第5話 自由を手に入れた!(11月28日加筆修正)

気配遮断で難を逃れたライトは、クズ男から距離を開けると身体の痛みを必死に耐えて隠れていた。

何故耐えているかと言うと、クズ男が「クソッ、戻って来い!」とか「何処に消えた!出て来い!」と叫びまくっている為、それに応じないライトの行動は命令違反とみなされているのだ。

しかしライトは出て行かない。ここで出て行くと、折角の計画が水の泡と化してしまうからだ。


そんなライトの数メートル前で、クズ男とオーク六匹が戦っている。

本来ならクズ女二人の援護があってのクズ男。その援護が無い為、どんどんジリ貧になっていく。

暫くその様子を見ていると、オーク共の背後から矢と魔法が飛んで来る。ダナの放つ矢はオークの肩へと突き刺さり、アデラの放ったファイヤーアローが別のオークの背中へと突き刺さる。

攻撃を受けたオーク二匹は「ブヒィッ!」と声を上げると、後ろを振り返る。そして、ダナとアデラを見付けると嬉々として二人の方へと走り出す。

その表情を見たダナとアデラは、オークを近付けまいとオークに向かって魔法と矢を放つ。

アデラの放ったフレイムジャベリンがオークの腹に命中。オークはそのまま地面へと倒れ込む。もう一匹のオークはダナの放った矢が目に刺さり、その場で棍棒をブンブン振り回しながら暴れる。そして、一匹倒したアデラが、暴れるオークにフレイムジャベリンを放ち息の根を止める。


一方のブラスはと言うと、オーク二匹が抜けたところであまり状況は変わりはしなかったようだ。

オークファイターとオークに周りをしっかり固められ、回避と防御に専念する事しか出来ていない。そして、遂にその防御が崩される。

振り下されたオークファイターの棍棒が、ブラスの剣を弾いた。剣を弾かれたブラスは、手が痺れ剣を取り落としてしまう。そうなると、残りの選択肢はオーク共に蛸殴りにされるだけだ。

「止めろ!」「助けてくれ!」と叫びつつもオークの手が止まる訳もなく、最終的には横殴りに振り切られた棍棒頬にヒット。首があらぬ方へと向き地面へと沈む。

その頃になると、二匹のオークを倒したダナとアデラがブラスの援護に到着していた。しかし、既にブラスは息が無い。と言うより、顔が背中側に向いている。

その光景はかなり気持ち悪い。

そんな事とは終ぞ知らないダナとアデラは、逃げればいいのにブラスからオークを引き離す為に矢と魔法で牽制する。ブラスを倒したオーク達は、新たに加えられた攻撃に苛立つ。振り返って見れば、相手は女じゃないか!「ブヒーッ!」っと喜びを露わにしたオーク達は、こぞってダナとアデラの元へと走り出す。


その光景に、再び身の危険を感じたダナとアデラ。すぐさまアデラが広域魔法のフレイムボムを放つ。放たれたフレイムボムは迫り来るオークのど真ん中に見事に着弾。

オーク共は身体を吹き飛ばされ息絶える。

しかし、オークファイターを殺すには威力が弱かったようで、全身ボロボロの血だらけになったオークファイターは怒り狂い棍棒を振り回して二人へと突進する。

そして振られた棍棒の一撃。

アデラの左腕に当たり腕が折れ、隣に立っていたダナを巻き込み吹き飛ばされる。

二人は木に激突すると、そのまま意識を失い崩れ落ちる。

残ったオークファイターは倒れた二人に近寄ると、二人を肩に担ぎあげ痛む身体を引き摺りながらも凱旋よろしくルンルンに歩き始め・・・る事は無く、その直後オークファイターの胴体に突然穴が開きそのまま前へと倒れ込む。

そう、ずっと隠れていたライトが、機を伺いながらオークファイターへと近付き、フレイムジャベリンを放ったのだ。


時は少し遡る。

オーク六匹を引き連れたライトは、ブラスへオークを擦り付けると、距離を取り身を隠していた。その後、オーク二匹がダナとアデラの方へと向かい、残った四匹に蛸殴りにされるブラス。

ブラスを倒したオーク共は、まだブラスが死んだとは知らないダナとアデラの攻撃によりブラスの側から離れて行く。

ライトは隠れている場所から出ると、ブラスの方へと駆け寄る。


(あ~ダメだなこりゃ。首の骨が折れてるわ。)


ブラスの顔が背中を向いているのを確認した時だ。少し先の方で爆発が起こる。

オーク共がブラスから距離が離れた為、アデラが広域魔法を使用したんだろう。

爆発の方を見ると、吹き飛ばされたオークの肉片が飛び散っている。

しかし、オークファイターは生きており、怒り心頭でアデラ達の方へと走り出す。


ヤバい!これはチャンスだ!


ライトは気が付かれない様にオークファイターの方へと素早く近付いて行く。

オークファイターは、気絶してるダナとアデラを肩に担ぎ、ライトに背中を向けて立ち去ろうとしている。


(気配遮断って結構優秀だな。)そんな事を思いつつも、このチャンスを逃す訳にはいかない。ライトはすぐさま右手を前に突き出すとスペルを唱え始める。そして至近距離から放たれるフレイムジャベリン。

オークファイターの腹に風穴を開ける。

何が起きたのかわからないまま、オークファイターは前のめりに倒れ、ダナとアデラはその反動で地面に叩き付けられオークの下敷きとなる。


「よっしゃ!ざまぁ見ろ!!これで俺は自由だぁ!」


ライトは飛び上がって喜んだ。

何故なら、奴隷のブラスが死に、奴隷契約が破棄されたからだ。そう、主人の居ないフリーの奴隷になった瞬間だった。

但し、その状態でライトが誰かに捕まり、主人の居ない奴隷だと知られてしまうと、ライトを捕まえた者の所有物となってしまう。そして、再びその誰かが正規の手続きをしてしまえば、ライトは再び奴隷となってしまう可能性がある。

なので、絶対に奴隷だと知られてはならない。知られなければ問題は無い。


「とりあえず、この場から離れないと。」


ライトは急いで荷物を纏め始める。オーク共の血に引き寄せられて他の魔物が来るかもしれないからだ。

元々朝イチでシモの所から買われ、そのままここに連れて来られたライトが荷物を持ってる筈がない。では何の荷物かと言うと、ブラスやダナ、アデラが持ってた荷物だ。

ラシムやメイラを助け出す為にも、ここで捕まる訳にはいかない。

逃げて逃げて強くなって、あのヴァロと言う盗賊やシモに目に物見せてやる。その為には、こいつらの荷物が必要だ。腐っても冒険者なのだから、食糧だって持ってるはずだ。

ライトは急いでオークファイターの体を収納経由で退かし、下敷きになったダナとアデラの身体を露わにする。

ちなみに、二人はオークファイターが倒れた際に、地面に頭を強打したらしく頭から血を流していた。が、そんな事はライトの知った事ではない。

下着と首から下げているカードのような物以外の、全ての物を収納へと仕舞い込むとブラスの元へと向かう。

ブラスも二人と同様に下着と首から下げてるカード以外の、何から何まで全てを剥ぎ取る。

そして少し離れた場所に落ちている剣を拾うと、収納へと入れその場を立ち去った。


身体強化と気配遮断を使い、多分通って来たであろう道を戻る。途中、気配察知に何かが引っ掛かったが、息を殺してやり過ごした。

漸く森を抜けると、既に日が沈み辺りは暗闇に包まれかけていた。

このまま来た方向に戻れば、シモの居る街に行ってしまう。それだとブラスたちが死んだ事がバレるし、その責任を取らされ生き残ったライトは殺されてしまうかもしれない。折角自由を手に入れたんだ。今捕まる訳にはいかない。

そう思ったライトは、シモの居る町とは反対方向へと向かう事にする。


暗闇の中、生活魔法のライトで灯りを照らし、一人、街道では無い場所を歩く。

腹は減ったが、ブラスたちの荷物を漁る時間は無い。生活魔法のウォーターで水を飲みながら、ひたすらライトは歩き続けた。

そして魔物に襲われる事も無く、少しずつ白み掛って来る空の下、無事に夜が明ける。朝日を見ながら、遂にライトは地面へと座り込んだ。

いくら身体強化を使っていたとしても、たかだか10歳の身体だ。まだ身体もガリガリで元に戻ってはいない事もあり、流石に疲労が溜まっていた。


「ダメだ~!疲れた~。もう無理!」


ライトはその場に寝転び、身体を休める。緊張していたせいか、あまり眠気は無い。それよりも何より、物凄い空腹感を覚える。


「ダメだ。腹が減った・・・。あいつらの荷物の中に、食える物が何か無いかな。」


身体を起こし、収納からブラス達の荷物を取り出す。


「そもそも、こいつらの荷物って少なく無いか?こんな肩掛けの小さな鞄で良く町の外に出れるよな・・・。」


たかだか10歳の村の子供だ。世の中にどんなものがあるのかすら知らない無知な子供だ。なので、あの三バカが持っていた荷物の少なさに首を傾げつつも鞄の中を漁る。

すると、まぁ出るわ出るわ。

え?この小さな鞄にこんなに入ってるの?と驚くほどの大量の荷物が出て来る。


堅パンの入った袋(一袋に10個)×6

干し肉が入った袋(一袋に10枚)×6

手のひらサイズの球体×1

毛布×3

皮の水筒×3

男物の服

男物の下着

女物の服

女物の下着

ブーツ×6

お金の入った袋×5

ヒールポーション×6

マナポーション×8

剣×2

弓×2

20本入りの矢筒×3

8本入りの矢筒×1

杖×2

短剣×3

ブレストプレート

ローブ

革鎧

調理器具

携帯食器

等々


とりあえず堅パンと干し肉を齧りながら、出て来た物を鑑定してみる。

先ず下着だが、これは置いておこう。強いて言うならば、女性物の下着はかなり際どい物で、ライトが少々ドキドキしてしまったくらいだ。

洋服はと言うと、サイズ的に着れる服がダナの服だけだった。なので、貫頭衣から短いズボンとシャツ、そして靴を頂戴し着替えた。


それよりも驚いたのは、腐っても貴族の三男だと言う事だ。

先ず、小さいと思っていた袋だが、三つともマジックバッグと言う物らしい。無限にとまではいかないが、それなりの容量の物が入る袋だ。

それと手のひらサイズの球体だが、これはマジックテントと言うものらしい。

球体に魔力を流すと、球体の中からテントが現れるのだそうだ。

しかもこのテント、隠蔽と結界が付与されているらしい。

それが分かったライトは、こんなおっぴろげな草原で地べたに座り地面に色々な物を広げているのもどうかと思い、広げた荷物を一旦収納へ片づけるとテントを広げて中に入る。

中は大人が三人寝れそうな大きなベッドが一つ置かれており、他には高級そうなソファーやテーブル、一口コンロが置いてある。そして、このコンロも魔道具みたいだ。

これだけ置いてあってもまだまだ広い空間だ。めちゃくちゃお金の掛かってそうなテントだった。


そんなだだっ広いテントの空いているスペースに座り込むと、改めて色々な物を収納から出して鑑定し始める。

とは言え、ヒールポーションとマナポーションはいいだろう。皮の水筒も普通の物だし、毛布は貴族が使うような高級な毛布だ。

しかし、剣。これがまた普通の物では無かった。

一本は予備なのだろう。鋼と言う金属で造られた剣なのだが、もう一本が何とミスリルと言う希少な金属で出来た剣であった。

と言うより、そんないい剣を持っておきながら、オークファイターに殺されたブラスは一体何なのか。

それはともあれ、他には弓だが、エルダートレントと言う魔物の枝で造られた弓と、トレントと言う魔物の枝で造られた弓だった。トレントは希少とも何とも出なかったが、エルダートレントと言う魔物は希少な魔物らしい。そして、矢は疾風の付与が付いた矢が20本、麻痺の付与が付いた矢が20本、後の残りは普通の矢だ。

そして杖だが、弓と同じくエルダートレントとトレントの枝で出来ている。

短剣も鋼の短剣が三本。

そしてブレストプレートだが、これも希少なミスリル製だ。あれだけオーク共にボコボコにされてたのに、この鎧には傷一つない。どれだけ金持ちの貴族なのだか。

更に、ローブはスチールスパイダーと言う、蜘蛛から採れる糸を紡いで作られたローブらしく物理防御が高く希少な物らしい。


「あ~、だからオークファイターの一撃で気絶だけで済んだのか。」


ライトがあの一撃を喰らったら、多分肉片も残らないくらいグチャグチャになってたと思う。鑑定して見て納得した。

そしてダナが着ていた革鎧だが、アイアンスネークと言う蛇の魔物の革で造られた物らしく、これも希少な魔物の革らしい。その名の通り、鉄の防御力があるくせに革なので軽い。素早さ重視のダナならではの装備だろう。


ただ、悲しいかな全てライトにはサイズが合わない。

それはそうだ。ライトはまだ10歳。身長も低ければ、身体だって痩せこけたままなのだ。そんなライトが大人用のブレストプレートを着ると思った通りブカブカで、ローブは長すぎブカブカ。革鎧は胸の所がねぇ・・・。と言う訳なので、せっかくの防具にも関わらず着る事が出来なかったのだ。

「ま、何処かの街で売ればいいか」とは思うライトだが。


最後にお金の入った袋だが、大量の硬貨が入っていた。

白銀色した硬貨が5枚。金色をした硬貨が31枚。少しくすんだ銀色の硬貨が27枚、土色の硬貨が52枚。

そもそも片田舎に住むライトは、お金を見た事が無い。なので、これだけの硬貨を見ても価値が全く分からない。

だが鑑定してみると白銀色の硬貨が白金貨、金色の硬貨が金貨、銀色の硬貨が銀貨、土色の硬貨が銅貨と言うらしく、白金貨>金貨>銀貨>銅貨の順で価値があるのが分かった。

そして、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚となるらしい。


「いや~、鑑定くんって超優秀!あの三バカに買われたお陰で、俺は一夜にして大金持ちになっちゃった!」


そんな事を叫びながら、ホントにあの三バカに感謝をするライトであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る