第4話 圧倒的なまでの
ミニィは決然と何もない平原を見つめてから、ここから少し離れたところにある、先程アルトーが放った〝ソルブラスト〟なる魔法によってできたクレーターを見つめる。
(……うん。無理)
こんな物凄いこと、できるわけがない。
憧れ全開の目でこちらを見つめてくる村の子供たちも含めた、皆の期待に応えられないのは心苦しいが、つい先程初めて魔法を見たばかりの自分が、魔法王国随一の魔法使い以上のことができるとは到底思えなかった。
いや、そもそも魔法を使うこと自体が、到底できるとは思わなかった。
(でも、ここまで来て何もしないのは、失敗することよりもダメなことだから……)
なるようになれの精神で、ミニィは両掌を天に掲げる。
それだけで「おぉっ」と歓声が上がるのは、プレッシャーにしかならないからもうほんと勘弁してくださいと心の中で思いながらも、どうにかこうにか魔法の発動を試みる。
(えと……アルトーさんの〝そるぶらすと〟をイメージして……おばあちゃんが言っていたとおり、神秘を使うような感覚で……)
と、色々と考え込んでいたせいで俯き気味になっていたミニィの背後から、「おおぉッ!?」と先以上の歓声が聞こえてくる。
(もしかして成功した!?)
思わず喜びかけたミニィだったが、いつの間にか自分の足元に、
まさかと思いながらも、恐る恐る頭上を――掲げた両手の向こう側を見上げると、
そこには、アルトーがつくったクレーターと同程度――直径一〇メートルに及ぶ巨大な魔法の太陽が具現していた。
本物の太陽に比べたら矮小だが、アルトーが具現した太陽に比べたら圧倒的としか言い様がないほどの大きさだった。
「あ、が……」
アルトーが、開いた口が塞がらないどころか、今にも顎が外れそうなほどに驚愕を露わにする。
「なんだあの大きさは!?」
「いや、それ以前に彼女は呪文を唱えていなかったぞ!?」
「無詠唱魔法とでも言うつもりか!? バカな!? あり得ない!?」
「こここここれっ! そのまま投げちゃって大丈夫なんでしょうかっ!?」
ミニィの心配は、ごもっともだった。
アルトーの掌大の〝ソルブラスト〟であの威力なのだ。
その数百倍の質量を誇るミニィの〝そるぶらすと〟を、そのまま投げてしまったらどうなるか……事の重大さに気づいた観衆たちが
「いやいやいや。いくらなんでも、こっちまで巻き込まれることはないだろ?」
「つっても、アルトーとかいう奴の、しょぼい大きさであの威力だぞ?」
「そうだよ……下手すっと俺たちもまとめて吹っ飛んじまうかもしれねえぞ!」
村人も、《神教会》の聖職者も、
「結界の神秘を使える者たちは皆の前に!」
「ミニィくん! 私が「投げろ」と言うまで、〝ソルブラスト〟が小さくなるようイメージし続けなさい!」
「ゼーマンさまっ!! このまま消えるようにイメージするのはダメなんですかっ!?」
「一度発動した魔法を無理矢理中断したところで暴発を招くだけだ! 言うまでもないが、今の状態で保持し続けていても同じように暴発する!」
「~~~~~~~~~~っ!!」
声にならない悲鳴を上げながらも、自らが生み出した魔法の太陽に向かって(ちいさくな~れ、ちいさくな~れ)と念じる。
それに合わせて太陽は少しずつ小さくなっていくも、それ以上に、内包している爆発的なエネルギーが今にも破裂しそうなほどに膨れ上がっているのを感じ取りで、ミニィは今にも泣き出しそうなくらいに涙目になってしまう。
(どうしようどうしようどうしよう!)
太陽が少しでも小さくなるよう念じながらも、心の中で泣き言を漏らす。
見ようによっては器用だと言えなくもない。
(あっ! そうだっ! わたし聖女なんだから〝そるぶらすと〟を投げた後に、結界の神秘でみんなを護れば……あ、でも、聖女の力って治癒と浄化に特化してるって話だから、結界の力はそんなに凄くはないかもっ!? だとしたら、みんなどころか、わたし自身も守れないんじゃ――)
「今だッ!! 投げろッ!!」
「は、はい――――――――――っ!!」
ゼーマンの叫び声が聞こえた瞬間に思考が吹き飛び、心なしか小さくなった太陽を眼前に拡がる平原目がけて全力で放り投げる。
最早四の五の言っていられるような状況ではなくなったので、できることはしなきゃとすぐさま前方に両掌を掲げ、結界の神秘を発動した。
直後、
「!?」
自身の眼前に、城壁を想起させるほどに巨大な壁型の結界が具現したことに驚き、
「ひぃ~~~~~~~~~~っ!?」
太陽が地面に触れた瞬間に起きた大爆発に、情けない悲鳴を上げた。
結界の形が壁型だったがゆえにその脇を抜けてきた爆風が吹き荒れるも、爆発そのものは完全に防ぎきることに成功。
ミニィ自身は勿論、村人も、《神教会》の聖職者も、
ミニィは結界を解除し、その向こうに見える、自らがつくった直径数百メートルにも及ぶ巨大クレーターを見て、腰が抜けたようにその場にへたり込む。
というか、腰を抜かすどうこう以前に全身に全く力が入らない。
立ち上がれる気も、全くしなかった。
「その様子……さすがに今ので魔力が切れてしまったようだな」
「あれほどの威力の魔法を発動したことに加えて、それを防ぎきる結界を展開しましたからね。いくら聖女で賢者という規格外な彼女でも、魔力切れは避けられなかったということでしょう」
足音ともに背後から声が聞こえてくる。
どうにかこうにか振り返ると、そこにはゼーマンとクヤクトの姿があった。
「ですが、これで……」
言いながら、クヤクトは呆然としている観衆たちに視線を巡らせ、言葉をつぐ。
「賢者としては勿論、元々異論が上がらなかった聖女としても、ミニィくんが本物であることに疑いを抱く者はいないでしょうな」
「確かに。……アルトー。これほどの力を見せられては、
アルトーに視線を移しながら紡いでいた、ゼーマンの言葉が尻切れていく。
何事かと思ったミニィはアルトーを見やり……すぐさま彼から視線を逸らした。
異常に気づいた他の者たちもアルトーを見やっては、ミニィと同じように視線を逸らしたり、思わず掌で口を押さえたり、何だったら声を上げて笑っていたりと、様々に失礼な反応を見せていた。
なぜなら、アルトーのどことなく不自然だった前髪が爆風によって盛大にめくれ上がり、生え際戦線が敗北寸前まで追いやられている様が露わになっていたから。
致命的に手遅れなタイミングで無様な頭皮を晒していることに気づいたアルトーは、両手を頭に当てる。
案の定、前髪を目いっぱい伸ばして
さすがに居たたまれなかったのか、アルトーの主であるゼーマンは場の空気を変えるために一つ咳払いをし、
「……あれで、苦労している男だからな」
どうにかフォローを試みるも、内容的にただの追い打ちにしかなっていなかったため、そこかしこから笑い声が上がってしまう。
ゼーマンの隣にいたクヤクトも、
「ちくしょう……」
アルトーは糸が切れた
「ちくしょぉおおおぉおぉおおッ!!」
地面に両手を突いて泣き崩れた。
そんなアルトーの肩を、エヴァは聖母のような微笑を浮かべながら優しく叩く。
そして、涙に濡れた顔を上げるアルトーに向かって、微笑に負けず劣らず聖母のように慈愛に満ちた声音でこう言った。
「五〇〇〇ゴル。耳を揃えてきっちり払いな」
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