第149話:付与魔法使いは気にする
「ん……えっ?」
どうやら、成功のようだ。
目を開けたリザリーさんが、目の前にいる俺に驚いていた。不審者だと思われてしまったのか、ベッドの上でガバっと身体を起こして身構えている。
まあ、リザリーさんは事情を知らないので、見知らぬ俺を警戒するのは当然だ。
「ママ!」
そんな中、ニーナとマリアがリザリーさんに抱きついた。
「良かった! 目が覚めたんだね!」
「アルスさん、一体どうやって……?」
そう言えば、まだ二人には付与魔法によるヒールを見せたことがなかったな。薬すら使わずに治したことで驚かせてしまったようだ。
「アルスは不思議な付与魔法で治癒もできるのです」
「怪我だけじゃなく、病気まで治せてしまうのは驚いたわ」
セリアとユキナが俺の代わりに説明してくれた。正確には『治療』ではなく、単に元の状態に戻したのだが、話すと長くなるのでこれで良しとしよう。
「ちょっと特殊なやり方があるんだ。ついでに背中の傷跡も消えているはずだ」
俺の言葉を受けて、ハリーさんが確認する。
「ほ、本当だ……! こ、こんな治癒魔法見たことがない! い、いったい君は……」
かなり驚かせてしまったようだ。
回復魔法は自己治癒能力を引き上げるので、傷跡を元通りに復元することはできない。これが付与魔法との一番の違いだろう。
「いや、そんなことより本当にありがとう。アルス君がいなければどうなっていたことか……」
ハリーさんが涙ながらに感謝の言葉を口にする。
ニーナとマリアの二人も続いてお礼を言ってくれた。
「えっと……あなた、アルスさんと言うのね」
「ええ」
まだリザリーさんは経緯を知らないが、三人の言動で俺が怪しい者ではないと分かってくれたようだ。警戒感が消え、穏やかな表情になっている。
「私、魔風症を発症して、それからずっと眠っていたみたいなの。だからまだよく分からないのだけど、あなたが助けてくれたのかしら?」
「ええ。結果的には……ですが」
「そう、やっぱり。本当にありがとう。なんとお礼して良いか……」
正直、こんな風に感謝されるのは複雑な気持ちだった。
ニーナとマリアは母リザリーさんのために命懸けで王都へ赴き、治療薬を手に入れた。俺はそのための手助けだけをするつもりだった。治療薬だけで無事に目覚めた状況なら、俺はリスクが未知数な付与魔法を使うことはなかった。
結果的にはリザリーさんを救うことはできたが、その過程は二人の労力を無視するようなもの。何もせず見殺しする選択肢はなかったとはいえ、モヤモヤ感が俺の中に残る。故に、やや歯切れの悪い返答になってしまった。
「アルス、どうかしましたか?」
俺の様子がおかしいと感じたのか、セリアが尋ねてきた。
「いや……何でもない」
「それなら良いのですが。もしお二人の努力が無駄になってしまった……と思っているなら考えすぎですよとお伝えしようと思いました」
……鋭いな。
まさか俺が考えていたことをピタリと当ててしまうとは。
セリアは言葉を続けた。
「確かに、アルスのお力がなければリザリーさんを救うことはできませんでした。でも、見方を変えれば、ニーナたちがアルスをここに連れてきたからお救いすることができたのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます