第143話:付与魔法使いは落ち着かせる

「離せ! 話すのじゃ!くっ……! ワシの身体は切り刻もうとエルフの誇りまでは奪えると思わないことじゃ!」


「すみません! ちょっと話を聞いてください!」


「私たち悪者じゃないの。何もしないから!」


 ジタバタと暴れるソフィアを抑えていると、ニーナとマリアが俺たちに頭を下げてきた。


「すみません! 長老が早とちりしてしまって……」


「長老⁉︎」


「はい。お元気ですけど実は結構な歳で……話せばわかると思うので、落ち着くまで少し待ってもらえればと」


「なるほどな。分かった」


 このまま強行して里の中に入ればトラブルになる可能性が高い。ひとまず、ソフィアと落ち着いて話ができるまで待つことに。


「パパ〜、出てきていい?」


 いつの間にか雲隠れしていたシルフィが少しだけ顔を出して尋ねてきた。


 ソフィアに姿を見られることにはなるが……まあ、ニーナとマリアに見られている時点で隠しておく必要もないか。


「いいよ」


 すると、精霊界から出てきたシルフィはソフィアの前までパタパタと飛んでいった。


「お久しぶり、ソフィア」


「……なっ⁉︎」


 シルフィが手を振ると、ソフィアは驚いていた。初めてシルフィを見た者は皆驚くのだが、ソフィアに関してはやや反応が特殊だった。


「シルフィ様⁉︎ ど、どうしてここに⁉︎」


「旅をしているの。アルスはパパで、セリアとユキナはママだよ!」


「パパ⁉︎ ママ⁉︎」


 もともと面識があったのか? ソフィアはシルフィを知っているらしかった。


 状況が飲み込めずにいたところ、シルフィが俺の方を向いて説明してくれた。


「昔ソフィアが精霊の森で倒れていたところを助けてあげたことがあるの」


「なるほど……」


 精霊もエルフも長寿であるが故にこんなこともあるのか。


「ということで、パパたちは怪しいものじゃないの。分かってくれた?」


「すまなかったのじゃ。ニーナたちの戻りが遅くてついピリピリしてしまっての……」


 落ち着きを取り戻したソフィアは、脱力していた。


「セリア、ユキナ。もう大丈夫だ」


「はい」


「ええ」


 俺の合図で、二人がソフィアへの拘束を解いた。


「ソフィアおばあちゃん。アルスさんたちは、人間に囚われていた私たちを助けてくださったばかりか、里までわざわざ送り届けてくださったのです」


「私たちの命の恩人なんです」


 ニーナとマリアがこれまでの経緯を説明してくれた。おかげで誤解は完全に解けたようで、俺たちへの敵意は完全になくなった。


「長い道のりだったじゃろうに、わざわざ送り届けてくれるとはな。まさか、そんな人間がいるとは思いもしなかったのじゃ……。なんと詫びればいいやら」


「まあ、エルフの里とはちょっとした縁もあってな。昔、父さんがここで世話になったらしくて、恩返し……みたいなところもある」


「あの少年の……! その息子か! なるほどの……全部繋がったのじゃ」


 俺は、へたり込んでいるソフィアに右手を差し出した。


「それより、悪かったな。落ち着いて話をするためとはいえ、拘束してしまって」


「謝ることはないのじゃ。さっきはそうするしか方法がなかったじゃろう。それにしても、お主ら強いのじゃな。このワシが全く勝てる気がしなかったぞ」


 俺の手を取って立ち上がったソフィアは、足についた泥を払いながらそんなことを言う。


「色々とあって、強くならざるを得なくてな。それより、里に入っても?」


「もちろんじゃ。ゆっくりしていってくれ」


 ということで、当初の予定から少しばかりトラブルはあったものの、無事にエルフの里にニーナたちを送り届けることが出来たのだった。

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