではありませんよ?」


「わかった。じゃ、一緒に食事すればいいね。確か、ヴェルは料理スキルがあったから、食事の方は任せてもいいかい?」


「はい、お任せ下さい。」


よっしゃ!これで、外でも暖かい料理が食べれる!ライトは小さくガッツポーズをする。

すると、隣を歩いていたアンがライトの服を摘みチョイチョイと引っ張る。


「ん?アンどうしたの?」


アンは少し申し訳なさそうにモジモジしながら口を開く。


「その・・・・・・な?妾、たまに人の血を飲まなければならぬのじゃ。出来れば、ライトの血をたまに分けて欲しいのじゃが。」


まあ、そりゃヴァンパイアなのだから、当たり前の事だろう。しかしアンと出会い普通に同じ物食べていたので、必要ないと思っていたライト。だが、やはり血は必要らしい。


「少しでいいの?」


「少しで良いぞ?」


「殺さない?」


「殺す訳無かろう。」


「ならいいよ。必要な時に言って。」


「わかったのじゃ。」


まあ、指先を少し切って、血を舐めるくらいなら問題無いないよね?そんな安易な考えで了承をし、その後他愛のない会話をしながら歩いているのだが、周りから見れば異様な組み合わせなのだろう。

追い抜いて行く馬車や冒険者が、こちらを振り返り訝しむ。絡んで来ないだけマシだが。


新たにヴェルを加えた一行が、呑気にお喋りをしつつ歩いていると、感知系スキルに魔物の気配が引っ掛かる。と言うより、結構前から感知に引っ掛かっていたのだが、面倒臭いので無視していた。

引っ掛かった魔物は、ゴブリンだ。数は4匹。

そんなゴブリン達は、三人を追い抜いて行った冒険者の姿が見えなくなった所で姿を現わす。

確実に、アンとヴェルを狙っているっぽい。

ゴブリンはオークと一緒で、女を見れば発情して襲って来るから面倒臭いのだ。

しかも、子供だから弱いと思ってるらしく、確実に倒せる奴だと確認して襲って来ている。

かなり腹立たしい。


「アン、ヴェル。ゴブリンだ。倒すよ!」


ライトはショートソードを抜くとゴブリン目掛けて走り寄り、そのまま剣を振り抜き一閃し首を落とす。

アンもショートソードを抜くと、いつの間にかゴブリンの胴体は二つに分かれていた。

ヴェルは大剣すら抜かず、素手でゴブリンを殴り付け首が反対方向に向いていた。


ゴブリンの魔核と、ギルドで見た討伐部位と呼ばれる右耳を剥ぎ取ると、ライト達は再び歩き出す。

その後もホーンラビットやゴブリンを倒しながら進み、日が暮れる前には野営(野宿と言ったら、ヴェルに笑われ野営と言うのだと教えて貰った)の準備に取り掛かる。

準備と言っても、街道を物凄く外れてマジックテントを出すだけだが。


テントを出し、中に入ると夕食の支度をするヴェルに食材を見せる。「ん~」と考え始めたヴェル。そしてメニューが決まったのか、必要な物を指さしながら口を開く。


「小麦と干し肉、干し野菜でオートミールが作れますね。」


「あれと、これを」と指示された必要な食材と調理器具、携帯食器などをヴェルに渡したライトは、明日以降、一々具材を見せるのも面倒なのでヴェル用の鞄を準備する為床に座り作業をし始める。

作業と言っても、小麦や干し野菜、堅パンに干し肉の袋。後は、塩に胡椒、ティとロッサムティなどの食材を収納から出し、マジックバッグに入れ替えるだけの簡単な作業だが。

後は、水筒、毛布、携帯食器の残りを入れて完了だ。


そんな事をしていると、調理をしているヴェルの方からいい匂いがしてきた。

鼻をスンスンとするライト。


「お食事が出来ました!」


その声と共に、ヴェルが皿によそってくれる。

アンと共にソファーへと座り、テーブルに置かれた皿にスプーンを入れる。そして一匙掬い、口に運ぶ。


「めちゃくちゃ美味しい!」


あまりの美味さに、二杯もお替りしてしまった。


騎士なのに完璧にメイドなヴェルに、召喚して良かったと思うライトだった。

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