第7話 元奴隷が元奴隷を助ける(11月28日加筆修正)
辺りが暗くなった。アジトの入口には、見張りが二人立ってる。
どちらか一人だけ倒すと、残った方が声を上げるから厄介だ。
だが、ライトには強い味方がある!
それは、
「時空魔法のスロウ。単体若しくは複数選択可で、10秒間時間を遅くらせる。中々いいスキルだね。」
そう、こういう時に役に立つ魔法だった。
これは、マジックバックから得た魔法だ。マジックバックをコピーした際、スロウとエリアスプレッドと言う時空魔法を得たのだ。ただ、マジックバックに「10秒」と言う時間制限が意味を成すのかは微妙だが。
それはさておき、作戦はこうだ。
まず、俊足と気配遮断を使い見張りの近くまで近付く。その後二人にスロウを掛けたら短剣で殺す。多分、ギリギリ喉を斬れるだろう。
見張りを倒したら、俊足を切って気配遮断だけで中に入る。後は、見つけ次第頑張って倒すだけの簡単な作戦だ。
固まっててくれればファイヤーボムで一発ではあるのだが。
見張りの二人は、緊張感も無いのか欠伸をしている。
ライトは作戦通り気配遮断と俊足を使い見張りへと近付いて行く。
「スロウ」
小さな声で呟く。その瞬間、周りの景色が異常にゆっくりと動くのを感じる。ライトは手に持った鋼の短剣を振り抜き、見張りの首を切り裂く。
「ドサッ、ドサッ」っと結構な音を立てて見張りが倒れた。倒した後の事は全く考えて無かった為、焦るライト。
暫く洞窟の中の様子を伺うが、誰も出て来る気配は無い。気が付かれなかったようだ。ライトは安堵のため息を吐くと、洞窟の壁に背を付けてゆっくりと中へと入って行く。
途中、細い通路があったがとりあえず無視し、そのまま真っ直ぐに奥へと向かう。
洞窟の中は右に左にと通路が曲がっており、それに合わせて歩きながら着いた先は、ちょっとした開けた広場となっていた。そしてその広場には、地面に寝転ぶ盗賊達の姿が。ここが盗賊達の寝床なのだろう。
薄暗くて良く見えないが、20人程がその場で横になって寝ている。
ライトは大きく息を吸い込み深呼吸すると、徐に右手を翳しファイヤーボムを撃ち放つと素早く来た道を引き返す。
曲がり角まで来た所で、後方から爆音が鳴り響く。
少し顔を出して覗いてみると、広場の方から真っ赤な炎が噴き出しているのが見えた。そして聞こえて来る阿鼻叫喚の叫び声。
暫く曲がり角で待機をし、炎の勢いが治まったのを確認したライトは広場へと向かう。
広場の地面は黒くなり、人の焦げた匂いが充満していた。動く物が無いのを確認したライトは広場から立ち去ろうとする。
その時だ。
「クソッ!どこのどいつだ!」
と、広場の反対側から声が聞こえる。
声のする方を見ると、右手に剣、左手に松明を持ち立っている男の姿が。
よく見ると、奴隷商人を切り殺した男だ。
ライトは俊足を使い、一気に男目掛けて走る。そして、男がライトに気付いた時、左手を上げ呟く。
「スロウ」
男の動きがスローモーションの如く遅くなる中、ライトは一気に男に肉薄すると短剣を両手で握り締め男の胸へと突き立てる。
男は何が起こったのか分からないまま、ゆっくりと短剣の突き刺さった胸を見、そして己の胸を突き刺した者の方を見やりながら倒れ込む。
ライトは倒れて来る男を避けると、男の持っていた松明を手に取る。
そして胸から短剣を抜き男が息絶えているのを確認すると、持っていた剣を収納に入れて男が出て来たであろう通路へと入って行く。
通路の先は、男専用の部屋だった。
床には魔物の毛皮が敷かれ、周りには宝石や小袋が散乱している。
ライトは金目の物を片っ端から収納へ放り込むと、部屋を後にする。
広場を通り、途中の枝分かれした細い通路を調べながら洞窟の入口に向かって歩き始める。
広場から見て最初の細い通路の先は食糧庫で、目減りしていた食糧の補充が出来た。
次の細い通路の先は武器庫で、色々な武器、防具が乱雑に置かれていた。
それらを全て収納へと放り込むと、最後の細い通路へと入る。
そしてどうしたものかと困ってしまう。
何を悩んでいるかと言うと、ライトの目の前には、牢に入れられた女の子がいるのだ。昼間、奴隷商の檻馬車に入っていた子だ。
銀色の長い髪を両横で縛り、青白い肌をしたとても可愛い女の子だ。年齢的には、12歳くらいだろうか。ライトが買われた際に着ていた貫頭衣を着ており、その雑に切られた首回りの部分から奴隷紋が描かれているのがチラリと見える。
ちなみに、胸はそれなりにある。
鑑定してみると
名前 : アン=ソフィ・ヴェスティーン
年齢 : ????歳
レベル: ????
経験値: ????
体力 : ????
魔力 : ????
筋力 : ????
精神力: ????
瞬発力: ????
スキル:
????
????
????
????
固有スキル:
????
????
????
????
????
隠蔽されてのだろう、名前以外全くわからない。
結果、何の情報も無く、このまま助け出していいものなのか悩んでいるのだ。
そんなライトが本当にどうしようかと思っていると、牢の中の女の子が目を開けた。
「ふぁ~!良く寝たのじゃ。ん?ここは何処じゃ?お前は誰じゃ?」
何こいつ。いきなり偉そうなんですけど。つか、寝てたの!?もしかして、熟睡してたの!?内心、そう悪態を吐くライト。だがここは紳士的対応に出る。
「えっと・・・ここがどこら辺かは分からないけど、盗賊のアジトの中ではあるかな。俺はライト。君は?」
鑑定で名前は分かってるが、鑑定を持っていると気付かれたくないので聞いてみる。
「妾か?妾はアン=ソフィ・ヴェスティーンじゃ。アンと呼んでも良いぞ。ライトは盗賊なのか?」
「いや・・・その盗賊を倒した方かな。」
「お前は盗賊ではないのか。では、妾がどうしてここに居るのか知っているのか?」
一々偉そうな言い方だ。
妾とか言ってるし、もしかすると何処かの国のお姫様なのかもしれない。いや、無いか。
「いや、それは分からないかな。分かるのは、アンが奴隷だったって事くらい。」
「奴隷?」
キョトンとした表情でアンは首を傾げる。
内心でちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。
「うん。アンには見え辛いかもしれないけど、首の下の所、胸の上に魔法陣があるでしょ?それ、奴隷紋って言って奴隷の証なんだ。」
アンは頻りに下を向いて確認するが、暗い上に丁度顎で隠れてしまい微妙に見えない。ライトは収納からミスリルの剣を取り出すと牢の方へと近付き、松明を翳しながらその綺麗な剣身にアンの奴隷紋を映させる。
「ほう、これが奴隷紋と言うものなのか。そうすると、妾はライトの奴隷と言う事なのか?」
「いや、俺の奴隷と言う訳では無いんだけど・・・。多分、奴隷商が盗賊に殺されたから、今は主人無しの奴隷になってる筈だよ。」
そう説明すると、アンは手を見つめ握ったり開いたりしながら何かを確かめていた。
そして徐に口を開く。
「のう、ライトよ。妾、魔法が使えぬのじゃが?」
「奴隷主は死んだけど、奴隷契約の効果が生きてるからじゃない?」
うろ覚えであるが、多分それで合ってたはずだ。
奴隷契約は、書き換えをしない限り主人が死んでもその効果は継続される。
「なるほど。ではライトよ、妾が魔法を使えるようにしておくれ。」
「は?」
いや、確かに奴隷術はコピーしているので持ってるが、それを行うには専用のインクや紙が必要だ。更に言えば、そのインクを作るには錬金スキルが必要であり、ライトはまだそのスキル持っていない。襲われた馬車まで戻れば何処かにあるのかもしれないが、結構な距離がある為戻りたいとは思わない。それ以前の問題で、アンと言う女の子の正体が分からないのに、契約条件の解除なんてしたくはない。
「いやいや、俺10歳の子供だよ?そんな事出来る訳がないじゃん。」
「むっ。ライトは10歳なのか。ガキじゃの。」
見た目同い年のガキにガキと言われ、ちょっとカチンと来たライトは、声を荒げて反論する。
「んじゃ、アンは何歳なんだよ!あんま俺と歳変わらなそうじゃん!」
「妾か?確か500歳くらいまでは数えておったが、それ以降は数えるのも面倒で数えてはおらぬの。凡そなら700歳くらいかの?」
「・・・はい?」
同い年だと思っていたライトだったが、実際はライトよりもかなり年上だった事に驚くライト。ただ、その年齢が本当であるならばだが。しかしそんなライトの表情を見て取ったのか、アンは飄々と答える。
「ん?何を驚いておる。妾は、ヴァンパイアじゃぞ?」
その言葉を聞いた瞬間、ライトの全身から冷や汗が流れる。
「ヤバい、これ終わったかもしれない・・・。」と。との直後、ライトは速攻で土下座をする。
「すみません!ごめんなさい!どうか、命だけは・・・殺さないで下さい!」
そんなライトの行動に、アンはポカンとしている。
「何故ライトを殺さなければならないのじゃ?妾は、ライトを殺すつもりは無いぞ?」
「ほ、本当に?」
「うむ。ライトを殺してしまっては、妾はいつまで経っても魔法が使えぬからの。だからと言って、魔法が使えるようになってもライトを殺す事はしないがの。」
「ホントのホントに?」
「うむ。約束しよう。ただし。」
「た、ただし?」
「妾が魔法を使えるようにした上で、屋敷まで送っておくれ。」
その言葉に、ライトは頷くしか出来なかった。
その後アンを牢から出したライトは、盗賊のアジトで一夜を過ごす事に。
季節は秋。少しずつ寒さも増してきており、何より外はまだ暗い。外に居るよりは、洞窟に居た方が温かかったのだ。
そしてアンに色々と話を聞いた。
元々アンは何処かの森の奥に住んでいたんだそうだ。
場所は近くまで行けば分かるが、詳しい場所までは覚えてないらしい。
たまたま外に散歩に出かけ、気持ちがいいので昼寝をしていたそうだ。
そして、目が覚めたらここにいたらしい。
その話を聞いたライトは、絶対にこいつバカだと思った。
普通に考えれば、近くに人が来たらすぐに気が付くはずだ。なのにも関わらず、こんな所に来るまで全く起きもせず、気が付かないと言うのは先ず有り得ない。
それよりも、「ヴァンパイアって太陽がダメだったんじゃないのか?」と疑問に思う。
「気持ちよく寝てて全く気が付かなかったのじゃ。それに、妾は真祖だから太陽は関係無いのじゃ。」
答えは全く関係無かったらしい。そしてやはりおバカだった。
色々な事情を聞いたライトだったが、とりあえず今の段階でアンの魔法を使えるようには出来ないので諦めて貰った。
その後、夜が明けるまでアンとお喋りをしながらも、ライト自身の事もある程度は話しておいた。コピーの事に関しては教えてはいないが。
翌日から、アンと二人で道なき道を歩き国境を目指す。
ラシムとメイラを早く救い出したいのは山々なのだが、ブラスの件がある。
いつ追手が差し向けられるか分からない為、先ずはこの国を出て安全な国へと行きたい。
マジックテントがあるから苦にはならないが、それでも食糧はいつか底を突く。安心安全に食料の調達が出来る場所を確保しなければならなかったのだ。
それと、アンにはライト自身も元奴隷で、アンと同じく主人の居ない奴隷だと言う事を告げた。そして、今まではライト一人だった為に確認が出来なかった背中の奴隷紋をアンに見て貰い、何とか消せないかと背中を木に擦り付けた。
木の樹皮に擦り付けた事でライトの背中は血だらけになったが、アクアヒールで傷は綺麗に消えた。これだけ痛い思いをしたにも関わらず、その後確認した背中には奴隷紋が綺麗に残っていた。
成功したらアンの奴隷紋も消せるかもしれない。そう思っていたのだが、それも残念な結果となる。
とは言え、アンの奴隷紋は目立ちすぎる。貫頭衣と言う服の所為もあるのだが、首下に書かれているのがマズい。なので、身長的にライトと同じくらいなアンには、ダナの服を着せしっかりと首元までボタンを閉めさせた。これで何とかなるはずだろうと思いながら。
こうしてあれこれやりつつも、二人はひたすら歩いた。
途中、ホーンラビットやゴブリンと言った魔物と遭遇はしたが、サクッと倒す事が出来た。
鑑定すると、ホーンラビットは食べれるみたいだったので、鋼の短剣で皮を剥ぎ薪にファイヤーアローを放ち火を点けて焼いて食べた。
ちなみに、ゴブリンは鑑定結果で食べれないと出たので捨てた。
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