第9話 超特例措置(11月28日加筆修正)
古着を購入し、布屋で針と糸を購入した二人は、次に冒険者ギルドへとやって来た。
先ずは国境から離れなければならないが、毎回食料の調達などで街に立ち寄ると、その度に入市税が掛かってしまう。
一応、かなりの額のお金(ブラスのお金と盗賊のお金)を持ってはいるが、税金の支払いの為に減らすのもバカらしい。
「どうせ道中で魔物を倒すんだ。魔核を売って旅の資金の足しにしたい。ならば、冒険者登録しよう!」
と言う訳だ。
ただ、そう息巻くライトに、現実の壁が立ちはだかる。
それは登録の用紙に必要事項を記入し、提出した後に告げられた。
「申し訳ありません。規定上、見習い登録は13歳から、正規ギルド登録は15歳からの登録となります。」
そう、10歳では登録が出来ないのだ。受付で断られ、現実を突きつけられる。
では、登録出来ないのならば、せめて入市税分ぐらいは稼がないと!ライトはそう思い、魔核の買取をお願いしてみる。
「わかりました登録は諦めます。ただ、この町に来るまでの間に倒した魔物の魔核だけでも買取って貰えませんか?」
そう言いながら鞄から十数個の魔核を取り出し受付へと置いた。
それがマズかった。受付嬢が魔核を手にして驚き、大声で叫ぶ。
「えぇぇぇぇ!?これ、ゴブリンの魔核とホーンラビットの魔核じゃないですか!!この魔核、どうしたんですか!?」
いや、どうしたもこうしたも、さっき自分が倒したって言ったはずなんだけど・・・。内心そう思いながらも、再度説明する。
「さっきも言いましたけど、この町に来るまでの間に俺が倒したんですが?」
しかし、受付嬢は信じてくれず、ライトの事を侮蔑の目で見ている。
「嘘を言ったらいけません!ゴブリンは、10歳やそこらの子供に倒せる魔物じゃないんですよ!?」
そう言われても困る。事実、ホーンラビットは肉が美味いから見つけたら狩っており、ゴブリンはアン目掛けて襲いに来て鬱陶しかったから魔法でチョチョイと倒していた訳だし。
ライトの言う事を信じてくれない受付嬢に、「どう言ったらわかってくれるのだろうか?」と思案していると、ライトの右手側の方から笑い声が聞こえて来た。
「ギャッハッハ!坊主、ミラちゃんが困ってんだろ!ガキが嘘吐くんじゃねーよ!どーせ、どっかの冒険者が倒して放置したゴブリンから盗んで小遣い稼ごうと思ったんだろ?」
そう言ってニヤニヤしながら近づいて来る四人の男。パッと見た感じ、ガラが悪く盗賊にしか見えない男達だ。
「嘘はいけねーな嘘は。ほれ、早いとこ受付のお姉ちゃん謝って、お家に帰ってママのオッパイでも吸っときな!」
男がそう言うと、他の三人も声高に笑う。その笑い声が、ブラスと被る。
「嘘なんて吐いてません。これは正真正銘、俺が倒して手に入れた魔核です。そんな下品な笑い方で笑われる筋合いはありません。」
だんだんムカムカしてきたライトは、男達に向かってそう言い放つ。すると、最初に笑いながら話しかけて来た男の顔がみるみる青筋を立てて赤くなる。そして、ずかずかとライトの方へと近付いてくると、左手がライトの胸ぐらを掴む。
「このクソガキが!優しくしてりゃぁ、つけ上がりやがって!このまま無事に帰れると思うなよ!」
「つけ上がってなんかないですよ。本当の事を言ったまでですが?」
そろそろ怒りが爆発しそうなライトは、男を睨みつける。
「てめぇー!」
男は腕を振り被りライトの顔面目掛けて殴り掛かるが、常時身体強化をしているライトからすれば普通に遅すぎる。
「スロウ」
ライトはスロウを掛けると、男の
そこでスロウが切れる。
スロウが切れた後、男は左手の甲の痛みに蹲り股間の痛さに悶絶する。
何が起きたのか全くわからない男の仲間三人とギルド職員は、唖然としてしている。
「勝手に怒った大人が、10歳の子供に殴り掛かった。これって、俺悪くないですよね?」
ライトがそう言うと、我に返った仲間の三人が「クソガキが!」と叫びながら殴り掛かって来る。
「はぁ・・・スロウ」
溜息を吐きながら再度三人にスロウを掛けると、鞄から短剣を追加で出して三人の両足の太腿を次々と刺していく。丁度三人目の太腿を刺したところで、スロウが切れる。
ライトが太腿から短剣を抜くと、三人はその場に崩れ落ち足を押さえて転げ回る。
この四人を見てると、どうも盗賊にしか見えてこない。いや、もう盗賊でいいじゃないか。盗賊は悪いヤツで、殺さないといけないんだ。そう考えたライトは、職員の方へと向き口を開いた。
「確か、盗賊に襲われたら、殺しても罪にはならないんでしたよね?盗賊が盗んだ物は、盗賊を殺した人の物なんですよね?」
この情報は、ブラスから聞いた(勝手に喋ってるのを聞いただけだが)情報だ。
ライトは短剣を逆手に持ち替え、男達にトドメを刺す為に近づいて行く。
その姿に、男達は勿論周りの職員すら顔を引き攣らせている。
そして、ライトが胸ぐらを掴んだ男の前に立ち、短剣を振り被った時だ。
「そこまでだ!」
突然後ろから叫ぶ声がした。
声のする方を見ると、受付の奥の階段には男がいた。
「そこまでにしなさい。もう十分だろ?」
その男はそう言いながら、ライトの方へと近付いてくる。
「十分かどうかはわかりませんが、盗賊は直ぐに殺さないとまた人を襲うよ?」
ライトは首を傾げながらそう告げる。
「彼らは冒険者だ。盗賊ではない。だから殺す必要はない。短剣を仕舞いなさい。後はこちらに任せて。」
その男はライトの肩に手を置きそう言う。
ライトは渋々短剣を鞄に仕舞うと、受付前に居るアンの所へと戻る。
男はライトがアンの側へ行ったのを確認すると、床に転がる四人組の方を向き口を開く。
「お前達。冒険者が一般の人に危害を加えたらどうなるかわかっているんだろうな?ましてや場所はギルドの中で、しかも相手は10歳の子供だ。私も見ていたのだから言い訳は出来んぞ?」
その男は、床で転げ回る男達を見下しながらそう告げる。
「お前達の処分を言い渡す。これまでのギルド内における新人冒険者に対する数々の言い掛かりや暴力行為に恐喝。並びに今日の一件を踏まえ、今までも散々注意してきたが、君達は注意しても改心する事は無いと判断した。よって、四人共冒険者資格の剥奪、並びに彼に賠償金として一人金貨1枚を支払う事!更に、君達は一般市民に手を挙げた。よって、今から衛兵に引き渡すから、こちらで責任を持って支払っておく。おい!彼らから洋服以外を剥ぎ取り衛兵に突き出せ!手の空いた物は、彼らの拠点から荷物を全て引き上げて来い!」
男はそう言い職員に指示を出す。指示された職員は、バタバタと動き始める。
ライトは内心、「ざまぁみろ」とほくそ笑む。
「さて、ミラくん。」
そして次に男は受付嬢の方を向く。
「は、はい!」
まさか自分に振られるとは思わなかったのか、受付嬢がビクッとする。
「ギルド規約第十項は知っているかな?」
「は、はい。知り得た情報は決して口にする事なく、秘匿しなければならない。……です。」
受付嬢はそう言いながらもみるみる顔が青褪めて行く。
「それに抵触した場合も知ってるね?」
「は、はい。で、ですが!」
その瞬間、男は受付嬢を睨み付ける。
「ですがも何もない!君は何年受付嬢をしているんだ?そう言う場合の為に、別室があるんだろ!今回のこの騒ぎは、君の配慮不足が原因で彼らを助長させた事に他ならない!よって、ギルド規約第十一項の罰則規定により、君は今日限りでクビだ!今月の給料は、彼らの賠償金に当てさせて貰う。さっさとこの場から出て行くように!」
そう告げられた受付嬢は、崩れ落ちるように座り込みカタカタと震えていた。
そして今度はライト達の方を向き、にこやかに口を開く。
「さて、君達。僕に付いて来て貰えるかな?」
現在、ライトとアンはソファーに座っている。目の前には先程の男がこちらを見て、にこやかにソファーへと座っている。
そして目の前のテーブルには、高そうなコップが三人分用意してあり、その中にはオレンジ色のお茶が入っている。更には、テーブルの中央には木の器に入った四角い食べ物が。
「先ずは、謝らせてくれ。うちの職員と所属の冒険者が大変申し訳ない事をした。」
そう言いながら頭を下げる。
「僕の名前はクラース。このデッケルの町の冒険者ギルドのギルドマスターだ。」
目の前にいる男は、何とギルドで一番偉い人だった。
ただ、田舎者のライトには、ギルドマスターが何なのかは分からない。なので、首を傾げてしまう。それを見たクラースは、改めて10歳児にも分かりやすい説明をする。
「あ~、要はここの責任者だ。今、先程の男達の財産を全て回収してるから、もう少し待って欲しい。後、ギルドとしても君達にお詫びを準備させてるから、暫く時間を貰えないかな?ところで君達、名前は?」
丁寧に話をしてくれるギルドマスターに、自分の名前を名乗る。
「俺はライトです。こっちは、アン。」
「ライト君とアンちゃんだね。さっきゴブリンやホーンラビットを倒したって言ってたけど、それは本当かい?」
「はい。ホーンラビットは肉を食べる為に狩ってましたし、ゴブリンはアン目掛けて襲いに来るので鬱陶しくて……。」
素直に答えるライト。
「なるほどね。ま、さっきの騒動を見てれば、強ち嘘でもなさそうだ。」
ちゃんと信じてくれる人は信じてくれるものである。ライト的に、少し荒んだ心が癒された気がした。
「で、君達は何で冒険者になりたいんだい?」
その問いに、ライトはどう答えたものかと言葉に詰まってしまう。
どう説明すればいいのか、どこまで話せばいいのか。そもそも、この人は信用できるのか?と。
その様子を見てクラースが口を開く。
「ちゃんと理由を教えてくれれば悪いようにはしないよ。逆にちゃんと教えてくれなければ、力になりたくてもなれない。小さな子供が二人で冒険者になろうとするんだ。何か理由があるんじゃないのかな?」
その言葉を聞き、ライトは事情を話す事にした。
まあ、10歳の子供だから駆け引きなんて出来る訳がないのだが、クラースの成りと言葉遣いで信用した感じだ。
「えっと・・・先ず、俺は元奴隷です。悪い事をして奴隷になった訳では無く、住んでた村が盗賊に襲われ、家族や村の人達は殺されました。そして、俺達子供は盗賊に囚われ、その後奴隷商に売られました。」
弟や幼馴染や他の子供達は別々に売られて行き、最後にライトだけが残った事。
その後、ライトを買った契約者が、魔物に襲われ死んでしまったので何とか逃げ出した事。途中盗賊に襲われていたアンを助けてこの国に逃げ込んだ事。強くなって、弟と幼馴染を助けたい。しかし、その前に自分自身が強くならないといけない。
その為には先ずお金を稼いで生きていかないといけない。町に入るのに毎回入市税が掛かると、食事すら出来ない。だから、冒険者として登録してお金を稼ぎつつ強くなろうと思った。そうクラースに説明した。
まあ、間違ってはいない。
「なるほど。違法奴隷か。となると、君達はビザード帝国から逃げて来たんだね。あそこは、色んな意味でおかしい国だからね。住んでた国は何処なんだい?」
「オラリオン王国です。ダーグと言う街の近くのタガラ村に住んでました。」
クラースはライトの言葉を聞き納得する。
ギルド間情報で、タガラ村が襲われ全滅したと聞いていたからだ。
「そうか。ここはフィッセル王国と言う国だ。オラリオン王国は、ビザード帝国を挟んで反対側、北西の国だね。君達は、ビザード帝国から南東に向かって歩いて来た訳だ。オラリオン王国に戻るには、北のビザード帝国を通るか、西のアルベール公国経由でエルフの森、魔峡谷を通る二つの道しかないね。いずれにせよ、子供だけで戻るには辛い道だよ。」
「そうなんですか……。」
「君は強くなって弟や幼馴染を助けるたいんだよね?それなら、ギルドからのお詫びとして、超特例措置で冒険者登録をしてあげよう。それくらいの権限は僕にもあるからね。その代り、15歳になるまでは、ランク昇格基準を満たしてもランクを上げない。それが条件だ。」
ライトは、まさかの特例措置にめちゃくちゃ喜んだ。
「ホントですか!?その条件で出来る事って、どんな事ですか!?」
「登録すれば、君達はランクG冒険者になる。要は見習いだね。ランクGで出来る事は、町の困ってる人達のお手伝い、町の外での薬草などの採取。それに、それこそホーンラビットの調達くらいかな。それでも、頑張れば強くもなれるしお金も稼げる。どうかな?」
「それでお願いします!」
「わかった。では、後で手続きをしよう。それと、奴隷についてだけど……」
ライトはその言葉にビクッと反応する。
「本来、奴隷は冒険者登録出来ないんだ。だけど、君達は契約主の居ない奴隷。そもそも犯罪を犯した訳でも無く、違法に攫われた奴隷だ。冒険者登録をすれば誰も君達が奴隷だとは気が付かないだろうけど、奴隷紋だけは見せたらダメだよ?」
本来、奴隷は冒険者にはなれないらしい。奴隷紋に関しては、ライトもちゃんと理解はしている。
「はい、そこら辺はちゃんと理解してます。ところで、奴隷紋を消す事って出来るんですか?」
「いや、奴隷紋は一度入れると消す事は出来ないと聞いている。だから、確実に隠しておかないとダメだからね。」
「・・・わかりました。」
奴隷紋が消せないと知って、ライトは俯きながらもそう答えた。
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