第148話:付与魔法使いは奥の手を使う

 注射失敗や破損を考慮して用意していたものだが、まさかこんな形で役に立つとはな。少し値段が張る薬なのだが、もし使うことがなかったとしても、アイテムスロットに入れておけば腐ることはないので損はないという算段だった。


「と、とにかく助かった……! では、さっそく……」


 すぐさまハリーさんは、二本目の薬をリザリーさんに追い打ちする。


 すると——


「少し顔色が良くなったような……? いや、しかし……」


 通常の二倍の量を投与した甲斐があり、ついに目に見える効果が現れた。


 しかし、何分待っても目を覚ますことはなかった。それどころか、一瞬顔色が良くなったかに思われたリザリーさんはまたもや苦しそうな状態に戻ってしまっている。


 いや、それだけじゃない。


「ど、どういうことだ……⁉︎ リ、リザリーの魔力が弱まっていく……」


 ハリーさんが悲痛な声を漏らした。


「ママ!」


「しっかりして!」


 容体の急変にパニックになったニーナとマリアがリザリーさんの身体をゆさゆさと揺らす。


 そんな中、ソフィアがぽつりと言葉を漏らした。


「もしかすると、事態は思っていたよりも深刻かもしれぬな……」


「どういうことだ?」


「どう見てもリザリーは魔力欠乏を起こしておる。普通は魔物の魔力が抜ければ、代わりに身体は自己魔力を生成するものじゃ。じゃが、リザリーの魔力は弱まり続けておる。つまり——」


 ソフィアは一旦の間を置いて、言葉を続けた。


「手遅れかもしれぬということじゃ」


「……っ⁉︎」


「巨大な魔力が身体を蝕んだ結果、既に身体組織を破壊し、魔力生成機能を失ってしまっていたとしたら……自力で生命を維持できないということになってしまうのじゃ」


 普通、魔風症で魔力生成機能を失うことはない。しかし、リザリーさんの場合はキャパを超えた量により負担がかかりすぎてしまったということか。


 つまり、治療薬がきっかけになって最悪の事態に……いや、魔物の魔力を抜く必要はあったし、魔力が抜ければ遅かれ早かれ同じことだったのかもしれない。


 いや、今はどうでもいい。反省は後でじっくりすればいいんだ。


「つまり、逆に考えれば不調を起こす前の状態に戻れば助かるってことだよな」


 薬で治るのなら俺が出しゃばる必要はないと思っていたが——仕方ない。


 一か八か、付与魔法を試すとしよう。単純な怪我の治療以外でヒールを使ったことはあまりないので、効果の保証はできない。だが、このまま死なせてしまうよりは、今俺にできることをやり切った方がいい。


「ヒール」


 俺は、リザリーさんに右手を翳した。


 外部からの影響がない、自然な肉体に戻すイメージを付与する。


 白い光がリザリーさんの身体を包み込み、数秒が経過した。


 さて、結果は——

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